危機的状況における 医療システムの回復
Mercy Health、自らの使命に忠実に、医療業界のデジタル変革の最前線に立つ
COVID-19のパンデミックに迅速に対応したい
堅牢で、患者の利用しやすいwebサイトを構築したい
可能な限り詳細なパーソナライゼーションを実現したい
COVID-19に関するランディングページを1日で作成
COVID-19のスクリーニングなど、体験を中心としたwebサイトを開発
パーソナライズされたコンテンツでコンバージョン率を最適化
「医者に診てもらうのが好きな人はあまりいません。COVID-19の心配がなかったとしても、病院に行くことを好む人はそういないでしょう。好きでも嫌いでもないといったところがせいぜいではないでしょうか。しかし、もし、患者一人ひとりを個人として尊重し、画一的な対応をしないようにできれば、その体験をより優れたものにすることができます」(Ken Kellogg氏、Mercy Health、ブランドおよびデジタル体験担当バイスプレジデント)
医療関係者にとっては慌ただしい日々が続いています。近年では初めての経験となる世界的なパンデミックによって、あらゆる医療機関に特別な重圧がかかっている状態です。COVID-19はニュースの至るところで取り上げられ、あらゆる会話の一部となり、人々の生活や働き方、交流のあり方を変えつつあります。そしてその危機の中心にあるのが、COVID-19の患者を治療する最も貴重なリソースである病院です。
現在、病院は最大限の注目を集めていると言っても過言ではありません。
そして、この危機的な状況をさらに混乱させている要因がもうひとつあります。それは、医療機関と患者の関係の変化です。世界的なデジタル変革の流れの中で、消費者はあらゆる種類の組織に対して新たな基準を求めるようになっています。たとえば、一人ひとりに合わせた適切なコンテンツや、直感的なナビゲーション、利用しやすいサービス、オンラインのスケジュール管理や購入などの機能を備えた、まるでショッピングサイトのような使い勝手のよいwebサイトが望まれているのです。かつては小売業や旅行業でのみ期待されていた高度な機能や対応が、今では政府や製造業、医療に至るまで、あらゆる分野で求められています。このように、医療業界のコンシューマライゼーションとパンデミックの発生によって、多くの病院が比較的短期間のうちに大きな変化を迫られたのです。
しかし、Mercy Healthは、パーソナライゼーションとコンシューマライゼーションのトレンドを既に先取りしていました。1827年にカトリック教会の奉仕の場として設立されたMercyは、患者を神の姿に似せて造られた唯一無二の個人として扱うことを常に念頭に置き、それが過去1世紀半の間、高水準の患者体験の基盤となってきました。Mercyのブランドおよびデジタル体験担当バイスプレジデントであるKen Kellogg氏は、「人々のことを尊厳をもって、つまり一個人として扱うという原則は、私がここで働き始めるずっと前から、MercyのDNAに組み込まれています」と述べています。Mercyにとって、高度にパーソナライズされた体験を提供することは、単なるビジネス上の戦術ではなく、中核を成すアイデンティティの一部なのです。
「医療業界は様々な課題を抱えています。医療機関に電話をしても、保留状態で10分間待たされ、挙句にどこかに転送されるようなこともよくあることです。そのような状況をなくしたいのです」と、Kellogg氏は述べています。
同氏がMereyでのキャリアをスタートした当時、医療業界のデジタル体験に対して設定されたハードルは、それほど高いものではありませんでした。Mercyでは、対面の治療においては患者の尊厳を守る個別の治療を提供していましたが、その価値はweb体験にはまだ反映されていませんでした。当時、多くの医療機関と同様に、Mercyのwebサイトも、医療機関の検索や連絡先の提供といった基本的な機能は備えていましたが、対面と同等の体験をオンラインで提供するために必要な機能が欠けていたのです。
同氏は「分析、追跡、コンバージョンを実行する方法がありませんでした」と振り返ります。
Mercyのデジタルマーケティングチームは、多くの患者が医療機関で経験する課題、中でもオンラインでの課題について十分に認識していました。小売業や旅行業などのその他の業界では、消費者はオンラインでの予約、請求書の支払い、ライブチャットなどのwebサイトの機能に慣れていました。しかし、ほんの数年前までは、医療業界ではこのような便利な機能はほとんど存在しませんでした。Mercyはこれを、自分たちの価値観を体現し、他の組織と差別化するための大きなチャンスだと捉えました。「小売体験や旅行体験に匹敵するような医療体験を創出したいと考えたのです」と同氏は述べています。
そこでMercyは、「どこからでも利用できる測定可能な1対1の体験を、デジタルプレゼンスや新興のチャネル、物理的な空間をまたいで構築する」という目標を設定しました。その目標を実現するため、同氏はリサーチを重視したアプローチで、チームと共にデジタル変革に全力で取り組み、一段上のパーソナライズされた体験を構築するための製品を探しました。
非営利団体であるMercyは、長期的な視野にもとづき慎重に投資をおこなう必要があります。Adobe Experience Managerは、Mercyが求めていた柔軟性と拡張性を実現できるものでした。
「REPへの回答を精査した結果、Adobe Experience Managerが最も最適な製品であることが明らかになりました」と、Kellogg氏は述べています。.
