労働人口の減少による働き方改革の推進や、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大などの影響により、企業における、業務効率化や生産性向上が急務となっています。
すでに業務効率化を図る企業がある一方、まだ効率化が進められていないという企業も、多く見受けられます。
この記事では、業務効率化の目的やポイントをはじめ、業務効率化を進めるためのツールやアイデア、取り組んでいる企業の事例などを紹介します。
業務効率化を検討中の方、業務効率化を進めているものの、当初の想定よりも進んでいないという方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
1. 業務効率化に向け省くべきは業務の「ムリ」「ムダ」「ムラ」
1. 生産性向上
2. コスト削減
3. 従業員満足度の向上
1. 業務の可視化
2. ムダな業務を取り除く
3. ITツールの導入・活用
5. 職場環境の整備
6. 決裁権限の分散化
8. ペーパーレス化
2. 効率化にこだわりすぎると、クレームやミスにつながる可能性あり
3. 現実的なプラン組みが大切
5. まとめ
業務効率化とは、業務上の非効率をなくし、円滑に業務を行なえる状態にすることで、業務における「ムリ」「ムダ」「ムラ」をなくし、業務上不要なコスト(ヒト、モノ、カネ)の削減を実現することを言います。
それではなぜ、業務効率化を進める必要があるのでしょうか。
企業の業務効率化の目的は、従業員のパフォーマンスや働きやすさを向上させ、より多くの利益を生み出して企業を成長させることだと言われています。より多くの利益を確保するためには、企業に内在している、業務上不要な「ムリ」「ムダ」「ムラ」をなくすことが必要不可欠となります。
企業内には、どのような「ムリ」「ムダ」「ムラ」が存在しているのでしょうか。具体例を紹介します。
【業務上のムリ】
▶︎ 仕事量過多:
おもに、組織が従業員の能力を把握しておらず、能力以上の業務(負荷)を強いる場合に発生します。
特に企業においては、処理能力が高い、特定の従業員に業務が集中しがちで、その従業員の業務が一向に減らないというケースが多く見られます。
現在国内の労働人口(特に30~60才)が減少の一途をたどり、企業においても人材の確保が難しくなってきています。従業員は減少しているが、業務は減少していないため、従業員ひとりひとりの業務は増加していると言えます。
(参考:労働省/労働経済の基礎資料より詳細データ①労働力人口の推移)
▶︎ 不可能なスケジューリング
業務におけるスケジュール管理ができておらず、業務内容や進捗も把握していない場合に発生します。非現実的な日程を設定するなど、スケジュールのコントロールが効かなくなり、残業などで対応せざるを得ない状況に陥ります。
こうした業務上の負担(ムリ)が継続的に発生すると、従業員のモチベーションが低下し、作業効率を落とすという結果になります。
【業務上のムダ】
▶︎ 不必要な業務
一般的に、企業には業務上のムダが多くあると言われています。
過去から引き継がれている形式的な業務、上席の決裁承認まで必要以上に時間がかかる、書類への署名押印の必要性などがこれに当たります。
数多く開催される会議への出席と、その準備資料の作成、紙書類の整理といったことも、日本企業で起こりうる、代表的なムダな業務の典型例です。
【業務上のムラ】
▶︎ 「ムリ」と「ムダ」の混在
従業員によりクレーム対応の品質にバラつきがある、特定の処理能力が高い従業員のみに業務が集中し(ムリ)、従業員間の業務量に偏りが生じていると言ったことが、業務上の「ムラ」にあたります。
生産効率に波があることで生産性が不安定になることも、製造現場でおける業務の「ムラ」の一例です。
企業にこうした「ムリ」「ムダ」「ムリ」が内在していると、業務効率化が進まないばかりでなく、業務の効率を落としている可能性があります。早急に原因を洗い出し、改善する必要があるでしょう。
業務効率化を行なうことは、企業側(経営者側)にも、従業員側にもメリットがあります。ここでは、具体的な3例を挙げて解説します。
