文書管理はこれで完璧!文書の種類ごとの管理方法や保存期間を総ざらい
企業活動の根幹に関わる文書管理。企業が取り扱う文書は幅広いですが、適切な管理をするためには、規則・ルールを設けるなどの対策が必要です。とはいえ、毎日文書は増えるいっぽう。すべての文書をきちんと管理できているかというと、十分ではないケースが多いかもしれません。
しかし、文書管理がおろそかになると、肝心な文書が行方不明になってしまったり、探し出すのに時間を要してしまったりと、業務上のロスやリスクが高まってしまい、大きなミスにつながることも考えられます。
最近は、リモートワークの加速に伴い、企業が取り扱う文書のペーパーレス化が進んでいることから、文書管理の方法を見直すには、丁度良いタイミングではないでしょうか。そこで、こちらの記事では文書管理の基礎知識からペーパーレスでの文書管理方法まで、詳しく整理してご紹介します。
国の公文書管理の基準は、「公文書管理法」によって明示されています。同じように企業が扱う文書についても、「会社法」「商法」「税法」などの法律で、「法定保存文書」に保存の基準が定められています。
たとえば、「定款」「株主名簿」は永久保存、「決算書」「会計帳簿」は10年といったように、企業活動における重要度に応じて目安の保存期間が変わります。
その他にも、外部と取り交わす「契約書」や「見積書」など意思表示に関わる文書や、内部の契約にまつわる「福利厚生関連文書」や「人事関係書類」など、細かく保存義務が定められています。このような「法定保存文書」は、種類ごとに決められている保存期間に従い、適切な保管が必要です。
しかし、こうした「法定保存文書」に当てはまらない文書であっても、日々の企業活動では重要文書が多数作成されます。
これらの文書を管理する目的は、経営の観点から次のように分類できます。
(1)業務の効率化……必要な文書を速やかに取り出せる状態にしておくことは、業務の生産性向上に欠かせません。
文書を探すのに手間取り、また、見つけ出した文書が正しくて最新の内容かどうかを確認するのに、さらに時間が掛かるとなると非効率です。文書管理を最適化する目的の大部分は、業務の効率化にあるといっても良いでしょう。
(2)社内情報や知識の有効活用……企業にとって有益な知識・経験・事例・ノウハウは、文書で蓄積され、伝達されているケースが多いです。
たとえば、企画書や会議議事録、報告書なども属人的な管理ではなく、共有化のルールを定めることで、従業員全員の有効活用につながります。ひいては、業務の質向上や業務の効率化にもつながるはずです。
(3)書類量の削減……紙から電子文書に置き換えてペーパーレス管理にすることで、物理的な量が減り場所を取りません。
また、データで管理するため、キーワードや作成日などで検索できるので、文書を素早く見つけられます。倉庫や社内のスペースに書類が詰め込まれた段ボール箱が何年も放置されている、といった事態を抜本的に解決できます。
(4)内部統制の強化……万が一、裁判やトラブルが発生したとき、証拠書類や効力が継続している契約に関する文書など、説明責任を担保するための文書の提出が求められることがあります。
これらの文書を速やかに提出できないとなれば、企業の信頼性を損ねかねません。また、紙文書や電子文書の盗難、情報漏えいのリスク排除につながる文書管理を徹底することが、内部統制の強化につながります。
業種に共通する文書、かつ保存期間が法令で規定されている「法定保存文書」の例は以下になります。
上記は一例ですが、企業の業種ごとに「法定保存文書」はさまざまな種類に及びます。
ただし、法定とはいっても、保存期限は企業に委ねられている部分が大きいです。たとえば、“会社の憲法”とも呼ばれる「定款」など、とりわけ重要な書類であっても永久保存は義務づけられてはいません。しかし、文書の性格上、永久保存が妥当と考えられるものとされています。また、「帳簿」などは税法上で7年保存していなければ、青色申告が取り消しになるといった罰則がある文書も存在するので、注意が必要です。
企業によって、法定の保存期限とは別に独自のルールで期限を定めているケースは少なくないので、各会社の文書管理規定で明文化することが重要です。
具体的な文書管理の方法を検討するうえで、知っておきたいのが「文書ライフサイクル」です。これは、文書の「作成」から「廃棄」までのプロセスの全期間のことを指します。この期間において、文書を使う頻度は時間とともに変化します。それぞれのフェーズは以下の5つに分けられます。
作成(発生)→活用(処理)→保管→保存→廃棄
文書の種類によっても異なりますが、多くは作成(発生)から活用(処理)まで、3カ月ほどです。活用(処理)期間を過ぎると、保管というフェーズに移ります。具体的な内容と管理方法は次の通りです。
