取締役会議事録への電子署名について
はじめに
現在、新型コロナウイルス感染拡大が続き、多くの企業ではリモートワークを推進していますが、緊急事態宣言下でも書類の押印作業のためだけに「やむなく出社」を強いられるケースが少なからずあり、ハンコの存在そのものが問われております。また、河野太郎規制改革相は令和3年1月12日、行政手続きの押印廃止に向けて関連する法律50本程度を一括で改正する方針を示しました。このように「脱ハンコ」への機運がますます高まっております。取締役会議事録への電子署名もその流れの中にあります。
取締役会議事録と電子署名
会社法第369条3項は「取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない」と定め、同条4項は「前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない」と定めています。
これを受けた会社法施行規則第225条は、会社法第369条4項の「署名又は記名押印に代る措置」を電子署名とすると定め(同条1項7号)、電子署名とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいうと定めました(同条2項)。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
取締役会議事録の電子署名と立会人署名方式
そこで、現在電子契約事業者が提供している立会人署名方式(事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス)が会社法施行規則第225条2項の定める「電子署名」に当たるかどうかが問題となりました。なお、同条2項の定める要件は、電子署名法第2条のそれと同一ですから、これは、取締役会議事録の署名にとどまらず、電子署名一般に当てはまる議論といえます。
この点について、法務省は当初、事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスは、事業者が自ら電子署名を行うものであって、取締役等が行う電子署名ではないから、会社法第369条4項の署名又は記名押印に代わる措置とは認められないとしていました。これは、電子署名法第2条に定義する電子署名について当時有力であった見解を踏まえた扱いだと言えます。
行政庁の解釈
しかしながら、2020年5月29日付で法務省民事局は、各経済団体に対し、サービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うもの、いわゆる立会人署名方式による電子署名でも取締役会議事録への署名として有効であるとの見解を示しました。その内容は以下のとおりです。
会社法上、取締役会に出席した取締役及び監査役は、当該取締役会の議事録に署名又は記名押印をしなければならないこととされています(会社法第369条第3項)。また、当該議事録が電磁的記録をもって作成されている場合には、署名又は記名押印に代わる措置として、電子署名をすることとされています(同条第4項、会社法施行規則第225条第1項第6号、第2項)。
当該措置は、取締役会に出席した取締役又は監査役が、取締役会の議事録の内容を確認し、その内容が正確であり、異議がないと判断したことを示すものであれば足りると考えられます。したがって、いわゆるリモート署名(サービス提供事業者のサーバに利用者の署名鍵を設置・保管し、利用者がサーバにリモートでログインした上で自らの署名鍵で当該事業者のサーバ上で電子署名を行うもの)やサービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスであっても、取締役会に出席した取締役又は監査役がそのように判断したことを示すものとして、当該取締役会の議事録について、その意思に基づいて当該措置がとられていれば、署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものであると考えられます。
電子署名一般と立会人署名方式
このように、取締役会議事録への署名又は記名押印に代わるものとして認められる「電子署名」には立会人署名方式による電子署名も含まれることが明確になりました。そうすると、取締役会議事録に限らず、電子署名一般に立会人署名方式が含まれることは必然というべきです。法務省民事局は、令和2年7月17日付けで「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」を公表し、このことを承認しました。この点については、立会人署名方式についての記事でご説明したとおりです。以上のことから、Adobe Signを利用することにより取締役会議事録の電子化が可能になります。
立会人署名方式による取締役会議事録と登記申請
上述している内容は会社法についての解釈変更であり、実際に登記申請する際は商業登記法に則した議事録を添付して申請することになります。現在法務局は、申請書に添付すべき電磁的記録に記録された情報の作成者によって電子署名がされたことを証明するための電子証明書を要求しています。そして、電子署名に使用できる電子証明書として、公的な証明書のほか、事業者の行う電子署名サービスをそのような電子証明書として指定できることになっています。
法務省は商業・法人登記のオンライン申請において、特定の電子証明書を利用したAdobe Signの電子署名を施した電子文書を添付書面情報として使用することを認めております。詳しくは、「Adobe Signが商業・法人登記のオンライン申請に利用可能に」のブログ記事をご覧ください。
この記事は、Adobe Signの業務/法令対応コンサルティングパートナーである、ケインズアイコンサルティンググループの監修の元に書かれております。
ハンコ文化を脱して積極的にオンライン契約を取り入れたい人のために、
ハンコ代わりに使える電子サインと電子署名の違いや導入した際のメリットなどを紹介します。
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