「業務効率化」と「生産性向上」は、同じ意味のように使用されることが多くありますが、実際は少し意味合いが異なります。
●業務効率化:「ムリ」「ムダ」「ムラ」をなくし、不要なコストの削減を実現すること
●生産性向上:投入した経営資源に対して、最大の成果を上げること
業務効率化は、生産性向上を実現するためのひとつの手段だと言えます。業務効率化を行なうことで、生産性向上につながるというわけです。
生産性向上については、以下の記事をご覧ください。
業務効率化を実現することの最大のメリットは、コスト削減であると言えます。
企業にとっては、ムダな作業を減らすことによる従業員の労働時間、労働量の是正は、人件費や時間的コストの抑制につながります。結果、企業の利益は増加を見込めます。
業務効率化を実現した結果、企業の利益が増加すれば、事業への投資のみならず、従業員に還元する原資になります。
労働環境の改善だけではなく、給与や賞与、福利厚生などで従業員に還元することで、従業員満足度が向上します。その結果、従業員のパフォーマンスの向上はもちろん、離職率の低下(=定着率の上昇)、優秀な人材の確保につながり、最終的に企業価値の向上、経営体質の強化を図れます。
業務効率化を実現するには、具体的にどのようなことを行なえばよいのでしょうか。その方法、施策を紹介します。
(参考:内閣府/ワーク・ライフ・バランスのための仕事の進め方の効率化に関する調査 報告書より「めりはりのある働き方」の前提となる「仕事の進め方の効率化」)
ムダな業務をなくすことは、業務効率化には必須であることは紹介しましたが、ムダな業務をなくすためには、まず現状を把握し、問題点を洗い出すことが重要です。
ここでは、いかにしてムダな業務をなくしていくのか、4つの例を紹介します。
【業務の自動化】
日々、繰り返し行なっている業務に多くの時間を割かれているということはありませんか。そうした業務を自動化することで、より有効に時間を使うことができます。
意思決定の少ない業務や、繰り返し作業が多いルーティン業務などは、自動化してしまうのがおすすめです。
AIやRPA(Robotic Process Automation)、ソフトウェアを導入することで省くことができます。Excelであればマクロ機能を活用し、ワンクリックで一定の作業を自動処理させるしくみを作ることも有効な手段です。
【ムダな会議の削減・時間短縮】
情報共有や意思決定の場として、会議は重要な役割を果たしています。
その一方で、生産性のない会議に出くわしてしまう場面もあり、「この時間はムダではないか」と感じてしまうこともあるでしょう。
そこで、会議を行なう前に下記のことを検討してみてはいかがでしょうか。
●ルーティンで開催されている会議を実施するかの確認
●開催回数の適正化
●会議時間の制限
●出席者の厳選
●会議前のアジェンダ確認
【資料形式・書式の統一化】
業務を単純化し、処理数を少なくシンプルにすることが、ムダをなくすカギとなります。
そこで、企業内の資料の形式・書式を統一化することも有効な手段のひとつであると考えられます。
よく使用する資料の書式は社内やチームで共有しましょう。必要事項の記載のみにする、もしくは記載箇所を少なくすることで、作成時のミスが減少します。資料をはじめから作る手間が省けることはもちろん、レビュー者もかんたんにチェックすることができ、業務効率の向上が期待できます。
【マニュアルの作成 】
業務上のマニュアル、決裁ルートや作業チャートを整理することで、ムダな手間を省くことができます。
ルールを明確にしておくことで、確認作業を減らせるほか、業務に対する意識を高めることができます。
マニュアルを作成すると業務の標準化が図れます。従業員の誰が行なっても、同じ品質のアウトプットができるため、業務のムラがなくなることもメリットであると言えます。
スピード感を持った業務効率化を行なうためには、ITツールを最大限活用することが重要になります。
社内文書をデータベース化することで迅速な情報共有を行なう、タスク管理機能で業務の進捗、生産性を可視化するなど、さまざまな業務に活用することができます。
[コミュニケーションツールの導入]
