ペーパーレス化でオフィスのテレワーク移行を進めよう! 社内変化を実現するためのステップを解説
オフィスで使用する紙の書類を必要に応じてデータ化していく「ペーパーレス」の取り組み。仕事の中心が電子資料になることに不安を感じる人もいますが、上手く導入すれば大きなメリットを得られます。
2020年の新型コロナウイルス感染症の猛威により、多くの企業でテレワークが実施されるようになりました。しかし、そんな中でも紙書類の確認や押印手続きなどで出社を余儀なくされている企業も多いと聞きます。
2020年3月のアドビシステムの調査によると、64.2%のビジネスパーソンが新型コロナウイルスの影響下でも「書類や捺印対応が必要でやむなく出社」した経験があるという結果が。テレワークを行うにあたっても、業務の生産性が上がったと感じる一方で、「会社に保管してある紙の書類を確認できない」ことを、およそ4割のビジネスパーソンが課題に感じているようです。
この課題解決のためには、従来の紙の文書や資料をデータ化、つまり「ペーパーレス」化の推進が大きな鍵になるでしょう。
そこで、今回はペーパーレス化への第一歩として、ペーパーレスのメリット・デメリット、実現するために押さえるべきポイントや導入手順について、紹介します。
そもそも「ペーパーレス」とは、どういう状態のことを指すのでしょうか? 文字通り、すべての紙をなくすことでしょうか。決してそうではありません。まして、すべての紙をPDF化するというのも、答えとしては少し不十分です。
2005年より施行されている「e-文書法」にて、多くの文書を電磁的手法(つまり電子データ)で保存・保管することが認められましたが、中にはいまだ書面(紙)での保存・保管を義務づけられているものもあります。それらを見極めて、各法令に準拠する形式で書類をデータ化して、初めて「ペーパーレス」といえます。
もう1つ、ペーパーレス化に取り組むにあたって忘れてはならないのがその目的です。不要な書類を処分することに目が行きがちですが、本来は「データの利活用」こそが、ペーパーレス化の最大の価値になります。紙で運用をしていると、同じ情報を何度も転記したり、間違いのないように1枚の書類を回して複数人で内容を確認したりと、非効率な業務に時間を費やしがちです。しかしペーパーレスになれば、一度入手した情報の利活用がスムーズになるため、作業効率の改善が期待できます。
日本では、ビジネス文書のペーパーレス化の規制緩和が進んでいます。例えば、e-文書法により251の法規制緩和が進み、紙保存が義務付けられていた書類のデジタル保存が可能になりました。
さらに「電子帳簿保存法」、特に「スキャナ保存制度」の改正により、2019年には重要な国税関係書類(領収書、契約書など資金やモノの流れに直結する書類)は過去に作成したものでも、改めてデジタル保存を可能になるといった、規制緩和の流れが加速しています。企業を取り巻くペーパーレス化の環境は、今後よりスピーディーに整備されていくでしょう。
コストが削減できる
紙の資料の場合、「直接コスト」と「間接コスト」の2種類のコストがかかります。
「直接コスト」とは、紙代、印刷代、通信費、廃棄代、印紙代などが当てはまります。「間接コスト」とは、紙処理に費やす人件費。こちらは、会議の事前準備や終了後の回収作業、普段行っている書類探しなどが該当します。
ペーパーレス化すれば、この両方のコストが大幅に削減できます。特に印紙代は電子契約や電子領収書を活用すれば不要になるため、高額な契約書を数多く取り扱うような不動産会社などは、大きなメリットになります。
文書保存スペースが不要になる
紙の資料をデータ化してサーバーで管理するようになれば、倉庫などの保管スペースやデスク周りのキャビネットはほとんど必要なくなります。これを機に、フリーアドレスを導入したり、コミュニティスペースを作ったりと、社内を活性化する空間も創りやすくなるはず。
ファイリングや廃棄に手間がかからない
従来の紙運用の会議では、印刷や配布などの事前準備や、終了後の資料のファイリングや廃棄などの手間がかかります。ペーパーレス化を実現すれば、会議前後の業務は大幅に削減でき、必要な資料も検索ですぐに見つけ出せるようになります。
セキュリティを強化できる
紙であれば他の書類に紛れることも多く、盗難や紛失のリスクもつきまといます。資料をデータ化すれば、一元管理ができ、パスワードを付与して、アクセスを制限し、よりセキュリティレベルの高い環境を創り出すことができます。
データ紛失を心配する見方もありますが、バックアップデータをしっかりとっておけば、万一地震や火災などでオフィスが被害を受けた場合も、消失を回避することができます。こうした場合、紙の書類だと取り返しのつかないことになりかねません。
