書類は電子化する? 紙で残す?それぞれの使い分けのライフハックを教えてもらいました
オフィスで使われる書類のペーパーレス化が盛んに行われている現在ですが、電子化文書の「資料の拡大ができる」「クラウドでどこでも確認できる」といったメリット同様に、紙の文書にも強みがあります。電子化文書と紙文書それぞれの特徴から、適している作業や役割について考えます。
膨大な紙の書類を使って業務を進めるオフィスでは、書類が次々と溜まっていきます。そうなれば、書類の整理や保管場所の確保、必要な書類を探すことが難しくなるでしょう。このような事務作業を効率化させるため、書類の電子化が加速しています。
スキャナーなどの機械で電子化された紙の書類は「電子化文書」と呼ばれますが、紙文書と電子化文書には、それぞれメリットとデメリットがあります。電子化を進めていくにあたっては、それぞれの特性を理解したうえで適切なやり方を選ぶことが、業務改善の鍵になるでしょう。
電子化文書のメリット
チーム内で資料や情報をシェアしやすい
電子化文書は、チーム内で簡単にシェアできます。たとえば、オンラインストレージサービスにアップロードすれば、離れた場所にいるメンバー同士でも同じ書類を共有しながら、お互いの手元が見えているような状態で仕事を進められるのです。
プロジェクト全体を保存できる
電子化文書は画像や音声、ソースコードなどの「プロジェクトに関わる情報」を文書と合わせて保存できます。書類の変更履歴を残すこともでき、修正日や修正した人を追跡可能です。
物理的な保管場所を必要としない
物理的な保管場所を必要としない電子化文書は、どれほど書類の数が増えても、基本的には置き場に困ることはありません。
検索しやすい
電子化文書には「作成日」や「作成者」などのメタ情報を残せるため、それらを検索キーワードにすることで、目的の情報を探しやすくなります。
電子化文書のデメリット
バックアップを取らないとデータが消滅する
事故や災害などによって保管先のハードディスクが壊れた場合、電子化文書は永久に消えてしまいます。それを回避するために、バックアップは定期的に行なう必要があります。
また、電子化文書は紙と違って筆跡が残りません。データの消失や改ざんを防ぐため、誰が・いつデータに編集を行ったのかも、追跡・管理できるような工夫が必要です。
「書類を検索しやすい工夫」をしないと管理が難しい
書類を検索しやすい工夫をしておかなければ、紙文書と同じように「目視しないと中身がわからないデータ」が山のように積まれた状態になります。そのため、書類を作成・保管するにあたって、ファイル名の付け方や書類の作り方を工夫しなければいけません。
電子化文書のほうが向いている作業は?
チームメンバーと書類を共有したいとき
社内で書類を共有するときには、チーム内でシェアしやすい電子化文書を使いましょう。このとき公開するのは、自分のパソコンに保管してある書類の全てではなく、チーム内で進めている仕事の書類だけでOKです。
それを、オンラインストレージサービス上に作成した「自分の名前のフォルダ」に(ほかのメンバーが編集できない状態で)アップロードしておき、チームメンバーが自由に閲覧できるようにしておきます。そうすれば、メンバーがその書類を確認・引用したいとき、いつでもアクセスできる状態となり、少人数のチームでも生産性を上げられるでしょう。
「プロジェクト内容の似ている仕事」が繰り返し発生するとき
「毎年、定期的に開催しているイベント業務」など、過去のプロジェクト内容と似ている仕事が繰り返し発生する場合があります。そのときの書類作成には、プロジェクト全体を保存できる電子化文書を活用しましょう。そうすれば、「過去の電子化文書を雛形にして、一部分だけを作り変える」など、効率的な書類作成ができます。
膨大な数の書類を管理したいとき
膨大な数の書類を管理するときには、物理的な保管場所を必要とせず、メタ情報をキーワードにして検索しやすい電子化文書がおすすめです。
また、ほとんどのパソコンのOSには、書類の概要欄に「作成日」や「作成者」などのメタ情報をメモ書きできる機能が付いているので、大規模な文書管理システムを導入せずとも、デスクトップ検索だけで簡単に検索できるようになっています。
デジタルの作業では難しい成果物を生み出せる
「思いつくままに手を動かして、文字や図などを書き込んでいく」というフィジカルな作業によって、デジタルの作業では実現できない成果物を生み出せることがあります。
一覧性があり、並び替えがしやすい
紙文書には全体を俯瞰して見渡せる一覧性があるので、どこに何の情報が記載されているのか判断しやすくなります。また、付箋やカードに記載した内容であれば、情報の並び替えがしやすいことも特徴です。
書き出した項目を並び替えるとき、作業範囲の狭いパソコンの画面上では作業しづらくなります。一方、紙文書であれば作業範囲が広くなるため、提案資料や報告書を作成する際の、情報の並び替えが容易になります。
