ペーパーレス会議の良さと難しさとは?実際にやってみたらどうなる
資料はすべてデータで配布、パソコンやタブレット等で確認を行う「ペーパーレス会議」。導入までのハードルは高く感じても、コスト削減や会議参加者の負担軽減など、企業の生産性向上のため多くのメリットが得られます。
多くの企業でテレワーク導入が進んだ結果、会議や打ち合わせが日常的にオンラインで行われるようになりつつあります。それに伴い、どこにいてもデータ化した資料にアクセスできるようペーパーレス化し、紙の資料を準備しない「ペーパーレス会議」に取り組む企業も増えてきました。
最近では、大手企業だけでなく官公庁や中小企業などでも採用され始めてきたペーパーレス会議。その概要とメリット・デメリット、そして紙資料の会議との違いについて紹介します。
「ペーパーレス会議」とは、紙で作成した会議資料をデータ化し、タブレットなどで資料を見ながら行う会議のこと。ペーパーレス化が実現できると、書類や資料の編集が容易にでき、毎回、何十枚にもわたる会議資料を印刷するコストや時間が必要なくなります。
さらにはシステムやタブレットなどのデバイスを上手く活用すれば、紙の会議資料ではできない方法で有意義な議論を重ねることが可能に。変化の激しい時代にあって、会議で、迅速かつ的確な意思決定を実現することは、大きなビジネスチャンスを創出することにもつながります。
会議の質が高まり、スピーディーに
ペーパーレス会議になれば、スクリーンや、参加者に支給されているタブレットなどに発表者が見てほしい箇所を示しながら、説明できます。現在の論点に集中できるので、「今話しているのはどのページのこと?」といった確認も不要に。今まで以上に会議の質が高まり、生産性の高い会議運営が行えるようになるでしょう。
コストが削減できる
会議体によっては、膨大な資料が必要です。そのため、紙資料の場合は用紙代や印刷代、プリンターのメンテナンスコストや電気代がかかります。さらに、保管が必要な資料は保管スペースや保管費用、機密情報を処分するための廃棄コストなどが毎回必要となります。
ペーパーレス会議になれば、これらのコストを一気に削減可能。もちろん、紙や電気の消費を抑えられるのでCO2の削減にも貢献しています。
会議の準備にかかる作業負担を軽減できる
紙の資料だと、印刷して製本し、参加者の人数分あるかを確認したら、資料を配布しなければなりません。綴じた後に間違いが見つかれば、修正して、印刷し直す手間もかかります。
それがペーパーレスになると、データ化した資料を会議用のサーバーに格納するだけ。万一、会議直前に修正箇所が見つかっても、データを書き換えるだけで、紙で運用していたような手間はほとんどかかりません。
セキュリティを強化できる
置き忘れや紛失、盗難などによる情報流出のリスクが高い紙の資料と比べて、データ化した資料では、システム上でセキュリティを設定することで、閲覧を必要に応じて制限することができます。IDなどを発行して会議の資料に閲覧制限を設けたり、ダウンロードを禁止したりすることで、第三者への情報漏えいを防ぐことができます。
場所を選ばず情報共有ができる
資料がデータ化できるペーパーレスになれば、Web会議もスムーズに行えます。そのため、支社や支店などの遠隔地はもちろん、テレワーク中の従業員もリアルタイムで参加して、議論に加わることができます。従業員の生産性も高まり、出張費なども削減できます。
資料の一覧性が低く、見づらい
モニターの数やサイズによって限界があるため、電子資料は一覧性に問題が出てくるかもしれません。
タブレットなら、カラーでの閲覧はもちろん、文字も拡大表示ができるので視認性は改善できるでしょう。また、今でこそ一覧性はデバイスの影響を受けていますが、将来の技術革新により資料表示に優れたツールが開発されれば、この問題も一気に解消される可能性があります。
手書きメモが書けない
会議中、資料を見ながら気になるところを赤ペンなどで書き込みを入れていく、といった方法に慣れている人は、タブレットを不便に感じることもあるでしょう。
しかし最近では、タブレットなどを使用して従来の紙のようにデータの資料に直接書き込みを入れたり、あるいは書き込んだメモを他の参加者にその場で共有できたりもします。自分用にメモとして残すことも可能なので、導入時に自社のニーズに合わせたシステム選定が重要になるでしょう。
ITリテラシーが要求される
ペーパーレス会議を推進していくためには、参加者全員がITスキルを向上させ、データ化された資料を閲覧したり、メモを書き込んだりするためのソフトウェアを自由に使えるようにならなければなりません。従業員個々への研修フォローだけでなく、ペーパーレス会議のロールプレイングを、社員のITリテラシーに合わせて実施するようにしましょう。
ペーパーレス会議を導入すると、従来の紙運用の会議とどう変わるのでしょうか? ある中小企業を想定して、その変化を紹介します。
全国に5つの営業所、1つの工場を展開する食品メーカー(売上50億円、資本金8,000万円、従業員数約120名)。月に1回、全国から部門長・役員が本社(東京)に集まり経営会議を行っています。
事前準備
・ペーパーレス会議 導入前
