テレワークを効果的に導入するための
対策ポイント
働き方改革や、感染症の拡大に伴い、昨今注目を集めている「テレワーク」。
人材確保や感染リスク回避の観点から、導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。一方で、「どんな準備が必要になるのかわからない」という企業も多いはずです。そこで今回は、テレワーク導入に向けた準備と対策について解説します。
- テレワークとは?
- テレワーク導入前に対策できることは?
- 今すぐテレワークを始めるために必要なこと
- テレワーク導入時に検討すべきこと
- まとめ
テレワークとは?
テレワーク導入の準備と対策について解説する前に、まず「テレワーク」の概念について解説します。テレワークとは、オフィスへの出社を義務付けず、インターネットなどを利用してオフィス以外の場所で仕事をする働き方のことです。厚生労働省は「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義しています。
テレワークを導入することで、企業側には以下のようなメリットがあります。
- 柔軟な働き方を求める優秀な人材を採用・確保することができる
- 子育てや介護など様々な事情で出勤が難しくなった従業員の退職を防ぐことができる
- 災害やパンデミックが発生して出社が困難な状況でも業務を遂行できる
また、従業員側にも以下のようなメリットがあります。
- 通勤時間がなくなることで時間を有効活用できる
- 育児や介護をしながら仕事を続けることができる
- やるべき業務だけに集中できる
アドビが実施した「テレワーク勤務のメリットや課題に関する調査結果」に(*1)よると、テレワークを行い、自身の生産性が上がったと感じた人は、86.4%でした。テレワークは、企業側も従業員側もメリットの多い働き方であると考えられます。
テレワーク導入のデメリット
一方、周りに同僚や上司のいない環境の下、従業員が各々で業務を管理しなければならないテレワークには、以下のようなデメリットが考えられます。
- 情報漏えいのリスク
- 労働時間の管理が曖昧になる
- 正当な評価ができない
- コミュニケーション不足による業務効率の低下
導入を検討している際は、テレワークのデメリットを理解した上で対策をする必要があります。
テレワーク導入前に対策できることは?
それでは、これからテレワークを導入する場合はどのような対策を施すべきなのでしょうか。
テレワーク導入に向けた対策をご紹介します。
テレワークを実施する目的を明確にする
テレワーク導入にあたっては、まず「何のために導入するのか」という目的を明確にしておきましょう。導入目的が曖昧だと、継続するモチベーションが続かないからです。とはいっても、導入目的は企業によって様々です。ここからは、厚生労働省が実施したアンケート「平成26年度テレワークモデル実証事業」の回答結果をもとにテレワークの効果について紹介しますので、目的設定の参考にしてください。
生産性の向上
雇用面において37.6%の企業が「テレワークによって働き方の変革による生産性向上の効果があった」と回答しています。
テレワークは柔軟な勤務形態を取ることができるので、自分が一番働きやすいリズムを作ることが可能です。カレンダーツールなどで自身のスケジュールを共有しておくとよいでしょう。コアタイムや休憩時間、業務の終了時間などを伝えておけば、業務に集中することができ、生産性の向上につながります。
優秀な人材の採用
26.5%の企業が事業運営面において「テレワークによって人材確保・育成の効果を実感できた」と回答しています。テレワークという柔軟な働き方を提示することで、より多くの人材がその企業に集まってくることが考えられます。また、能力があるにもかかわらず家庭の事情により出勤・通勤が難しいという人たちもいます。テレワークの導入によって、そのような人材の採用が可能となります。
地方在住者の雇用創出
雇用面において7.7%の企業が「テレワークによって遠隔地の人材の雇用に効果があった」と回答しています。テレワークの大きなメリットのひとつは、働く場所を選ばないということ。都心から離れた地方で雇用を創出しつつ、競争の激しい都心以外でも採用活動ができますので、応募者の母数増加が見込めます。
オフィスコストの削減
事業運営面において20.5%の企業が「テレワークによって事業運営コストの削減効果があった」と回答しています。テレワーク人材が増えれば、必要最小限のオフィススペースで事業を運営することが可能です。また、社員全員が自宅で仕事ができるようになれば、オフィス自体が不要となり、家賃や光熱費などの固定費を削減することができます。
