商業登記規則の改正(令和3年2月15日施行)について

 

商業登記規則の改正(令和3年2月15日施行)について

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はじめに

 

令和3年2月15日に商業登記規則(以下「規則」といいます)の一部を改正する省令が施行され、また、令和3年1月29日に法務省民事局長通達(法務省民商第10号、以下「通達」といいます)が発出されたことにより、立会人署名方式による電子署名の利用範囲が拡大しました。今回はこの規則改正と通達の趣旨について説明します。

 

 

規則改正・通達の目的

 

商業登記法(以下「法」といいます)第19条の2は、登記の申請書に添付すべき議事録が電磁的記録で作られているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を記録した電磁的記録を当該申請書に添付しなければならないと定めています。この場合において、議事録への署名又は記名捺印は電子署名で代替できること、そして、この電子署名は立会人方式(電子契約サービス事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス)で良いことについては、前回の記事で説明したとおりです。

 

ただし、取締役会議事録(電磁的に記録されたもの)を添付資料として登記申請をするには、作成者が電子署名をするだけではなく、電子証明書を記録しなければなりません(規則第36条第3項及び第4項)。これは、電子署名の真正(電子署名が作成者の作成に係るものであること)を担保するためのものです(法第12条の2第1項第1号)。書面の場合に捺印が真正であることを示すために印鑑証明書を添付するのと同趣旨です。このように、登記申請の添付書類が電磁的記録である場合については、電子署名だけでなく、電子証明書が必要である点に留意すべきであることも取締役会議事録への電子署名についての記事説明しました。

 

今回の規則改正・通達は、登記申請に必要な電子証明書の範囲を拡大することを目的とするものです。これも文書の電子化の流れに沿った規制緩和の一環と考えられますが、結果として、立会人方式による電子署名の利用範囲も拡大することになります。

 

 

旧規則による規律

 

従前、書面による申請の場合、申請書に添付する議事録(電磁的記録)の作成者が代表者であるときは、電子証明書は規則第36条第4項第1号イに掲げるものでなければならないとされていました(旧規則第36条第5項)。ここでいう規則第36条第4項第1号イに掲げる電子証明書は「商業登記電子証明書」と呼ばれており、登記所が申請に基づき発行するものであって、本人の特定や電子署名の方法等、記載事項が詳細に定められているものをいいます(法第12条の2、規則第33条の8)。

 

オンライン申請の場合も、書面による申請の場合と同様に、代表者が電子署名をしたときは、電子証明書は商業登記電子証明書に限るものとされていました(旧規則第102条第3項第1号、第6項)。なお、オンライン申請であることから、電子署名と電子証明書は、申請書情報と添付書面情報の双方に必要となります。

 

このように、従来、登記申請について代表者の電子署名の付された議事録を添付書面情報にするには、当該電子署名が真正であることについて登記所の電子証明書を入手する必要があり、これが議事録に電子署名を利用することの阻害要因のひとつでした。

 

 

改正規則による電子証明書の拡大

 

令和3年2月15日施行の改正規則は、上記のような問題点を有する旧規則第36条第5項、同第102条第6項を削除しました。これにより、書面による申請であるか、オンライン申請であるかを問わず、実印の押印と市町村の印鑑証明書が必要とされている添付書面に係る添付書面情報を除き、代表者の電子署名について商業登記電子証明書は不要ということになり、商業登記電子証明書以外の電子証明書を利用することができるようになりました。

 

商業登記電子証明書以外の電子証明書の概要は以下のとおりです。

 

書面による申請の場合、添付書面情報の電子証明書としては、①電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律第3条第1項の規定により作成された署名用電子証明書(規則第36条4項第1号ロ、同第2号ロ、いわゆる「マイナンバーカード」のこと)と、②法務大臣が定める方法(同号ハ)があります。なお、改正規則第36条第5項は、電子証明書の方式の指定は告示によってしなければならないとしており、電子証明書自体は告示の対象でないため、上記②にある「法務大臣が定める方法」は、法務省のホームページ指定されています。なお、添付書面情報のうち添付書面に印鑑証明の必要のないものについて、Adobe Signを通じて電子証明書を付与する場合も、指定されています。

 

オンライン申請の場合も同様ですが、ここでは、電子署名及び認証業務に関する法律(以下「電子署名法」といいます)第8条に規定する認定認証事業者が作成した電子証明書が特に例示として挙げられています(規則第102条第3項第3号)。認定認証事業者とは、電子署名法に基づき、主務大臣の認定を受けて電子署名の真正を証明する業務を行う者ですから、そのような事業者の発行する電子証明書が電子署名の真正を証明するものとして扱われるのは当然といえます。現時点で認定を受けているのは数社ですが、電子署名が増えるにつれて認定認証事業者の数も増えていくものと考えられます。もちろん、これらは、書面による申請の添付書面情報についても電子証明書発行者として指定されています。

 

以上のとおりですから、取締役会議事録を登記申請の添付資料にする場合を例にとると、代表取締役のマイナンバーカードがあれば、他の取締役についてはAdobe Signでオンライン申請が完結できるようになるということです。

 

 

押印規定の見直し

 

通達は、電子証明書の規則改正にあわせて、法令上、押印又は印鑑証明書の添付を要する旨の規定がない書面(登記の申請に必要な「主要な株主の氏名又は名称、住所及び議決権等を証する書面[株主リスト]」、「資本金の額の計上に関する証明書」等)については、押印の有無について審査しないものとしました。これは、行政手続についてできるだけ押印を廃止するのが適当という政府の方針(令和2年7月17日閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2020」及び令和2年7月17日閣議決定「規制改革実施計画」)に基づくものです。

 

ただし、これは「押印」の廃止であって、本来電子署名は押印に代わるものですから、電子署名まで不要にするものではありません。この場合は電子証明書も当然必要になります(規則第36条第4項、第102条第5項)が、そのときには法務大臣の定める電子証明書を使用することができます(規則第36条愛4項2号ハ、第102条第5項1号、Adobe Signを利用した特定の電子証明書については、そのような指定を受けています)。

 

この記事は、Adobe Signの業務/法令対応コンサルティングパートナーである、ケインズアイコンサルティンググループ監修の元に書かれております。

 

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