テレワーク中の「コミュニケーション」や「マネジメント」の難しさに悩む企業が続出。これらをスムーズにするアイデアについて、長年テレワークを実践し、コンサルティングなども行う株式会社テレワークマネジメント代表・田澤由利さんに聞きました。
テレワークを導入したものの、社員たちが別々の場所で勤務することによって発生した「コミュニケーションの減少」と「マネジメント方法の変化」に悩む企業が増えています。
どうすればこれらへスムーズに対応することができるのでしょうか。2008年からテレワーク導入に関するコンサルティングなどを行ってきた株式会社テレワークマネジメント代表・田澤由利さんに解決方法を聞きました。
そもそもテレワークとは、「情報通信技術(ICT)を活用して、時間や場所を有効活用できる柔軟な働き方」のこと。働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大防止のために多くの企業で導入され、新時代の働き方としても注目されています。
アドビシステムズの調査(※)によれば、テレワークを体験したビジネスパーソンの86.4%が「業務の生産性が上がった」と感じていることが明らかに。同時に、93.2%が今後も定期的にテレワークを実施したいと回答しています。
こうしたメリットがある一方で、従来はなかったさまざまな悩みや課題も浮き彫りになっています。同調査でテレワーク中の心理的・身体的な課題を尋ねたところ、「同僚とのコミュニケーションの量が減る(38.4%)」との声が最多。次いで「時間管理が難しい(30.0%)」「つい仕事以外のことをしてしまう(28.6%)」といった声が続きました。
(※ 2020年3月19日~24日/都内に勤務し過去1か月以内にテレワークに初めて取り組んだビジネスパーソン800人へのインターネット調査)
2008年からテレワークにまつわるコンサルティングやツール提案を行ってきた株式会社テレワークマネジメントへも、よく似た相談が数多く寄せられているといいます。
同社代表取締役・田澤由利さんは、「多くの相談を受けますが、テレワークの悩みは多岐に渡るように見えて、実は大きく『コミュニケーション』と『マネジメント』の2タイプに分けられます」と話します。
【コミュニケーション】の悩みの代表例
・気軽に声をかけにくい
・情報共有がしにくい
・孤独を感じる
【自己管理を含めたマネジメント】の悩みの代表例
・時間管理がむずかしい
・(上司側は)「部下がサボっているんじゃないか」と心配になる
・(部下側は)「上司にサボっていると思われているんじゃないか」と不安になる
・人の目がないせいでついダラダラしてしまう
・つい仕事以外のことをしてしまう
テレワーク時の悩みのタネとなっている「コミュニケーション」や「マネジメント」。これらをスムーズに行うためには、何を心がければよいのでしょうか?
「テレワークだからといって特別な心がけは必要ありません。もともとうまく回っていたのに、テレワークになって急にできなくなったのだとすれば、環境が変わったから。つまり、従来の会社ができていたように『働く環境』を整えれば、2つの悩みは解決できます」(田澤さん)
“環境整備”とはズバリ、会社を構成するさまざまな要素をインターネット上のサービスやツールで代替すること。まずは、そもそも「従来、会社で発生していた要素」を整理します。
【従来の会社で発生して要素(例)】
・社内会議
・訪問
・報連相(ホウレンソウ)
・雑談
・時間管理
・進捗管理
具体的にそれぞれの要素別に、テレワーク対応させる方法を見ていきましょう。
「WEB会議ツールには、表情を見ながら話せるという電話にはない良さがあります。もちろん強要をしてはいけませんが、身振りや手振りから伝わる情報も多いので、しっかりと会話するときはなるべくビデオをONにするのがおすすめです」(田澤さん)
さらに、コミュニケーションを円滑にするためには、
・声が聞き取りやすいヘッドフォンやマイク
・写りのいいウェブカメラ
などの備品を導入できるとベストです。
また、WEB会議ツールのミュート機能とグループ通話を活用すれば、「気軽に声をかけにくい」「情報共有がしにくい」といったコミュニケーションの悩みも解決できるそう。具体的にはどうすればいいのでしょうか?