コミュニケーションツールとは、チャット機能や、通話機能、スケジュールやタスクの共有・管理が可能なツールのことです。ほかにも、ビデオ通話や、オンライン会議機能なども有しています。
コミュニケーションツールを有効に活用すると、円滑にスピード感を持った情報共有が図れるというメリットがあると同時に、社内コミュニケーションの活性化につながります。
[RPAの導入]
RPAは、ロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation)の略で、人事、経理、総務、情報システムなどの、おもに定型作業を中心とした業務を、ソフトウェア型ロボットが代行することを言います。
RPAはさまざまな管理業務(事業管理、販売管理など)や経費処理などに導入されています。指示通りの作業をミスなく高速で処理可能になることで、日々のルーティンワークを減らせるので、業務効率化を図ることができます。
[Adobe Acrobatの活用]
Adobe Acrobatは、Acrobatサブスクリプションソフトウェアです。おもに下記の機能があります。
■ Acrobatのおもな機能
● PDFファイルの作成・編集・加工・管理
● 共同作業、作業進捗のトラッキング
● PDF化した書類へのコメント
● PDF上での意見交換
● PDFへの電子サイン
パソコン、タブレット、スマホに対応しているので、オフィスでの使用はもちろん、出先や移動中でもAcrobatを使用して業務を行なうことが可能です。
使用方法や参考事例は、下記の記事を参照ください。
アウトソーシングとは、社内の業務のうち、おもに経理、総務、人事などのバックオフィスの業務を、外部の企業や人に外注する手法です。
高度な知識や技術、専門性を外部に求めることで、経営資源の集中や人件費を抑制し、業務効率化のみならず、スピード、品質向上、企業価値の向上が望めます。
シェアードサービスは、複数のグループ企業からなる大規模な企業において、グループ企業各社の間接部門の業務をひとつにまとめ、一元管理することです。各社バラバラだった管理方法を統一化させることにより、グループ全体の業務の見直しが図れます。人件費のみならず、設備費などのコストの削減にも寄与します。
職場を働きやすい環境にすることで、従業員はモチベーションが向上し、業務をスムーズに遂行できるようになります。反対に、職場環境が悪化し、“働きやすさ”が損なわれると、従業員満足度は低下し、業務に悪影響を及ぼした結果、生産性が低下する可能性があります。
ここでは、職場環境における業務効率化の方法を2つ紹介します。
[残業の削減]
内閣府が発表した平成29年度年次経済財政報告の第2章「3長時間労働是正と柔軟な働き方の導入による生産性向上」によると、国際的にみると、一人当たりの労働時間が短い国ほど、一人当たりの労働生産性も高いという相関関係が見られました。
また、ワークライフバランスの取り組みとして、長時間労働の是正を行なう企業の割合は64%にのぼり、そうした企業は労働生産性を高めているという結果が出ています。
(参考: 内閣府/平成29年度 年次経済財政報告・第2章長時間労働是正と柔軟な働き方の導入による生産性向上より第2-2-7図「企業におけるWLBの取組とその効果」)
このことから、残業を含めた労働時間が短いほど、従業員のモチベーションを高めることができ、業務効率化が進むと言えます。
[社内コミュニケーション]
社内コミュニケーションが形骸化していると、必要な情報の共有が行なわれず、従業員のモチベーション低下を招きます。また、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)が機能せず、結果的に、業務効率も低下してしまいます。
社内コミュニケーションが活性化されていると、従業員間や部署間の情報共有が円滑に行なわれるため、企業の意思決定や連携もスムーズに行なわれます。また、従業員同士が補完しあいながら、同じ目標に向かい進むことができるので、全社的な業務効率化をスムーズに推進することが可能になります。
業務を正しく判断し、実行するために行なう企業の決裁ルール(ワークフロー)が、業務推進の妨げになっていることがあります。