内部統制を強化できる
企業にとってコンプライアンスは非常に重要です。しかし、紙書類を処理するために煩雑な業務を設けていても、いつの間にかルールが形骸化してしまうことも少なくありません。
ペーパーレス化することで業務フローを可視化できれば、ルールも徹底できます。法定保存文書の一部で電子保存の法的要件となっているPKI基盤電子証明書を伴う電子署名と、認定事業者のタイムスタンプをアプリケーションの機能を用いて行えば、「改ざん」および「なりますし」を排除し、文書の真正性を担保できます。
多様な働き方をしやすい
ペーパーレス化が進んでいれば、緊急時のテレワーク推進など、新しい働き方をスムーズに導入できます。実際、資料や契約書などを紙で運用している企業では、書類の確認や押印作業のために、テレワークが推奨される期間中であっても月に何回かは出社しなければならなかったようです。
最先端ビジネスツールを導入しやすい
政府はペーパーレス化の規制緩和を急速に進めています。合わせて、働き方改革や人材不足の解消を背景に、AI(人工知能)などを利用した業務自動化ツールを導入する企業も増えています。資料や書類をデータ保存しておけば新技術への対応も柔軟に行うことができます。
複数の資料を広げ、見比べるのが難しい
ペーパーレスだと、PCやタブレットなどで資料全体を把握したり、複数の書類を見比べたりするのは、視認性などで見劣りするかもしれません。
しかし、資料がすべて高精細のカラーで表示されることや、小さな文字を拡大できる利点もあります。将来的にいえば、技術革新により、ディスプレイの大きさに制限されずに資料を閲覧することも可能になるはずです。
手書きメモが思うように書けない
打ち合わせや会議などで、発表者が話している重要ポイントをペンで資料に書き込んでいく、というような、紙の資料では簡単にできたことが、データ化された書類だと難しい場合があります。
しかしながら、ツールを使えるようになれば、タブレット上でメモを書き込むだけでなく、メモをその場で他の参加者に共有するなど、紙の資料では実現できなかったことが可能に。
ネットワークの影響を受けやすい
クラウドによるファイル共有は便利ですが、ひとたびネットワークやシステムの障害などが発生すれば、データをすぐに閲覧できない恐れがあります。
システム障害などのトラブルをなくすことは難しいですが、万一の場合にしっかり対応できる運用体制が整っているネットワーク会社やクラウドサーバーをしっかり選べば、大きな問題は避けられるでしょう。
初期費用がかかる
書類データのサーバーでの一元管理や、データを閲覧や編集を行えるペーパーレスシステムの導入、従業員全員分の端末の購入など、ペーパーレス化を実現するには、まとまった初期費用が必要になります。
まずは現状の紙を中心にした運用と比べて、どのくらいコストを削減できるのか算出してみましょう。時期によっては政府が設備導入の助成金を提供している場合もあり、利用できれば初期コストを上手に削減できるでしょう。クラウドサービスを活用することで、初期費用を大幅に抑えられる場合もあります。
一定以上のITスキルが必要に
ペーパーレスを円滑に運用するためには、専用のソフトウェアやタブレットをうまく使いこなせないといけません。つまりはITスキルの向上が必要不可欠です。
しかし、スマートフォンなどITデバイスの普及により、簡単なタブレット操作であれば違和感なく行える人は増えているはず。まずは、まだタブレットなどを使ったことのない従業員向けに研修フォローを行えば、スムーズに習得できるでしょう。
効率化やコスト削減などを考えれば、効果が明らかなペーパーレス、しかし、なかなか進んでいないのが日本の現状です。ペーパーレス化をうまく実現している企業には、どのような特長があるのでしょうか? 導入にあたっては、3つの重要なポイントがあります。
文書の棚卸しと業務フローの再確認
営業の日報や各種申請書、稟議書など社内でやりとりされる文書。企画書や見積書、契約書、請求書など、お客さまや外注先といった社外とのやりとりに使われる文書。さらに日常業務に使われる数々の帳票類……。それら文書類を全て洗い出し、現在の書類のやり取りが、どのようなフローで行われているのかを把握します。
そして、どの文書がどの部署で、どのように保存・管理されているか、法的要件の有無も含めて確認します。こうした、文書の「棚卸し」を行いましょう。そうすれば、業務フローの中で生まれている無駄、改善できる部分に気づくはずです。そして、ペーパーレス化に合わせてシンプルな業務フローに再構築すれば、ペーパーレス化の効果をより高めることができます。