災害時への対策
事業運営面において18.8%の企業が「テレワークによって非常時の事業継続対策における体制整備に効果があった」と回答しています。災害が起こると、公共交通機関が乱れて通勤ができなくなるケースがあります。また、社員の身の安全を考慮して外出させないという対応が必要な場合もあるでしょう。そんなときテレワークを導入していれば、自宅にいながら仕事ができるので、安全にビジネスを継続することができます。
今すぐテレワークを始めるために必要なこと
テレワークを実施する目的が鮮明になったところで、導入について考えていきましょう。テレワーク導入の上で、最初に「環境構築」と「勤怠管理」の二点は押さえておきたいところです。
環境構築
テレワークを実現するために必要なことは環境の構築です。まず業務上のやりとりをスムーズに行うため、チャットやオンライン会議ができるコミュニケーションツールを導入しましょう。あわせて、クラウド上でデータの共有を行うための情報共有システムの導入も必要になります。テレワークには通信環境が必須ですので、社員のためのネットワーク管理やオフィスの外で使用するパソコンなどの機器管理をどうするか検討しましょう。
テレワークを実施する社員のために、パソコンやインターネット環境などのインフラ整備や、自宅での作業環境を整える指導など、様々な導入準備が必要です。
また、テレワーク導入のためのICT環境構築には以下4つの方式がありますので、自社にあった方式を選択するといいでしょう。
- リモートデスクトップ方式
オフィスに設置されたPCのデスクトップ環境を、オフィス外で使用するタブレットやPCなどで遠隔閲覧・操作するシステム。閲覧・作成したファイルはオフィス端末に保存されるため、情報漏洩が起きにくい。ただし、オフィス端末の電源を常時オンにしておく必要があるため、電気代などのコストが増大するリスクも。
- 仮想デスクトップ方式
オフィスのサーバから提供される仮想デスクトップに、手元の端末から遠隔でログインして使用するシステム。作業内容はサーバに保存されるため、手元の端末には残らない。ただし、サーバのリソースを配分して使用するため、設計職やデザイン職などマインパワーを必要とする専門職には不利になる可能性がある。
- クラウドアプリ方式
場所を問わずWeb上からクラウド型アプリにアクセスし、どこでも同じ環境で作業ができる方式。必要なアプリケーションがクラウドサーバ上にあるため、非常時にオフィスの端末が使えなくなった場合でも、他端末からアクセス可能です。ただし、メモリの消費が大きく、ある程度のマシンリソースが必要になるケースもある。
- 会社PCの持ち帰り方式
会社で使用している端末を社外に持ち出して業務を行う方式。従業員一人あたりに対してオフィス内外のPCを1台支給するだけでいいので、他の方式に比べるとコストが抑えられる。ただし、PCの盗難や紛失による情報漏洩が発生するリスクがあるため、十分なセキュリティ対策が必要となる。
勤怠管理
テレワークができる環境が整ったら、社員の自主性を信頼しつつ、チームとして円滑に業務を進めるためのガイドラインの作成を検討しましょう。労働基準法はテレワークでも適用されますので、ガイドライン作成の参考にするといいかもしれません。
また、勤怠管理ではクラウド上で利用できる勤怠管理ツールの導入も検討すると良いでしょう。プレゼンス情報を取得できるクラウドツールもありますので、テレワークのスタイルに合わせて選ぶことができます。
また、在宅勤務であっても「みなし労働時間制」を利用して労働時間を計算することができます。その場合は、以下の3つの要件を満たさなければなりませんので注意してください。
- テレワークが、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
- テレワークで使用しているパソコンが使用者の指示により常時通信可能な状態となっていないこと
- テレワークが、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
また、普段は実施していない朝礼や業務報告などの導入もよいかもしれません。勤怠管理という名目だけではなく、テレワークによるコミュニケーション不足の解消が期待できます。
テレワーク導入時に検討すべきこと