会議に必要な資料を用意するのは、経営会議を運営している総務部のスタッフ(2名)です。
資料の中身は、各事業部門長(約10名)に連絡をとり作成を依頼し、データを収集したあとで印刷、製本を行います。資料は1回につき50〜80枚ほどになり、2名のスタッフは、今担当している業務を一時中断して、半日かけて事前準備の作業に取り掛かります。万一資料に間違いなどが見つかれば、その都度差し替えを行うので、それに加えて3〜4時間の残業をすることになります。
・ペーパーレス会議 導入後
まず、「収集、印刷、製本」といった後工程が一切なくなりました。また資料に間違いが見つかっても、本データを修正するだけなので、差し替えなどの手間もかかりません。ただ、正しいデータを納品してもらう必要があるので、各部門長へは、資料の作成ルールや納品期限、納品場所(サーバー)の共有は徹底するようにしました。
半日近く取られていた事前準備の時間が1時間ほどに。ペーパーレス会議になって、スタッフ2名の業務が大幅に短縮しました。それにより、余った時間は本来の業務に注力できるようになったので、生産性も高まります。
会議中
・ペーパーレス会議 導入前
本社に一堂に会して会議を開催。会議中は、各自に配布された紙の資料を確認しながら、発表者のプレゼンテーションを聞きます。ただ、参加者は興味のある箇所を優先することが多く、先のページを読み込んだり、話の終わったページで手が留まったままになっていたりすることが少なくありませんでした。
今どの部分を話しているのか分からなくなる参加者や、傍観しているだけの参加者もいて、会議に集中しているとは言えない状況が散見されました。
・ペーパーレス会議 導入後
ペーパーレス会議になって、業務効率と参加者の意識が大きく変わりました。テレワーク主体のワークスタイルになり、Web会議を導入。それによって、支社勤務や出張中の社員なども、その場からオンラインで参加できることになりました。
参加者は事前に共有されているIDとパスワードを入力して参加するため、強固なセキュリティのもとで会議を行えます。発表者は、参加者のタブレットに見てほしい箇所を表示しながら、プレゼンテーションを行えるため、参加者はテーマに集中できるようになり、それによって会議時間も大幅に短縮できるようになりました。スキマ時間を使って、事前に資料を確認して参加する部門長なども多く、以前よりも活発な議論を交わす場面も増えてきました。
また、気になるポイントがあれば、タブレットから資料に直接メモを書き込め、重要な内容はその場で参加者全員に共有できたりするので、紙よりも使い勝手の良さを感じる参加者が多いようです。
会議後
・ペーパーレス会議 導入前
会議資料のほとんどが社外秘(機密情報)のため、その場で回収。その後、管理している所定の場所にファイリングをし、一定期間を過ぎれば廃棄処分します。また、会議後に議事録を各事業部門長や役員にメールで配信。各自印刷をしてファイリングしており、手間を要しています。
・ペーパーレス会議 導入後
ペーパーレス会議になって、廃棄の手間とコストが一切なくなりました。また議事録については、会議後にサーバーにアップして参加者に共有するようになりました。それによって、各自の手間を省くことができ、さらにダウンロード禁止や読み取り権限などを細かく設定したので、リスク対策も強化できました。
コスト削減や業務の効率化を目指し、ペーパーレス会議を導入される企業が多いようですが、先に紹介した中小企業の事例にもあるように、濃密な会議を実現できるのも重要な目的です。
今、世の中はVUCAの時代と言われています。これは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの言葉の頭文字で、予測不能な状態のこと。そんな時代だからこそ、社内を活性化し、変革できるペーパーレス会議を導入して、競争優位性を高めることが、企業として生き残るためには大事になってくるのではないでしょうか。
Adobe Acrobatであれば、PDF書類の作成・編集や、クラウド上で複数人に共有しながらレビューすることが可能です。アプリケーションをインストールすればスマートフォンやタブレットでもPDFデータを確認できるため、企業のペーパーレス会議導入の一助となるでしょう。
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取材協力:横山公一さん(ペーパーロジック株式会社 代表取締役社長兼CEO)
公認会計士・税理士。1991年に監査法人トーマツに入所。1999年に創業メンバーとして金融特化型会計事務所を設立、管理資産額4兆円に成長させる。現在は、日本の生産性向上に資するペーパーレス化の普及に尽力。著書に『オフィスの生産性革命! 電子認証ペーパーレス入門』(久野康成監修、TCG出版)。
(執筆:西谷忠和 編集:ノオト)
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- リンク:テレワーク導入時のコミュニケーションの課題
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