アクセシビリティ

Adobe IDEAS 2006


ゲストセッション1 「Video meets Flash」

ゲストセッションの第一部はクリエイティブディレクターの菱川勢一氏による、映像とFlashの融合についての講演が行われた。同氏が代表をつとめるスタンダード・シリーズでは、数多くの企業の製品やブランド、サービスの広告展開を包括的に手掛けており、その領域はプロモーションビデオのみならず、DVD、Web、紙媒体などに広がっている。

NHK大河ドラマ「巧妙が辻」オープニングタイトル制作の過程

映像制作からキャリアが始まった菱川氏にとって、NHK大河ドラマの制作に関わることは夢の一つであったという。一方、クライアントであるNHKは、大河ドラマ「巧妙が辻」のオープニングタイトルについて、従来の登場人物の紹介形式ではない、斬新な表現を求めていた。それが今回の、これまでとは一線を画す、モーショングラフィックスを用いたオープニングタイトルにつながってる。

制作には、Adobe After Effectsをはじめとするさまざまなツールを使用。IllustratorやPhotoshopを利用して作成された素材を元に、レイヤーをいくつも重ね、奥行きのある動きを表現している。ハイビジョン放送用ということで、通常の放送用よりもさらに多くの容量が必要だったそうだ。オープニングタイトルとはいえ、時代考証に気を使わなければならなかった点や、NHKの大河ドラマという環境の中でCGという表現方法を認めてもらうまでの苦労話など、制作作業以外での体験談も披露された。

各企業におけるFlashデザインの役割

次に、Flashを利用した企業広告の制作シーンがいくつか紹介された。その一つが、最終的なプロット制作においてFlashを利用するだけに止まらない、クライアントとのコミュニケーション手段としてのFlashの利用法である。

ホンダ プロモーションビデオおよびWeb制作
スタンダード・シリーズでは、7月13日に本田技研工業株式会社から発表された新車「ストリーム」のプロモーションの一環として、キービジュアルの制作とイメージ映像、Web制作を担当している。キービジュアルのコンセプトになったのが、ストリームの車体からイメージされた「ゆらぎ」。そこで、まず「ゆらぎ」のイメージをクライアントと共有するために、複数の曲線を重ね合わせ、風の波となる曲線を描き出すプログラムをFlashのActionScriptで作成。次々にジェネレートされるゆらぎの曲線を直接クライアントに見てもらい、イメージするものを選びだした。できあがったゆらぎの曲線は、Illustratorで再度トレースされ、プロモーションビデオやWebサイト内のアニメーションで使用された。

IKEA Web制作
IKEAは、若い世代を中心に支持を受けているスウェーデンの家具メーカーだ。商品点数が膨大になることから、おのずとテーマは「検索」に絞られてくる。しかし、商品の特徴から検索するだけでは、既存のサイトと変わらない。そこで、スタンダード・シリーズでは、従来の検索機能にビジュアルを加えたWebサイトを構築することを提案した。通常、どのような商品でも検索機能を使う場合、サイズや色などを元に検索がおこなわれる。スタンダード・シリーズでは、検索方法のひとつとして交際年数や体重、愛情の深さなどから商品を選び出す方式を考え出した。ユーザーが予想もしない商品を選び出すことで遊び心をくすぐることにも成功している。

NTT DoCoMo Web制作
NTT DoCoMoが「展示会」をWebに再現する表現にFlash Videoの特長を生かしたPIP(Person in Presentation)を提案。男女のプレゼンテーターがWeb内の仮想空間を案内するWebサイトを制作した。グリーンバックで撮影された男女をAfter Effectsでキーイングし、アルファチャンネル付きのFLVに変換。Flashでオーサリングするまでの過程が紹介された。人物だけをキレイに抜き出すためには撮影時の照明が重要であることと、人物が静止しているときに「死んで」しまわないように、ループ時の「ゆれ」が重要であることが強調している。

スタンダード・シリーズが考えるVideo meets Flashコンテンツ

セッションの最後には「Video meets Flashなコンテンツであること」をテーマにスタンダード・シリーズが制作した自社のポートフォリオWebサイトの紹介と.flaファイルの解説が行われた。このWebサイトは、印刷のトンボを背景デザインとして用い、エントランスからプレゼンテーションルームまでをDVカメラで撮影したビデオを配置したデザインになっている。玄関に飾ってある企業理念のパネルにビデオカメラが寄るとインタラクティブなメニューが立ち上がり、企業理念を記したグラフィックを見られるという映像を軸にした仕組みや臨場感を持たせるために、三脚を使用せずに手持ちで撮影し、あえて手ブレを残している表現は、PVやCMを手掛けてきた菱川氏らしい演出といえるだろう。

.flaファイルの解説では、プレゼンテーションルームの入り口と部屋の奥に飾ってある額縁(これまでに手かげてきた作品が額に納まっている)とで、ビデオカメラのフォーカスが変わるカットが取り上げられた。ピントを送る、ピントを戻す、入り口にピンが合ったとき、奥の額縁にピンが合ったとき、の4種類のファイルをActionScriptで制御しているそうだ。

Flashはデザイナーにとっての共通言語

Flashとは?というモデレータの問いに対し、菱川氏は壇上で次のように語った。

「これまで、デザイナーと言えば、Webデザイナー、グラフィックデザイナーなど、それぞれの得意分野で分けられていたが、今ではその垣根がなくなりつつある。そうしたシームレスな環境の中で、Flashはデザイナーにおける共通言語になりつつある。Flashこそ、デザイナーにとっての紙と鉛筆であるのではないか。」

アイデアを視覚的なプレゼンテーションツールとして積極的に利用している菱川氏ならではの言葉だ。今後ますます多様化するデザインツールの総まとめ役としてFlashが活躍することを期待していると語り、このセッションを終えた。