「適材適所」で使い分ける。プロのイラストレーターに聞く、Adobe Expressの活用方法
アイドルや声優、アーティストのキャラクターやグッズの制作、アニメ作品、テレビ番組のロゴデザインなど、数多くのイラストやデザインを手掛けられている北沢直樹さん。独特の世界観を持つキャラクターや、カラフルでポップなテイストの作品のほとんどがアドビのツールを使って描かれています。
現在、制作にAdobe IllustratorやAdobe Expressを使用されているという北沢さんは、どのようにしてアドビのツールに出会い、イラストレーターを目指すようになったのでしょうか。また、プロのクリエイターとして、アドビのデザインツールをどのように活用されているか、具体的にお話を伺いました。
北沢さんがアドビの製品に出会ったのは大学生の時。大学に入学した時からイラストレーターになることを目指していたのかというと、そうではありませんでした。
「元々は専門学校で3DCGを勉強していました。当時はピクサーのアニメ作品をよく観ていて、漠然と『トイストーリー』や『バグズ・ライフ』みたいな映画を作ってみたいと考えていたんです。ただ実際にやってみると、モデリングやレンダリングが本当に難しくて。心が折れそうになっていたところに、たまたまAdobe Illustratorの授業を受ける機会があり、その時に初めてアドビの製品に出会いました。ペンツールを使って綺麗な線を描くのが嬉しくて、トレースの練習も全然苦になりませんでした。Illustratorを使って自分の好きなものをどんどん描いていくうちに、『あ、この道でやっていきたいな』と思うようになったんです」
北沢さんは、幼少の頃からイラストを描くことが好きだったと言います。純粋に好きなことを突き詰めたいという思いが、デジタルスキル向上のモチベーションになり、イラストレーターとして就職を決意することになったのです。
Adobe IllustratorとAdobe Express。強みを活かして使い分ける
「365日、使わない日がない」と言ってもいいほど、Illustratorを愛用している北沢さん。イラスト制作だけでなく、バナーも、メモ書きも、プレゼンも企画書もほとんどIllustratorを使って作成されています。
一方で、近年では直感的な操作で手軽にデザインを作成できるアプリ「Adobe Express」を制作活動に取り入れる機会も増えたと言います。Adobe Expressには無料プランとプレミアムプランがありますが、Adobe Creative Cloudの有償プランに含まれている場合、プレミアム素材や機能を追加費用なしで利用することができます。北沢さんは、Illustratorを使いながら、Adobe Expressをどのように活用されているのでしょうか。
「Adobe Expressは、SNSの投稿画像を作ったり、デザイン案を探したりする時に使用しています。
もともと誰でも感覚的に使えるツールではあるのですが、複数オブジェクトを組み合わせてデザインを作る感じがIllustratorと似ていて使いやすいです。アドビのデザインツールを触ったことがあれば、すぐに使いこなせると思います。最近はデザイン専門学校の生徒さんにAdobe Expressを使った授業をすることもあるのですが、皆さんすごく飲み込みが早くて、10分くらいで使いこなしていますね。
特に、Illustratorを使って手書きの線画からキャラクターのイラストを起こした後、そのイラストをAdobe Expressで読み込んで、SNS用の画像を作ることが多いです。Illustratorのファイルは、Adobe Express上のCreative Cloud ライブラリを使って読み込むことができるので、この機能を知ってからはアプリ間での移動がとても楽になりました」
▲「ライブラリ」からAdobe Illustratorで作成した画像を読み込む
Creative Cloud ライブラリは、Photoshop や Illustrator などのアドビのアプリと様々なアセットを共有できるツール。複数のアプリを使用する場合、Creative Cloudライブラリを活用することで、簡単にファイルのやりとりを行うことができます。
SNS投稿ならAdobe Expressがおすすめ
仕事でIllustratorをメインで使用する北沢さんですが、アプリの違いを理解し、適材適所で使い分けることによって得られるメリットは大きいと言います。
「最近はSNS投稿用画像を作成する仕事も増えてきており、デザインを作成し、そのまま投稿の予約ができる Adobe Expressの『予約投稿』機能はとても重宝しています。