電子書類に関する法律をクリアするため、専門家のサポートを受ける
先にも紹介したように、ペーパーレスを実現するためには、さまざまな法律が関係してきます。さらに、契約書などでは電子署名やタイムスタンプなど特殊な技術が求められます。社内の従業員がそれらすべてを把握していくのは、ほぼ不可能といっていいでしょう。
「もちは餅屋」と割り切り、システムや法律関連は外部の専門家に任せることがペーパーレス化を成功している企業の条件といえそうです。特に、法律は年々更新されるので、会計士などに相談するとスムーズです。
意識変革を促すため、経営トップが意思表明する
オフィスのペーパーレス化はこれまでの業務の流れに大きな変革をもたらします。今まで2、3日かかっていた情報の伝達が、発信したと同時に関係者全員に届くようになりますし、どこで情報が滞っているかが一目瞭然です。それを前提に業務にあたることになるので、従業員には新しい働き方にあわせた「意識の変革」が求められます。
コーディネーターを置いて現場に知識を浸透させることも大切ですが、それだけでは不十分。各部署の上長はもちろん経営トップが積極的に関わり、従業員を鼓舞すると良いでしょう。トップがリーダーシップを発揮することでペーパーレス化の動きはさらに加速していきます。
では、最後にペーパーレスを導入するにあたっての5つのステップを紹介します。
導入の目的を明確する
どの領域でペーパーレス化を行って手間やコストを削減するのか。どのデータをデジタル化して利活用していくのかなどを全社に共有します。その際、従業員が前向きに取り組めるように、「月の半分をリモートワークにする」といった従業員のメリットにつながる目的を示すことが大切です。
知識の習得
ペーパーレス化についての必要な知識を従業員に共有して、浸透させます。定期講習会などを開催すると良いでしょう。まずは、基本的な理解が得られれば十分です。
最初から深い知識をインプットしようとすると、「こんなに大変なら、もういいや」ということにもなりかねません。時間と回数をかけて、段階を追って講習を行うようにしましょう。
導入準備
ペーパーレス化を導入する規模、範囲の設定、移行ステップの検討、適用する文書の棚卸しと業務フローの見直し作業を行います。
契約書などの文書は、取引先との調整が必要なので早めに相談するようにしましょう。税務署への届出も、この頃に出しておくと良いでしょう。
導入
複数の部署で数人ずつ移行するか、あるいは特定の部署を丸ごとペーパーレス化するのか。
選択肢はさまざまですので、自社に合ったサイズでスタートを切ってください。このタイミングで研修を行い、従業員へのペーパーレスの知識を深めていきましょう。
定着
リニューアルされた業務の中で問題や課題が発生したら、随時解決してペーパーレス化の業務フローを確立させていきます。すでにペーパーレスを経験している従業員が、まだ知識のない従業員をフォローしながら、ペーパーレス化を定着させていきましょう。
ペーパーレス化を実現するためには、まず従業員にペーパーレス化がどれだけ必要なことなのかを理解してもらわなければなりません。そのためには、企業として積極的に取り組んでいくことを経営トップがメッセージし、従業員の意識を変革させることが大切です。そして、それぞれの企業の規模に合わせて、進めていくこともポイントになるでしょう。
Adobe Acrobatは、電子資料で使用するPDFデータの作成・編集に特化したサービスです。セキュリティやAdobe Signによる電子サインなど、ビジネス向けの機能も備え、社内のペーパーレス推進をサポートします。
テレワークの導入がすすむなかで、ペーパーレスの重要性を痛感しているビジネスパーソンが多いと思います。政府による助成金の支援もあり、個々の意識の変化だけでなく政府支援も追い風となるなか、ペーパーレスを実現するなら、今がチャンスではないでしょうか。
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取材協力:横山公一さん(ペーパーロジック株式会社 代表取締役社長兼CEO)
公認会計士・税理士。1991年に監査法人トーマツに入所。1999年に創業メンバーとして金融特化型の会計事務所を設立、管理資産額4兆円に成長させる。現在は、日本の生産性向上に資するペーパーレス化の普及に尽力。著書に『オフィスの生産性革命! 電子認証ペーパーレス入門』(久野康成監修、TCG出版)。
(執筆:西谷忠和 編集:ノオト)
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