人事担当者の「テレワーク」お悩みQ&A 法律、勤怠管理、給与、評価法を解説

テレワークを導入すると、多くの企業で課題となるのが「労務管理」。この記事では、人事業務の担当者が直面する課題についてQ&A方式で解説しています。

 

1. 人事担当者を悩ませるテレワークの「デメリット」

 

 

現在、政府や企業がこぞって導入を推進しているテレワーク。2020年3月、アドビがテレワークで働いたことのあるビジネスパーソンの男女計500人にテレワーク勤務のメリットや課題に関する調査結果」を行なったところ、「生産性が上がった」「ペーパーレス化が進んだ」といったテレワークのメリットが数多く挙げられました。

 

 

 

一方で、「時間管理が難しい」「会社から正当な評価を受けづらい」といったデメリットも浮き彫りに……。テレワーカーたちのこうした悩みは、人事部門の悩みにも直結しています。従業員の勤怠をどのように管理すべき? 法律の適用範囲は? テレワークにかかる費用は会社が持つべき? こうした労務管理の方法に迷う担当者も多いようです。

 

ここでは、テレワークを導入する際に直面しがちなお悩みについて、ぜひとも知っておきたいことをQ&Aでまとめました。

 

 

2. 人事担当者のお悩み解決 Q&A

 

 

お悩み1:テレワークにも労働基準法などは適用される?

 

適用されます。厚生労働省の『テレワーク導入のための労務管理Q&A集』には、導入時に押さえたい労働基準法のポイントとして次の5つが挙げられています。内容を引用しつつ、一つずつ解説していきましょう。

 

1.       労働条件の明示

 

事業主は労働契約締結に際し、就業の場所を明示する必要があります(※)。在宅勤務の場合には、就業場所として従業員の自宅を明示する必要があります。

(労働基準法施行規則5条2項)

 一見、「従業員の自宅」と記載する形で契約書を作り直し、改めて交わす必要があるように 読めますが、このルールが適用されるのはテレワークが始まってか ら雇用した新入社員のみ。すでに働いている従業員に関しては、改めて契約書を交わす必要はありません。

 

2.       労働時間の把握

 

使用者 は、労働時間を適正に管理するため、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。

                ※(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準・平成13.4.6基発第339号)

 

「労働時間を適正に管理」したい理由は2つあります。

 

   一つは、テレワーク実施中であっても、働いた時間に応じて給料を支払うため。もう一つは、労働者が長時間にわたって働きすぎることのないように、健康な 状態で働いているかどうかをチェックするためです。時間に応じた賃金の支払いが必要ではない裁量労働制や管理・監督者の場合も、健康管理の面から見れば、労働時間の把握は欠かせません。

 

必ず、全ての従業員から「始業時刻」「終業時刻」の報告を受けましょう。報告を受けるのは、人事部でも、チームリーダーでもかまいません。会社によっては、「始業時刻」「終業時刻」とともに、その日の「業務内容」も記載させ、案件の進捗や作業ボリュームも合わせてチェックするところもあるようです。

 

3.       業績評価・人事管理などの取り扱い

 

業績評価や人事管理について、会社へ出社する従業員と異なる制度を用いるのであれば、その取扱い内容を丁寧に説明しておく必要があります。また、就業規則の変更手続が必要となります。

(労働基準法89条2号)

ここで注意したいのは、「就業規則の変更手続き」という部分です。変更の方法は2つあります。一つは、テレワークのルールを追記する形で、就業規則を作り直す方法です。もう一つは、就業規則に「テレワークについては別途定める」と記載し、個別の社内規定として「テレワーク規程」などを設ける方法です。対応を急ぐ場合は、後者のように、社内規程を新たに定める方がスムーズかもしれません。

 

4.       通信費・情報通信機器などの費用負担

 

費用負担については、あらかじめ決めておく必要があります。なお、在宅勤務等を行う従業員に通信費や情報通信機器等の費用負担をさせる場合には、就業規則に規定する必要があります。

 

5.       社内教育の取り扱い

 

在宅勤務等を行う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合にも、当該事項について就業規則に規定しなければなりません。

 

(参照:厚生労働省『テレワーク導入のための労務管理Q&A集』)

 

上記の「4」「5」の「就業規則への規定」についても、「3」と同様です。また、「4」の費用負担については、「お悩みその6」で詳しく解説します。

 

 

お悩み2:労働時間の管理はどうすればいいの?