IllustratorやPhotoshopでデザインを作成する時は、画像を書き出した後、InstagramやTwitterのアカウントにログインして投稿する必要があります。一方Adobe Expressだと、事前に自分のSNSアカウントを連携させるだけで、アプリ上でそのままキャプションの追加や投稿の予約ができてしまうので、とても便利ですね」
「僕の場合は、平日の午後に投稿するとなかなか人に見ていただけないので、夕方以降に投稿すると良いかなと思っています。どの時間に投稿したらより多くの方にリーチできるかも、以前より気にするようになりました」
北沢さんは、Adobe Expressのアニメーション機能を活用してテキストに動きをつけ、インタラクティブなコンテンツを作ることにも挑戦されています。北沢さんの描く今にも動き出しそうなイラストに、さらに生き生きとした表情が加わります。投稿のタイミングだけではなく、投稿するプラットフォームに合わせて試行錯誤を続けていることが伺えます。
「SNS投稿で同じようなレイアウトにしたい時は、『複数ページ』機能を活用します。Adobe Expressでは画像の置き換えが簡単なので、1つのレイアウトを作ってコピーしておけば、統一感のある投稿をたくさん作ることができます。企業のSNSアカウントなどにも活用できそうですよね」
▲複数ページ機能で、統一感のあるレイアウトを作成
「もちろん物足りないと思う部分もあります。Adobe Expressでは、ピクセル単位でサイズを拡大・縮小をしたり、文字間隔を調整したりといった細かい微調整は難しいですね。細部までこだわったデザインを作成したい時は、Illustratorが便利だなと思います。あとは、ペンツールを使って直接線やイラストを描くことはできないので、やはり場合によって使い分けながら活用をしています」
Adobe Expressのアンバサダーとしても活動し、日本各地でワークショップやセミナーの講師を務められている北沢さん。学生や地方自治体、個人商店の店主の方など、様々なデザインのニーズを抱える人々との交流を通して、Adobe Expressの魅力について次のように語ります。
「日常的にSNS投稿のプランをする人や、パパッといい感じのものを作りたいという人には、とてもおすすめです。あと、実際にAdobe Expressの講師をしていて、デザインをしたことのない人が『自分でこんないい感じのものが作れた!』という自信につながっているのを見て、嬉しかったです。ぜひ多くの方に使っていただきたいなと思いますね」
新しいツールを活用し、必要なことにフォーカスする
見ているだけで笑顔になれるような作品の根底には、北沢さんの「見てくれた人にポジティブな影響を与えたい」という想いがあります。同じように見える線の一つ一つに気持ちをのせることで、微妙な表現が可能になり、見る人に与える印象が変わります。
北沢さんは、今後AI機能や新たなテクノロジーを活用した制作活動にも、前向きに取り組んでいきたいと語っています。将来、北沢さんはどのような作品を作っていきたいのか、どのようなクリエイターを目指しているのか、今後の目標や挑戦について聞きました。
「最近はAdobe PhotoshopやAdobe Expressのベータ版にAI機能が搭載されて話題になりましたが、今後もアドビのデザインツールにどんどんAIが搭載されれば良いなと思います。
おすすめの色味を提案してくれたり、自分のイラストのタッチで下絵を綺麗にトレースしてくれたら、時短にもなってすごく便利ですね。作業を効率化すれば、キャラクターの性格や背景にあるストーリーを考えることに集中することができます。そうすることで、もっと自分のキャラクターに厚みが出ると思うんです」
「キャラクターデザイナーとして、もっとたくさんの人に知ってもらえるような、みんなに愛されるようなキャラクターを作っていきたいですね。それがヒットコンテンツになればいいなと思っています。そのために食わず嫌いせず、色々なことに挑戦して勉強していきたいと思っています」
プロのクリエイターでありながらも、ストーリー作りを勉強するために漫画教室に通ったり、3Dを使った新しい表現を模索したりと、努力を惜しまない北沢さん。今後のご活躍にますます期待が高まります。
北沢直樹 | @naoki_kitazawa
イラストレーター、キャラクターデザイナー。デジタルハリウッド大阪校修了。株式会社ポリゴン・ピクチュアズを経て独立。’07年デザイン事務所Furikake Products設立。
アーティスト、アイドル、声優のキャラクター、グッズデザイン。「ONE PIECE」「攻殻機動隊S.A.C」などのデフォルメキャラクターデザイン。 ゲーム「真型メダロット」キャラクターデザイン。TBS「グッとラック!」、信濃毎日新聞「NEWS そこ知り隊」、全国自治宝くじにイラスト・ロゴなどを提供。Adobe MAX 2021 "CoCreate" イラストレーターに選出。AdobeMAX2022登壇。