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(1)作成(発生)
文書管理のルールに則り、文書を分類するフェーズ。作成日、作成者、キーワードなどファイルにプロパティ情報を付ける。
(2)活用(処理)
文書情報の承認決済、公開、配布などを行うフェーズ。文書の種類によって異なるが、作成から約3カ月程度の期間がこれにあたる。文書の編集や閲覧などのアクセス制限をかけ、改版履歴、処理履歴などのプロパティ情報を追加する。
(3)保管
文書情報をすぐに参照できる状態にしておくフェーズ。一般的には活用(処理)フェーズが終了してから1年間ほどは比較的参照頻度が多いため、保管期間に相当する。このフェーズでは、保管期間、保管場所、参照履歴などのプロパティ情報を追加する。
(4)保存
文書管理規程などで定められた保管期間を終えた文書情報を保存するフェーズ。このフェーズでは、保存期間、保存場所、参照履歴などのプロパティを追加する。
(5)廃棄
文書管理規程などで定められた保存期間を終えた文書情報を廃棄するフェーズ。ただし、保存期間を延長する必要があるのか、さらには永久保存の対象とするべきかの判断は適切に行う必要がある。
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こうした文書のライフサイクルを踏まえながら、文書管理の対策を強化するにあたっては、然るべき知識を持つ人材を育成し、管理業務を任せることが望ましいでしょう。
たとえば、日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)では、文書管理について最適な方法を立案し、改善・改革に取り組むことができる人材を育成するべく、「文書情報マネージャー」という認定資格制度を設けてセミナーを開催。総務部門をはじめバックオフィスで、日頃から文書管理の実務に従事している人や、マネジメントを担当する人などが受講しています。
文書管理に携わる人が問題の改善に取組むボトムアップのケースもあれば、トップダウンで文書管理のルールを定めるケース、どちらも考えられます。いずれにしても、文書管理のゴールは「必要なタイミングで必要な文書を、権限がある人が場所や時間を問わず、即時に取り出すことができること」です。それを実現するためにも、文書管理は重要なインフラづくりだと捉え、人材やコストといったリソースを割いて取り組むことがポイントではないでしょうか。
最近は、新型コロナウイルスの影響により、リモートワークを推進する企業が増えました。リモートワークは、ネットワーク環境やソフトウェア整備はもちろんのこと、業務に必要な資料を揃えなければいけません。どこにいても業務を円滑に進めるためには、“紙文化“を脱却して、電子文書をサーバーやクラウドで共有する運用に移行する必要があるでしょう。
そのためにも、電子文書を前提に文書管理のルールを見直し、新たな「文書管理規則」や「文書管理規程」を定めることが重要です。
その第一歩として、まずは、現在のサーバーやクラウド内におけるフォルダ構成の見直しから始めることが望ましいです。業務に関連する書類には、どのようなものがあって、どういう使い方や管理をしているのか棚卸しを行います。
最初に、この工程を飛ばしてフォルダ構成を作り直そうとすると、結局は使い勝手が悪く、サーバーやクラウド内の“ゴミ箱化”が起きてしまいがちです。それを防ぐためにも実態調査が大切です。
そして、フォルダの階層をシンプルにする方法を探っていきます。フォルダがすっきり整理されることで、従業員同士の情報交換が円滑になるだけではなく、ストレージの空き容量を増やすことができるなど、効率とコストの両面から良いことづくめです。
次に、個人ファイルを組織で共有していく過程におけるルール作りを進めます。従業員がファイルを作成し、インターネット経由で共有する際に、勝手にサーバーにフォルダを作れる状態ではいけません。せっかくフォルダ構成を整理しても、すぐに雑然としてしまうでしょう。
とはいえ、社外での業務にあたっては、ストレージなどオンラインを介した電子文書の受け渡しが活発になることが予想されます。それを見越したうえで、共有にあたり、どのようなツールを利用するのか、サーバーやクラウドを活用する場合はどのフォルダに格納するのか、といったルールを考える必要があるでしょう。
また、版管理もないがしろにはできません。版管理が徹底されていないと、本来は最新版を改訂するべきところ、間違えて旧版を直してしまいかねません。それにより誤ったままの文書が保存される可能性が高まります。