 

 

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「お悩み1」でも触れたように、「労働時間の把握」は企業の義務です。必ず、全ての従業員から「始業時刻」「終業時刻」の情報を受け取りましょう。この際、勤怠管理を報告するツールとしてよく用いられる方法は、次の3つです。

 

●Eメール

多くの人が慣れていることから、報告の際に時間がかからず、利用のストレスが低い点が最大のメリット。業務の報告などを同時にでき、情報共有もしやすいことから活用する企業が多い。

 

●クラウド型勤怠管理システム

勤怠管理をWEB上で完結できる有料のオンラインサービスです。パソコンやスマホなど、さまざまなデバイスから始業・終業を打刻でき、残業の申請と承認、シフト管理、給与計算などができることから導入企業が増加中。

 

●無料のコミュニケーションツール(Slackなど)

SNSやチャットのようなスピード感で、かつEメールよりも気軽にコミュニケーションが取れるのがコミュニケーションツール。無料でカンタンに導入でき、マルチデバイスに対応している「Slack(スラック)」などが人気に。

 

(参照:厚生労働省『テレワーク導入のための労務管理Q&A集』)

 

 

お悩み3:時間外労働や休日労働はどうなるの?

 

テレワーク中においても、時間外労働、つまり残業における賃金の支払いや、深夜・休日労働の割増手当は必要です。

 

従来の通常勤務では、従業員が独自に判断して残業を行い上長が追認することがあったとしても、テレワークの際は、残業したい従業員は必ず上長に申請し、上長が許可を出してから行う、というフローを徹底しましょう。同じオフィスで働いているときは従業員の残業の状況が見えやすい状態でしたが、テレワーク中は見えなくなるため、「申請・許可」のフローがないと残業の実情がわからなくなってしまい、長時間労働につながりかねません。

 

 

厚生労働省もガイドラインの中で、下記に当てはまる時間外労働は認めないとしています。

 

1.       時間外の労働について、使用者からの強制・義務がなかった場合

2.       業務量過多や不適切な期限のもので、使用者から黙示の指揮命令があったと思われる事情がない場合

3.       時間外労働を行なったことが客観的に推測できる事実がなく、使用者が時間外労働の事実を知らなかった場合

(参照:厚生労働省『テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン』)

 

 

お悩み4:中抜けやフレックス勤務はできる?

 

始業・終業の時刻を柔軟に変更できれば、テレワーカーは育児や介護などと両立しやすくなりますし、企業側も残業代を支払うことなく急な業務都合に対応できるようになります。これは、あらかじめ「始業・終業時刻を変更することがある」などと就業規則に定めることで、可能になります。

 

一方、「中抜け」とは、勤務時間の途中、定められた休憩以外で業務から外れる時間のことで、あらかじめルールを決めておくことが必要です。始業・終業時刻の繰上げ・繰下げによってカバーできれば、「中抜け」して所定労働時間勤務することもできます。

 

始業・終業の時刻を従業員が決められる「フレックスタイム制」は、テレワーク中も利用可能です。あらかじめ、就業規則に定め労働者代表と労使協定を結ぶことで導入できます。

 

(参照:厚生労働省『テレワーク導入のための労務管理Q&A集』)

 

 

お悩み5:通信費や水道光熱費は会社が負担すべき?