入力に時間がかからない
すぐ消すようなメモは、目の前の紙に書けばあっという間に作成できます。一方で、ツール活用を意識するあまりITガジェットでメモを作成していると、機能が多いばかりに必要以上の時間がかかってしまう場合があります。
「あいまいな記憶」を頼りに情報を探しやすい
いったん印刷すればレイアウトの変わらない紙文書は、あいまいな記憶を頼りに情報が探しやすい、という特徴もあります。何か物事が起きたとき、ほとんどの人は、その前後の文脈しか覚えていません。そのため、参照したい情報が「あの図版があるページの、左側に書いてあったはず」と記憶を頼りにした、目的の情報検索がしやすくなるのです。
紙文書のデメリット
維持コストがかかる
「電子化したあとの紙文書」をオフィスに保管したままにする企業は少なくありません。しかし、そうすると時間が経つほどに紙文書が雪だるま式に増えていき、「保管場所」や「管理」などの維持コストが電子化文書よりも大きくなります。
量が増えるほど、書類管理が難しくなる
基本的に、ほとんどの紙文書にはメタ情報(データの説明書き)が付与されていません。そのため、わざわざ目視で確認しなければ中身がわからず、目的の情報を探しづらくなります。また、メタ情報を付与したとしても、元の保管場所に戻し忘れた瞬間、書類の保管場所がわからなくなってしまいます。
紙文書のほうが向いている作業は?
創造的な作業をするとき、考えごとを深めたいとき
デジタルの作業では難しい成果物を生み出せる紙文書は、創造的な作業をしたり考えごとを深めたりしたいときに使えます。たとえば、「推敲」や「校正」をするとき、電子化文書ではモニターの色合いや行替えの仕様によって誤字脱字に気づきにくくなりますが、紙文書に印刷すると気づきやすくなるのです。
資料のアウトラインを考えるとき
紙文書には一覧性があり、並び替えがしやすいメリットがあるので、提案資料などのアウトライン作成時に役立ちます。たとえば、プレゼン資料の構成を考えるとき、各ページの項目を紙に書き出して目の前に並べれば、スムーズに流れる構成の順番を考えやすくなるはずです。
TODOリストを作るとき
TODOリストなど、項目を書き出して実行し終わったら捨てるだけのメモの作成には、そこまで時間をかける必要はありません。そこで、入力に時間がかからない紙文書を使って作成していきます。
いずれ引用することになる書類を残すとき
近くに置いてすぐに取り出し、内容を引用したい書類は、曖昧な記憶を頼りに情報を探しやすい紙文書で残すことがおすすめです。ただし、引用したい情報の更新が非常に早く、その場で見て消化できるレベルの「最新のニュース記事」などであれば、わざわざ紙で残しておく必要はほとんどありません。
3. 紙文書と電子化文書を併用したい場面は
以下のような場面では、両者の併用を検討してみるのも手です。
元データを残す必要があるとき
顧客情報の記載された書類や帳簿など「一次資料に価値がある書類」を残す場合、原本となる紙文書は残しておきましょう。または、それをスキャンした電子化文書は必ず残しておくことです。そうしないと、その書類をもとに進める後工程でエラーが発生したとき、原本に書き込まれた内容を確認しながら対処できなくなってしまいます。
書類を長期間保管する必要があるとき
書類を長期間かけて保管し、それを使いながら仕事する場合は、紙文書と電子化文書の両方を残すのも手です。
そのとき、署名などがしてある「紙文書の原本」は書庫に保管しておき、各メンバーは自分の仕事に必要な書類だけを、紙文書なり電子化文書なりで保管しましょう。そうすれば、各自が目的の情報を探したいとき、厳重に管理されていてアクセスしにくい原本ではなく、手元の書類から情報を探せるからです。
電子化文書を探しやすくするためには、保管の仕方やファイル名をつける際、そもそもの書類作成時に以下のような一工夫をしてみると良いでしょう。
まず、基本は「目的に応じて保管場所を切り分けておく」ことです。チームと個人、それぞれにとって重要な書類は予め分けておき、それぞれで管理するようにします。それら全てを1つの場所に保管すると検索領域が広くなりすぎて、必要とする書類を探しにくくなるからです。
書類をフォルダ分けするにあたっては、保管領域を「使用中」と「アーカイブ(完了した仕事)」に分け、ファイル名に「プロジェクト開始の年月日」などを付けた書類を保管していきます。こうすることで、アーカイブから情報を探したいとき、「何年前くらいの書類」という曖昧な記憶でも、年号で検索しやすくなるでしょう。合わせて、キーワードでクロス検索すれば、検索結果にヒットする書類の数を抑えることができ、目的の情報により早くたどり着けるのです。