こうした基本を押さえながらも、企業ごとに定着している文化や業務の進め方を考慮して、文書管理の方法を構築していくことが必要です。
文書管理の主役が「紙」から「電子」に変わり、さらにリモートワークが進む昨今。自社内で構築・運用するオンプレミスから、クラウドを活用した文書管理や情報共有が盛んです。大企業でもクラウドでデータを管理・共有することが、一般的になっています。時間と場所を問わずファイルにアクセスできる点は、柔軟な働き方のニーズに即していると言えるでしょう。
文書管理においても、クラウドを使うことによるメリットは大きいです。たとえば、Microsoft365およびOffice365で提供される「SharePoint」は、officeツールと連携して、ExcelやWordの編集や共有できます。また、「Adobe Acrobat」なら、クラウドで共有して、1つのPDFファイルに全員でコメントを入れる共有レビューが可能です。
ただし、企業がクラウドを活用する際には、セキュリティやアクセス権限設定・管理のしやすさを考慮する必要があります。また、クラウドもダウンする可能性を完全に否定できないので、万が一を想定してバックアップを取ることが重要です。
場所の制約がなく、いつでもどこでも自由に業務を行うためには、文書の電子化が欠かせません。近頃は文書の法整備が進んでいるため、紙文書の処理が通例だった経理などのバックオフィスのリモート化も叶えやすくなっています。
たとえば、電子データで保存することを容認する法律「e-文書法」では、帳簿、請求書、領収書などについて、紙だけでなく電子化した文書ファイルでの保存が認められています。
ペーパーレスのメリットは仕事の場所を選ばないことだけではなく、電子文書にすることで情報共有がしやすくなり、情報流通のスピードが上がること。紙だと郵送しないといけませんが、サーバーやクラウド、メール添付で瞬時に届きます。
とはいえ、まだまだ紙で契約を交わすことがしきたりだったり、取引先から請求書が紙で送られてきたりと、完全電子化のハードルが高いと感じている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、最近は電子ファイルを取り込み、テキスト化して自動処理してくれるソフトウェアも開発されており、今後は電子取引が主流になっていくと考えられます。
また、契約に関しても電子契約が普及していくが予想されます。
新型コロナウイルスの影響でリモートワークが導入された際、“ハンコを押すために会社に行くこと”が問題になりました。この問題を解消するためには、電子契約への移行が求められるはずです。
こうした世の中の変化を受けてか、内閣府も2020年6月19日付けで「押印についてのQ&A(内閣府、法務省、経済産業省)」を公表し、「特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、 契約の効力に影響は生じない」といった見解を示しました。
今後は、押印の必要があるのかが精査され、文書成立の真正性(※)を証明する必要がある場合は、電子署名や電子サインでの対応を希望する企業が増えることが予想されます。
ペーパーレスへの移行にあたっては、ハンコからの脱却、電子署名や電子サインの導入をセットで検討すると良いでしょう。いずれにしても、これからは「電子文書の管理=文書管理のベース」に変わっていくはずです。
(※)文書が特定人の意思に基づいて作成されたものであり、 かつ、その人の思想内容が表明されたものと認められること。
文書管理は企業活動の土台。文書は裁判やトラブルが起きたときの重要な証拠にもなり、また企業活動で積み重ねたナレッジが刻まれた資料にもなります。大切に扱い、有効活用すれば事業発展の糧になるはず。
しかし、ぞんざいな扱いをしたままでは、うまく活用できないどころか、管理不行き届きによって、思わぬトラブルに発展する可能性もあります。そうしたリスクを減らし、有効活用の基礎になるのが文書管理なのです。
リモートワークをはじめ柔軟な働き方が求められる昨今、これを機に文書管理の棚卸し、再構築を検討してみてはいかがでしょうか。最近はペーパーレスで管理の負担も軽減できるので、より効率的な管理方法を模索してみてください。
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取材協力:甲斐荘 博司さん
公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会 (JIIMA) 専務理事。
(執筆:末吉陽子 編集:ノオト)
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