食欲を刺激する魅惑の写真を撮って作ろう - スマホで「できる」基礎からはじめる映える写真の撮り方と仕上げ方 第20回
夜遅くにネットを見ていると、「ああ、こんな時間になんてものを」と後悔する写真、それが食べものです。肉とか、ラーメンとか、唐揚げとか、ハンバーグとか、ピザとか、フライドポテトとか……。ハイカロリー&高脂質で、夜に食べるには罪悪感を抱くようなものほど食べたくなってしまいます。
上品で美しい料理の写真ではないけれど、なぜか無性に食べたくなる。空腹感を刺激する。そんな悪魔のような写真が世の中には存在するのです。
というわけで、今回は食欲をそそる写真について撮り方や仕上げ方を研究してみたいと思います。もちろん、撮影も写真の仕上げもLightroomのモバイル版で行ないます。
食欲をそそる写真は、お店のメニューに掲載されるようなきれいな写真の必要はありません。方向性としては、「高級より大衆」、「ヘルシーよりカロリー」、「白や緑より赤や茶色」、「上品より適度に下品」、「淡泊より濃厚」、そして「客観より主観」です。
たとえば、下のような料理の写真はありがちなのですが、これは食事という状況を記録しただけであって、食欲をそそるかというと……。情報量が多いため1品の存在感が薄く、写真から味が連想できない点もダメな要因かも。
「食べたい!」と思わせるには、①の肉とか、②の天ぷらとか、“ガッツリ”とした料理に迫って、存在感を強引にアピールするべきです。
それと、馴染みのない料理も避けたいところです。「食べたい」という気持ちになりにくいですから。
下の2点はパスタの写真ですが、左はちょっと味が想像しにくいですよね。食べたくなるというよりは、「おしゃれ」な印象が勝るのではないかと。
対して右のナポリタンは、だれでも想像できる味です。だからこそ、食べたくなる可能性が出てきます。緑/白系に対して赤/茶系の料理という点も、食欲をそそる要因といえます。
話は逸れますが、プロが写す写真より、素人の写真のほうが食欲をそそることが多々あります。計算されつくしたプロの写真は作品として見てしまうのに対し、撮りたいものを直球で写した欲望丸出しの写真は感情移入しやすいため、と僕は思うのですが。
下のようなカキフライ弁当の写真を堂々と公開するプロはいないはず。そもそも、弁当どころかカキフライであることすら分かりにくいし。料理の写真としてはとても残念な部類です。
でも、揚げもの+タルタルソース+中濃ソースの組み合わせは、ある意味“鉄板”です。そこにあるのがカキフライなのかコロッケなのかメンチカツなのかはさほど重要ではなくて、雰囲気と勢いで「食べたい!」と思わせることが大切なのです。
食欲をそそる写真は、素人だからこそ楽しめるジャンルといえます。写真が上手いとか下手とか、そんなことは関係ありません。本能の赴くままに料理に“グッ”と迫り、なめ回すような角度で写せばよいのです。
下は料理全体を写したものです。お店のメニューだとこんな感じの写真が載っていると思いますが、食欲をそそるというよりは、料理の説明っぽく感じますよね。
全体を写すと見る側も客観的なり、一歩引いた目で見てしまうんです。
そこで、料理に大胆に近づいて写した写真が下になります。
近づいて写すと料理以外の空間が少なくなり、さらに背後がぼけるため、手前の肉に視線が向く主観的な写真になりました。
上の写真から、カメラの位置を下げてさらに迫ります。覗き込むような視線をイメージして、ピントが合うギリギリの距離まで接近すると、下のようになります。
手前の「おいしそうな部分(=肉)」が写っていれば、周囲は切れてしまっても大丈夫。というより、料理以外の要素が画面から少なくなれば、それだけ料理に没入できるようになります。
大きく写すとピントがぼけるときは、ピンボケしない距離で写してから、Lightroomで切り抜けばOKです。
主観的な写真が撮れたら、あとはLightroomの役目です。明るくて暖かみのある色に調整すれば、ほら、下のような写真に大変身!