また、そもそも書類の内容を「検索しやすい文章」で作成する必要もあります。そのためにできることの1つが、文章のはじめに「要約」を付けること。100文字程度でもいいので要約を書いておけば、デスクトップ検索でヒットしやすくなり、かつ文章全体を見なくても中身を判断しやすくなります。
一念発起して、オフィスにある大量の紙文書を全ての電子化しようとすれば、大きな労力がかかります。そのため、基本的には紙文書として残しておき、そのなかから電子化文書として使用したい書類を、使いたいタイミングで電子化していく、というのも1つの方法です。
10人程度の企業規模かつ1万枚程度の紙文書であれば、その全てを一念発起して電子化することも可能です。しかし、10万枚を超えたあたりから、その全てを電子化してメタ情報を付与することが困難になっていきます。電子化する資料すべての内容を把握できているメンバーは、ほとんどいないはずだからです。
また、大量の書類を電子化するときには、「OCR(文字認識)可能なドキュメントスキャナー」が活用します。今では、文書やレシート、写真などをまとめてスキャンしてジャンル別に自動仕分けする機能や、OCR機能でテキストを読み取り、ファイル名に読み込んだ書類のメタ情報を自動付与する機能を備えたスキャナーが登場しています。このような機能を活用すれば、より手間取らずに電子化できるでしょう。
Adobe Acrobatであれば、PDFデータからテキストデータをスムーズに抽出可能。編集や他の形式のデータへの変換を行うことができます。
書類の電子化を外部の業者に依頼するという選択肢もありますが、依頼にあたっては注意が必要です。外部業者が「自社の仕事のスタイル」を知らない状態で電子化した場合、メタ情報がうまく付与されていない、膨大な量のデータの塊だけが戻ってくる可能性があるからです。
電子化にまつわる法律の関係で、電子化するのは難しい書類があります。該当しそうな書類は、顧問税理士などのプロに判断を仰いだ上で電子化するようにしましょう。
書類を電子化するとき、次のようないくつかのポイントがあります。
「次のアクションに必要な書類かどうか」を考える
「次のアクションに必要な書類」を優先的に電子化するように心がけましょう。仕事を完了させるためには、「仕事を前進させるための次なるアクション(やるべきこと)」を探し出して、それに集中する必要があります。
そのため、全ての書類を電子化するのではなく、「次のアクションに必要な書類かどうか」を考えて電子化していくことです。その結果、必要であると判断すれば先に電子化しますが、ただ電子化しておきたいだけの書類は、必要なタイミングが来たときに電子化していきます。
「アクションを起こす場所」を決める
電子化したあとは「アクションを起こす場所」を決めて、その中で仕事を回していきます。たとえば、オンラインストレージサービスをワークスペースとし、ストレージ上のファイルを編集・更新すると決めれば、自宅や出先でも書類を確認しやすくなるでしょう。その中に、日付を記載した書類を新しくアップロードしていくことで仕事が回ります。
ただし、企業によっては内部監査に対応できるよう、「オンラインストレージサービスに保管してはいけない」とルールが決められているかもしれません。その場合は、社内システムのどこに保管していくのかを、仕事の目的に応じて決めていくことです。
「電子署名」を付けられるツールを活用する
中小企業が電子化文書を管理するとき、課題として挙がりやすいのが「電子署名」の付与です。社内的な決裁だけでも電子署名でクリアできれば、多くのビジネスがより早く進んでいくでしょう。
AcrobatはGoogleドライブやMicrosoft OneDriveとシームレスに連携しながら、電子署名を付与できます。この機能を活用すれば、これまで課題だった電子署名を手間取ることなく実行できるはずです。
紙文書と電子化文書のメリットとデメリットを理解した上で、うまく使い分けることができれば、あらゆるビジネスシーンで業務効率化を図れます。また、電子化したあとの処理に手間取らないよう、書類を検索しやすくなる工夫や電子化の手順・ポイントを押さえた上で電子化していきましょう。
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取材協力:堀 正岳さん(研究者・ブロガー)
高緯度・中緯度における気象学と気候変動に関する研究を行うかたわら、ライフハック、IT、文具などをテーマにしたブログ「Lifehacking.jp」を運営。知的生産、仕事術、ソーシャルメディアなどについて著書多数。単著に『ライフハック大全 人生と仕事を変える小さな習慣250』、『知的生活の設計 「10年後の自分」を支える83の戦略』、『リストの魔法』など(いずれもKADOKAWA)。
(執筆:流石香織 編集:ノオト)
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