テレワーク導入後に運用方法を変更すると、会社側にも社員側にも混乱が起きかねません。状況に合わせて柔軟に変更していくことも大切ですが、導入前にしっかり検討しておくことで失敗を防ぐことができます。では、具体的にどうすればいいのでしょうか。ここからはテレワークで効果を出すために事前に検討すべきポイントをご紹介します。
テレワーク導入のプロセス
どのような流れでテレワーク導入を実施していくのか、明確にしておきましょう。
厚生労働省の「テレワーク総合ポータルサイト」では、テレワーク導入の大まかなプロセスは下記のように紹介されています。
1. 導入の目的と経営判断
・導入の目的・基本方針の決定
2. 推進体制の構築
・プロジェクトチームの結成
3. 現状把握
4. 導入に向けた具体的推進
・導入範囲(対象者)
・形態(在宅・モバイル・サテライトオフィス)
・労務管理制度の見直し
・社内制度・運用方法の整備
・システムの準備(セキュリティ)
・文書の電子化
・執務環境の整備
・教育・研修(意識改革)
5. 試行導入
6. 効果測定
・問題点の発掘
・対策実施
7. 本格導入
前述した通り、まずはどのような目的で導入するのか決めておくことが重要です。目的は複数あっても問題ありませんが、企業側と従業員側どちらにもメリットがある形で明示するようにしましょう。
その上で、現場の運用方法や業務内容などを把握し、テレワークを導入するにあたってどのような点が課題になるのかを洗い出します。あらゆる可能性を検討するためにも、社内の様々な部署と連携して検討を進めましょう。この時点で、導入範囲も明確にしておきます。
導入段階においても、社内での連携やサポート体制が必要です。そのため、導入プロセスの初期段階で関係部署を巻き込んだチームづくりが大切になります。特に、勤怠管理や評価を行う人事部、環境整備や書類の取り扱いを行う総務部、セキュリティ対策やインターネットツール導入を行う情報システム部では、必ずサポート体制を構築しておきましょう。
テレワークの導入が決まれば、対象となる部署や社員とのコミュニケーションも密に行い、導入に向けた進捗を随時報告しながら進めることがポイントです。導入時も、試行段階で課題の洗い出しや改善を繰り返し、少しずつ範囲を広げていくことで、スムーズな導入が可能となります。
業務の見直し
テレワークを導入したとしても、業務によってはオフィスへの出勤が必要なものもありますので、テレワーク可能な仕事と不可能な仕事を区分しましょう。その上で、ミッションや成果物を明確化し、業務プロセスを見直すことが大切です。
また業務内容の管理も、ジョブ型管理へと変更する必要があります。テレワークを行う社員に対しては、プロジェクトや業務単位で進捗や成果を管理できるような業務体制を考えましょう。
制度見直しや運用方法の策定
テレワークの導入プロセスで鍵となるのが、勤務管理や人事評価に関する制度、テレワークで仕事をするための運用方法です。働く場所や労働時間、通信費の負担、人事評価の基準、会議やコミュニケーションの方法など、これまでの制度を見直す必要が出てくるでしょう。
働く場所や労働時間、通信費の負担、人事評価の基準、会議やコミュニケーションの方法についての検討が難しい場合は、すでにテレワークを導入している企業の事例などを参考にするのもいいでしょう。
社内への浸透・教育
経営層の判断でテレワークを導入したとしても、その目的や運用方法を社員が理解していなければ上手く運用することができません。そのため、ある程度の運用方法が決まった段階で社内教育の時間を設け、テレワーク対象者はもちろん、対象でない人にも「なぜテレワークを導入するのか」導入理由やメリットを伝え、啓蒙をすることが必要です。
その際、導入範囲や対象者を明確にし、業務を見える化することもポイント。社内でのサポート体制も確立し、テレワーク開始後の従業員の不安や疑問をすぐ解消できるようにしておきましょう。
まとめ
情報通信技術の進歩とインターネットの普及に伴い広がりつつあるテレワーク。柔軟な働き方を求める多様な人材の確保や、業務の生産性向上、非常時におけるビジネス継続性など、様々なメリットがある一方で、労働時間管理や評価の難しさ、情報ろう洩リスクなど、解決すべき課題も多いのが現状です。
しかし、テレワークの導入に必要なものや、導入前に検討しておくべきことが明確であれば、決して難しいことではありません。テレワークの導入が目的とならないよう、まずは企業としてなぜ導入するのかを定めることが大切です。自社の持つ課題に目を向け、テレワーク導入によって解決できるものがないか検討してみてはいかがでしょうか。
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