「一つのアイデアとして、出勤時間中は、チームのメンバー全員でグループ通話に参加するという方法があります。ただし、音声は聞こえるようにしておくものの、マイクはミュート、ビデオはオフに。こうすることで、用事があるときだけミュートを解除し、『山田課長、ちょっといいですか?』などと声をかけ、いつものようにコミュニケーションを取れます」(田澤さん)
長時間は難しくても、1日の中で決められた時間だけでもこのように話しかけやすい環境を作っておけば、出勤時と同じように、「メンバー全員といつでも気軽にコミュニケーションができる状態」に。WEB会議ツールを使った、簡易的な「オフィス」とも言えそうです。
報連相はメールでも行えますが、どうしても文面が長くなり、コミュニケーションが重くなりがちです。そこで便利なのが、スピーディに用件を交わし合えるビジネスチャットツールやSNS。
例えば、チャットツールで人気の「Slack(スラック)」は、「チーム別、プロジェクト別、顧客別」や「雑談専用」など、さまざまなスタイルでチャンネルを作成可能。スレッド表示になっているため、対応中のテーマやプロジェクトから会話が横道にそれるのも防げます。
そのほか、Facebookが提供するビジネス用SNS「Workplace」は、シェアしたばかりの情報やメンバーのリアクションが多い情報がニュースフィードの上位に表示されるFacebookと似たUIが特徴。
「オンラインサービス上で活発なコミュニケーションをしてもらうコツは、社員が使い慣れたツールを用いること。誰もが気軽に投稿やリアクションができる環境が、積極的に話しやすいムード作りにつながります」(田澤さん)
・(上司側は)「部下がサボっているんじゃないか」と心配になる
・(部下側は)「上司にサボっていると思われているんじゃないか」と不安になる
・人の目がないせいでついダラダラしてしまう
上記のようなマネジメント上の悩みを解決するのが、インターネットを経由して、社員の始業・終業時間などを記録する方法の一つが「勤怠管理ツール」です。
導入することで、出勤やシフト、休暇といった勤怠に関わる時間管理が可視化されます。なかには、クラウド給与サービスとの連携ができ、経理業務の負担を下げてくれるツールも。
こうした勤怠管理ツールの力を借りつつ、ぜひ「時間+成果」が主流になっている仕事の評価方法そのものも見直してほしいと田澤さんは言います。
「テレワークでは勤務時間や働く様子を直接見るのが難しいことから、いっそ成果だけを評価する“成果主義”にすべきとの声もあります。けれど、成果だけで見ると、どうしても長時間働く人ほど有利になるんです。つまり、育児や介護を抱えて働ける時間が限られる人は、優秀であっても評価を得られなくなってしまいます」(田澤さん)
代わりに推奨するのは、『成果÷時間』。つまり、1時間あたりに生まれた成果の「生産性」を評価するやり方です。
「少子高齢化を迎え、いよいよ労働力を失いつつある今は、これまで以上に効率よく働く必要があります。これからは効率面をしっかりと評価すべきでしょう。そのためには、社員たちが何時間働いたかをきちんと管理する必要があり、記録のためには勤怠管理ツールは不可欠です」(田澤さん)
「バーチャルオフィス」とは、その名の通り“仮想オフィス”のこと。オフィスをインターネット上に用意することで、離れていても、机を並べているかのように、仲間と一緒に仕事ができます。声がけや雑談はもちろん、WEB会議ツールと連動することで、いつもの会議を簡単に開催できます。
今後も継続してテレワークを行う予定があるなら、この「バーチャルオフィス」を構えるのも有効だそう。
「弊社もバーチャルオフィスを導入していて、北海道や東京、奈良の社員たちが一緒に仕事をしていますよ。会議室や来賓室、雑談ルームなどを作っておけば、社員それぞれのアバターがどこにいるかによって、どんな状態かが一目でわかります。雑談も自然に生まれ、孤独を感じにくい点も魅力ですね」(田澤さん)
「オンラインツールを上手に活用し、自宅にいても会社に近い状態で仕事ができる環境を整えれば、働く場所は違っても効率よく団結して働くことができます。こうした環境の整備と移行ができた会社こそ、これからの時代を生き抜いていけるはずです」(田澤さん)
また、出社をやめるためには仕事にまつわる紙の書類を全てデータ化して、クラウド上に保管するペーパーレス化もはずせません。
Adobe Acrobatならば、「ファイルを共有して共同でレビュー」「文書を承認してもらう」「電子契約を交わす」「紙からデジタルへの変換」といった作業もスムーズに進められます。また、PDFへのパスワード設定も可能で、セキュリティ対策も万全です。
テレワークを今まで以上に快適にするこれらのツールも、ぜひ合わせて活用してみてください。
- リンク:テレワーク導入後の労務管理
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取材協力:株式会社テレワークマネジメント 代表取締役 田澤由利
北海道北見市在住。著書『在宅勤務(テレワーク)が会社を救う~社員が元気に働く企業の新戦略』。内閣府 政策コメンテーター、平成27年度総務大臣賞受賞(情報化促進貢献個人等表彰)。
(執筆:矢口絢葉 編集:ノオト)
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