もしかしたら、撮影のテクニックよりLightroomの色調整の効果のほうが大きいかも。
おいしさをアピールする最大のポイントが、「明るさ」です。薄暗い料理の写真では食欲がわきません。とにかく、見た目よりも明るくすることを意識して、Lightroomの編集機能で仕上げましょう。
全体の色は暖かみのある暖色系。そして、ハッキリとした鮮やかさを出せば、たいていの写真はおいしそうに見えるはずです。
裏技というか、僕が好んで作り出すポイントが、脂っぽく光を反射しているハイライトです。ハイライトを強調して、いわゆる「シズル感」を演出しています。
以上を踏まえて仕上げたものが、トップにも掲載している下の写真です。
あまりお見せしたくはないのですが、撮影した状態はというと、かなり残念な感じです。蛍光灯の下でシャッターを切っただけの写真で、ハッキリいって、おいしそうには見えません。食欲が減退しそうです。
そうそう、肉系の写真では、「断面」を見せるとおいしさアピールがしやすくなります。ステーキとか、とんかつとか、ハンバーグとか、メンチカツとか。そんな類の料理は、ひと切れ倒したり切れ目を入れたりして、断面も写してみてください。
では、Lightroomのモバイル版で写真を編集していきます。
サムネール一覧で写真をタップして大きく表示したら、①左上の文字の部分をタップ。表示された一覧から、②「編集」を選んで編集画面で表示します。
編集作業は、「全体の色調整」と「部分的な色調整」の2段階に分けて紹介します。全体的な色調整だけで終わることもあるので、後半の部分補正は写真に応じて試してください。
最初に、全体の明るさを調整します。
①「ライト」ボタンをタップして、②「露光量」スライダーを右に移動して明るい写りに補正します。暗さが感じられないようにすることが大切で、明るくなり過ぎる部分が出ても、気にせずに「少し明るいかな」と思う程度に調整します。
①「白レベル」と、②「ハイライト」スライダーを左に移動して、明るくなり過ぎた色を抑えます。色や濃淡が分かる明るさにすればOKです。この写真では、肉の断面の色の違いが見えるように調整しました。
陰の濃い部分を薄くして、くすんだ印象を取り除きます。この調整は、①「シャドウ」スライダーを右に移動すると再現できます。
続けて、おいしそうな色に調整します。
①「カラー」ボタンをタップして、②「色温度」スライダーを使い、暖かみのある色にします。コツとしては、一度「普通に見える色」に調整してから、ほんの少し「色温度」スライダーを右方向に動かす感覚です。
この調整で、だいぶおいしそうな色に近づきました。
色の濃さやメリハリのある鮮やかさを出していきます。
①「彩度」スライダーを右に移動して全体を鮮やかに。もの足りない場合は、②「自然な彩度」スライダーを右に移動して色を整えます。
ここまでの作業でおいしそうな写真になればそれでOK。作業は完了です。
でも、この写真の場合はもう少しシズル感が欲しいところです。
なので、ハイライトを作り出してさらなるおいしさを演出していきます。
これから行う作業は、肉の表面で反射しているハイライトを強調する、肉の断面の赤みがもの足りないのでそれを改善する、そして、もう少し焼き色を濃くする、の3点です。
まずは、作業しやすい「断面の赤み」から補正していきます。使う機能は、「部分補正」の「補正ブラシ」ツールです。
①「部分補正」ボタンをタップしたら、②「+」ボタンをタップ、③「補正ブラシ」ボタンをタップして、④ブラシの設定機能を表示します。
補正を行う前に、ブラシの大きさやボケ足を調整します。
①のボタンを押しながら指を上下にスライドするとブラシのサイズが、②のボタンを押しながら上下にスライドするとエッジのぼかしが調整できます。③画面中央にブラシの形状が表示されるので、補正する部分が塗りつぶしやすいタイプにします。
肉の赤い部分を補正するので、①指でなぞって範囲を指定します。赤く表示された部分が補正される範囲です。
補正の範囲がはみ出たときは、②「消しゴム」ツールでなぞれば消去できます。範囲を追加するときは、③「ブラシ」ツールを使用します。
画面に追加された菱形のマーク(④)が、部分補正を行ったポイントの目印になります。
①「カラー」ボタンをタップして、②「彩度」スライダーを右に移動します。これで、くすんだ赤い色が鮮やかに蘇ります。さらなる赤みが欲しいので、②「色温度」スライダーを右に移動して暖かみを出し、③「色かぶり補正」スライダーをほんの少し右に移動して紅色っぽさを出しました。