 

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このルール作りは企業によって異なります。ここでは、一般的な例を紹介しましょう。

 

●情報通信機器について

情報セキュリティの問題もあり、テレワークをする従業員に対して、パソコンやスマートフォンなどの通信機器を企業が貸与するケースが多い。新たに購入が必要となった際も多くは、企業が負担している。

 

●通信回線費用

テレワークを行う上でインターネット回線は不可欠のため、従業員の自宅にネット環境がない場合は費用を負担する会社が多い。回線工事費を出すケース、ポケットWi-Fiなどを契約して従業員に支給するケース、状況によっては「テレワーク勤務手当」という形で一定額を支給するケースなどがある。

 

●文具、備品、宅配便など

文具や備品に関しては、従業員の自己負担となるケースはほぼない。テレワーク中のオンライン会議で必須となるイヤホンやマイク、ウェブカメラなどが会社から支給されることも多い。

 

●水道光熱費

業務利用と生活利用を分けることが困難なため、給与規定の一部を変更し、「テレワーク勤務手当」の一部として支給をしている場合が多い。

(参照:厚生労働省『テレワーク導入のための労務管理Q&A集』)

 

 

お悩み6:テレワーカーの業務評価の方法は?

 

テレワークになったことで、「部下の仕事が見えにくく、評価が難しい」「上司からサボっていると思われないか不安」という声もあります。「業務評価の方法については、会社全体で十分に話し合ってルールを決め、全ての従業員と共有しておく必要があります。

 

厚生労働省は、ガイドラインの中で「労働者個々人の業務の範囲、具体的な業務目標(例:売上高、顧客訪問件数等)、業務目標の評価方法等についてテレワーク導入前や、テレワーク導入後の一定期間ごとに、共通の認識を持つため、話合いの機会を設けることが必要」としています。

 

テレワーカーが「職場に出勤しないことで正当な評価を受けられなくなった」「会社で勤務をする人に比べて、業績評価に差が生まれた」などということのないように、テレワーク中の業務内容、目標、評価制度、賃金制度などを詳しく共有しておきましょう。

(参照:厚生労働省『テレワーク導入のための労務管理Q&A集』)

 

 

お悩み7:テレワーカーの健康管理の方法は?

 

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通常勤務を行う場合と同様、テレワークで働く場合も、日々の健康のために下記を実施する必要があります。

 

●定期的な健康診断と、その結果を受けた措置

●ストレスチェック(常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務付けられる)

●長時間労働者に対する面接指導

(参照:厚生労働省『テレワーク導入のための労務管理Q&A集』)

 

また、テレワークの実施中はとくに、従業員が長時間にわたって働きすぎることのないように労働時間を管理することが欠かせません同時に、従業員の体調チェックの意味合いもこめて、定期的に面談の機会を持つとよいでしょう。

 

また、会社によっては、勤怠管理の報告とともに、その日の体調やメンタルの調子などを記載するところもあるようです。

 

3. 【まとめ】基本的にテレワークは通常勤務と変わらない!

 

 

ここまで、法律から健康管理まで幅広く労務管理のQ&Aを紹介しました。テレワーク中でも通常勤務と同じように労働基準法が適用されるので、一度「就業規則(社内規程)」や業務フローを定めてしまえば、あとは通常勤務とそれほど変わりません。

 

テレワークという新しい働き方は、移行するときが最も大変です。しかし、書類のペーパーレス化が進んだり、場所に限らず作業できる環境が整ったりと、働くことがもっと便利になり効率がアップするという、うれしい変化もきっとあるはず。

 

テレワークで避けては通れない書類のデータ化についても、AcrobatDCはセキュリティを守りつつ書類の閲覧や保存をスムーズにするなどの便利機能をたくさん備えています。ぜひテレワークの友としてご活用ください。

 

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取材協力:歌代将也

社会保険労務士。大手製紙メーカーにて人事労務・経営企画・労働組合等の業務に就き、働き方改革やテレワークの実践経験もある。2019年に独立し、「うたしろFP社労士事務所」を開設。

 

(執筆:矢口絢葉 編集:ノオト)

 

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