- 「ブランド体験(BX)」は、「顧客体験(CX)」より大局的な視点での評価を可能にする
- テクノロジーの進化だけでは企業が直面するプレッシャーには対応しきれない
- ブランド体験について考えることは、改めて「自分たちは何をする会社なのか?」を再考すること
「良い顧客体験の提供」に、悩み続ける企業
「『最適な顧客体験を提供する』などということは、諦めたほうがいいのかもしれない」
そんな考えがよぎるのならば、企業と顧客の関係にポジティブな進展がなかったと感じているのだろう。かれこれ20年に渡り、「(顧客との関係を育てるには)顧客体験がいかに重要か」という話がされてきたにも関わらず、だ。
顧客は、企業に対する不満を口にせずにいられない。次のような感情を持ったなら、顧客はすぐに製品やサービスの利用をやめてしまうだろう。
「客の希望をわかっていない」
「客を大事にしていない」
「話が通じない」
ところがこうした経験は、誰もが頻繁に直面していることではないだろうか。「顧客主体の時代」の現状として、これはかなり情けないと言えないだろうか?
この現状から企業が先に進むために、まずは、顧客体験(CX)を断片的に見るところから離れてみよう。発想を変え、「ブランド体験(BX)」を核とした、より包括的なイニシアチブを提案したい。
ブランド体験は、企業が顧客と接するすべてのタッチポイントをカバーする。顧客だけでなく、社員、パートナー、代理店、取引先など、すべての関係者も対象に含まれる。ブランド体験の優先度は、ユーザー体験(UX)の質に置き、カスタマージャーニー対策、デジタルとリアル両方のチャネル、そして戦略的に重要なテクノロジーがこれを支える。
顧客体験(CX)から「ブランド体験(BX)」へ
Eコマースが始まったばかりのころ、顧客体験(CX)とユーザー体験(UX)は、よく混同された。誰もが、よりよい体験の「考案/販売/提供」の設計図を確立しようと必死になっていた。当然ながら、webサイトのデザインとユーザビリティが注目された。webサイトこそ、UXの中心地だったからだ。しかし、顧客体験(CX)とはビジュアルデザインだけの問題ではない。そしてもちろん、会社との「デジタル」な取引に限られたものでもない。
そこで注目すべきなのが、「ブランド体験」だ。ブランド体験は、web、メール、ソーシャルメディアなど、人々と企業のあらゆる接点から引き出され、すべてのインタラクションと、それぞれがお互いに及ぼすインパクトの理解を基盤とする。
「顧客体験」という言葉を「ブランド体験」に置き換えると、バイヤー、クライアント、社員など、すべての関係者の行動や心理的プロセス(ジャーニー)を考慮する上で、思考の幅を広げることができる。
ブランド体験は、オンラインとオフライン両方のインタラクションの追跡と分析を伴う。自社ブランドだけではなく、競合ブランドとのやりとりも考慮の範囲となる。「そのブランドに関わるすべての人に及ぶ影響」という、より大きなビジョンに注目するのが、ブランド体験という考え方だ。
加えて、ブランド体験は、認知から成約までを指す一般的なカスタマージャーニーの範囲を超えている。具体的にはセールス、製品やサービス使用についてのサポート、顧客ロイヤルティとアドボカシーまで、ブランドと関わる人々が辿るジャーニーのあるべき姿を包括するものだ。
まとめると、ブランド体験という考え方は、ブランドに関連するあらゆる場面での体験を評価する、大局的な視点を提供するものといえる。同時に、ブランドに関わるすべての人間に対して、ブランドが及ぼす影響も考慮する。ここでいう「すべての人間」には前述の通り、顧客や社員から、サプライヤーや制作会社のような取引先まで、自社内外のあらゆる関係者も含まれる。
テクノジーだけでは企業のすべての問題を解決することはできない
テクノロジーの進歩に伴い、企業が直面するプレッシャーも増大した。顧客に対する目標、売り上げ目標、競争力に関する課題も、テクノロジーさえあれば解決できるはず、と思われている節がある。少なくとも希望的観測があることは確かだ。
しかし、現実にはテクノロジーがすべてを解決することはあり得ない。
ブランド体験を制したいのであれば、コンサルティングのMcKinseyが2009年の段階ですでに言及していた現実を認識しなければならない。特に、昔ながらの「ファネル」という概念とは決別すべき、という点だ。