赤い部分の色を濃くしつつ、シズル感を再現していきます。
①「ライト」ボタンをタップしたら、②「露光量」スライダーを左に移動して色の濃さを出します。続けて、③「白レベル」スライダーを右に移動して、脂っぽく反射するハイライトが目立つように調整します。
「露光量」で暗めに調整してから、「白レベル」で白を引き立てるように明るくすると上手くいきます。
次は、肉の焼けた色を濃くする調整を行います。
使う機能は、同様に「補正ブラシ」ツールです。別の場所に対して、異なる設定の部分補正を重ねるというわけです。
①「+」ボタンをタップしたら、②「補正ブラシ」ボタンをタップして、③ブラシの形状を調整。④焼き色を濃くしたい部分を指でなぞって範囲を指定します。
①「ライト」ボタンをタップしたら、②「露光量」スライダーを左に移動して色の濃さを出し、③「コントラスト」スライダーを右に移動してハイライトの輝きを強く、濃い色をより濃くします。
さらに、シズル感を出すために、④「ハイライト」スライダーを右に移動しました。「白レベル」スライダーが効果的な場合もあるので、写真に応じて使い分けてください。
この段階ではくすんで見えていても、次の「彩度」補正で色が出てくるので大丈夫です。
①「カラー」ボタンをタップして、②「彩度」スライダーを右に移動すると、暗く補正してくすんだ部分に色が出てきます。
場合によっては、③「色温度」スライダーを右に移動して暖かみを出すと効果的です。
焼き色の濃さが足りないときは、①「効果」ボタンにある、②「かすみの除去」スライダーを使って補います。右方向に移動すると色の濃度が上がりハッキリとした色調になるので、おいしそうに見える色に調整します。
ここで、補正範囲の修整方法を紹介しておきます。
たとえば、補正が強過ぎるなどで範囲を削除したいときは、①のボタンをタップして、②「消しゴム」ツールに切り替え、③補正しない部分を指でなぞって範囲から外せばOKです。この写真では、暗くなり過ぎた部分の補正を範囲から削除しました。
範囲を追加するときは、④「ブラシ」ツールを選んで、⑤指でなぞって選択していきます。
作業が長くなってきましたが、もう一度「補正ブラシ」ツールを使って作業を繰り返します。
今度は、ハイライトの輝きをさらに強調する作業です。食欲をそそる写真ではもっとも効果的で、実行しておきたい裏技です!
①「+」ボタンをタップしたら、②「補正ブラシ」ボタンをタップして、③ブラシの形状を調整。④ハイライトを強くする部分を指でなぞって範囲を指定します。
ハイライトの強さを増すには、①「ライト」ボタンをタップして、②「白レベル」スライダーを右に移動します。足りないときは、③「ハイライト」スライダーも右に移動したり、④「露光量」スライダーを右に移動して少し明るくすると効果的です。
画面上の菱形のマークは、部分補正を実行した印です。たとえば、最初に行った部分補正(断面の赤みを増す補正)をやり直したいときは、①その部分の菱形のマークをタップして、補正のスライダーを再調整すればOKです。
各部の補正を調整してバランスを整えたら、②のボタンをタップして確定します。
作例は少し広めに写っているので、料理だけに集中できるように余分な範囲をトリミングして取り除きます。
①「切り抜き」ボタンをタップして、トリミングする画面を表示します。
①四隅のマークを指でスライドして、切り抜く範囲の大きさを決めます。②枠の内部で指をスライドして範囲を決めたら、③のボタンをタップして切り抜きを実行します。
最後に写真全体を眺めて、不自然な明るさや色がなくなるように各補正を微調整したら作業は完了です。
とても長い作業になりましたが、やっていることといえば、部分補正を繰り返しているだけ。意外と単純です。
部分補正が自在に扱えるようになるとLightroomが一段と楽しくなるので、この機会にマスターしてみてください。
いつもながら思うことですが、Lightroomって本当にすごい。下の左の写真が右になるんですから。
作業してみて分かりました。「おいしそう」な写真はLightroomで撮れるし、作れるんです!
執筆者:桐生彩希
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