決裁者や承認者が複数にまたがる場合は、すべての承認者が承認するまで業務をスタートできません。承認者が不在や多忙な場合、承認には多くの時間を要することもあります。決裁者が一人の場合、各従業員からの稟議が集中し、稟議を見落とす可能性もあるでしょう。
スピード感を重視する昨今の企業活動において、決裁ルールを見直し、ある程度の権限を委譲し、決裁者を分散させることが、業務をスムーズに実行するうえで重要と言えるでしょう。
円滑に業務を行なうためには、各従業員の能力の向上が必要です。
社内外の研修への参加や、社内の教育プログラムを実践すると、従業員のスキルアップが望めます。それにより、業務への理解が深まり、さらなる業務効率化が期待できます。
社内研修は業務の標準化にもつながります。たとえば、不測の事態が発生した際に担当者が不在でも、ほかの従業員が対応することもできるようになり、企業としても品質が一定に保たれるというメリットがあります。
企業においては、社内の情報共有や業務管理、会議用資料など、紙の資料が多数あります。コンプライアンスを考慮した場合、こうした資料・情報は社内に蓄積する必要がありますが、紙の文書を管理したり、まとめるには膨大な労力を要します。
紙書類の作成、管理コストを削減するためにも、フォーマットを統一する、またはオンライン上での文書の管理や運用を行なえるしくみを作るといった取り組みが必要になります。
前述のように、Acrobatを使用すると、こうした紙資料をペーパーレス化し、資料・情報の共有がかんたんに行なえます。
詳細は関連記事をご覧ください。
Adobe Acrobatの機能|Adobe Acrobat
これまで業務効率化の目的やメリット、業務を効率化するための方法を紹介してきましたが、業務効率化を進めるにあたって注意すべき点もあります。
企業文化や企業の環境、業務フローと著しく違いがあった場合、効果がもっとも期待できそうな施策であったとしても、実際との乖離が大きいために、業務効率化が進まないばかりか、後退する可能性があります。
たとえば、今までコミュニケーションツールを導入しておらず、報告はすべて口頭で行なっていた企業が、すべての報告をコミュニケーションツールを介して行うことになったとします。
今までの環境からの変化が大きいために運用までに時間を要する、(最悪の場合は)導入したツールを使用せずに口頭報告に戻ってしまうなど、意図していなかった結果になってしまうかもしれません。
余計な手間やコストがかからないように、環境や従業員に合った施策を検討することが重要なのです。
業務効率化を図る手法も重要ですが、何より重要なのは、社内コミュニケーションを密に行ない、全社で情報共有を行なうことです。
情報共有は大切です。情報共有がしっかりできていないと、些細なミスだけでなく、大きなミスを引き起こします。さらに生じたミスに対するクレームが発生するおそれもあるでしょう。業務効率を上げるための施策でクレームが発生すると、その対応に業務時間を費やすことになってしまい、結果として業務効率の低下につながります。
特に外部リソースを起用する際には、情報共有が正しく行なわれているか、細心の注意が必要です。
業務効率化を実現するためには、その企業の体制や従業員の能力に合った、現実的なプランニングを行ない、それを着実に遂行していくことが、業務効率化への最短ルートとなります。
企業の現状、従業員の状況を考慮しないまま効率化を推し進めると、社内で混乱が生じ、施策が進まない可能性があります。
業務効率化は、企業の成長だけでなく、従業員の働きかたの改善も期待することができます。そのためには業務における「ムリ」「ムダ」「ムラ」をなくすこと、業務を可視化しておくことが大切です。
業務効率化に積極的に取り組むことは、従業員満足度を向上させ、さらには企業価値を向上させることにもつながるのです。
業務効率化を実現させる方法は多種多様ですが、企業や従業員の状況に合わせて進めることが、業務効率化の実現のカギとなります。「自分の会社に合った施策は何か」を模索してみてはいかがでしょうか。
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