Mercyでは、Adobe Experience Managerを導入したことで、アイデアを形にできるようになりました。新たにAdobe Experience Managerを使用したwebサイトでは、mercy.netでの支払いだけでなく、予約や検査結果の閲覧、セルフサービス情報へのアクセスが可能になりました。Mercyのwebサイトは、同氏が思い描いていた、患者一人ひとりのニーズに応える「コミュニティマーケットプレイス」へと着実に進化していきました。
しかし、2020年3月、軌道修正せざるを得ない事態が起こりました。COVID-19のパンデミックが発生したのです。それまで理想のデジタル体験を実現するために費やしていたエネルギーを、突然、危機の対処に振り向けなければならなくなりました。当初は、米国中の消費者が、健康で安全な生活を送るための正確な情報を得るのに、誰を信用していいのかわからない状態でした。しかし、ほどなくして、病院が最も信頼できる情報源と見なされるようになりました。Mercyも、患者向けにCOVID-19の情報を提供したり、オンラインで可能な限りの治療を提供する必要に迫られました。
「ほんの6か月前まで、テクノロジーは患者や医療従事者をサポートするという位置付けのものでした。しかし今では、医療サービスの一部として欠かせない要素になっています」と、同氏は述べています。
それは正に時間との勝負でした。世界中の医療機関が、デジタル化と顧客体験の刷新に向けて奔走していましたが、Adobe Experience Managerを導入していたMercyは、一足先にスタートを切っていました。Mercyでは既に、患者に小売体験と同等の体験を提供できる強力なwebプレゼンスの基礎を構築済みであり、パンデミックへの対応に必要なあらゆるツールも、Adobe Experience Managerのおかげで揃っていたのです。
問題は、それをどれだけ早く実行できるかでした。
「変革の過程において、スピードは非常に重要です。私たちは、通常ならば3年、4年、ことによると5年かかるほどの成長と変化を、たったの3か月で成し遂げました」と、Mercyがパンデミックに対応した経験を、Kellogg氏は振り返ります。
チームは猛スピードで計画を練り上げました。最初のステップは、「COVID-19の問題に対応するためのデジタル窓口」を作成して、webサイトでパンデミックに対処することです。このページは、患者にとって信頼できる唯一の情報源であると同時に、刻々と変化する健康危機に対して、Mercyが見解を発表する場でもあります。米国の中西部で最も尊敬されている医療機関のひとつであるMercyには、他の医療機関が追随できるような前例を作り、彼らのコミュニティを可能な限り迅速に支援することも重要な仕事でした。
チームはAdobe Experience Managerを使用して、新しいランディングページを1日で作成しました。週末の間にコンテンツを追加し、月曜日には「公開」ボタンを押すことができたのです。Adobe Experience Managerがスピードアップに貢献していなければ、新しいページの公開には何日も、あるいは何週間もかかっていたかもしれません。しかし、チームはあらゆることを自分たちで処理することができました。Adobe Experience Managerがあらゆる変化や予期せぬ事態に迅速に対応したことで、同氏のチームは、パンデミックの展開に合わせて、ページに新しい情報を容易に更新できたのです。
ランディングページは優れた効果を発揮し、訪問数は公開後数か月で256,000件に上り、Mercyのwebトラフィック全体の8%以上を占めるほどになりました。当初予定していた形とは違っていましたが、Mercyは、どこからでも利用できる測定可能な1対1の体験という目標に向かって着実に前進していたのです。しかし、パンデミックを前にすれば、たった1ページのランディングページでは十分とは言えません。
Mercyは自身の専門分野に立ち返り、地域社会にさらに貢献できる方法を模索しました。
「私が一緒に働いているチームのすばらしい点は、全員が行動派であるということです」とKellogg氏は語っています。
パンデミックの影響で、以前よりも多くの患者が遠隔医療を利用するようになった一方で、Mercyのような病院では、医療を必要とする人々をこれまで通りに院内で受け入れ、治療する必要がありました。しかし、密閉された空間でウイルスが拡散する危険性は、特に社会的弱者が治療を受けている地域では、極めて高くなります。そのため病院では、特定の患者のみが直接来院するようにし、他の患者は遠隔治療に振り分ける必要がありました。また、誰もがCOVID-19の検査を希望しましたが、検査機器は圧倒的に不足していました。Mercyでは、殺到する検査依頼に対応しつつ、来院する患者をスクリーニングする方法を考えなければなりませんでした。
「オンライン予約ポータルに訪れる匿名の患者と既知の患者の両方をスクリーニングする必要があるとわかったとき、私たちは、『今日、明日中にどうすれば実現できるか、この問題を解決できるツールがツールボックスの中にあるだろうか、Adobe Targetで何ができるだろうか』と、自らに問いかけました。そして、行動を起こしたのです」
チームはすぐさま行動に移りました。MercyがCOVID-19のスクリーニング体験を構築するための最も迅速かつシンプルな方法は、Adobe Targetを活用することでした。チームは数日のうちに、患者が個人情報を入力して予約する前に、匿名で確認できるスクリーニング体験を作成しました。これにより、従来と同じ対面式の治療が可能になると同時に、「Mercyは患者と職員を守るために全力を尽くしている」というメッセージを強力に発信することができました。また、COVID-19の症状があると示されたweb訪問者に対しては、連絡先を収集し、すぐに連絡を取って状況を詳しく確認できるように、さらに努力を重ねました。その結果、Mercyは数か月で35,000人に予約前のスクリーニング体験を提供し、検査が必要かどうかを評価することができました。想定外でしたが、Mercyは、デジタル化した大規模なサービスを個人に提供することで、同時に地域社会の健康も守るという貢献もしていたのです。
この創意工夫に富んだAdobe Targetの使用法により、Mercyが既に実施していた方法に新たな利点が加わることになります。Mercyでは、以前から、コンバージョン率を最適化させるために、Adobe Experience ManagerとAdobe Targetを連携して使用していました。チームはいくつかのコンバージョンファネルを使用していましたが、その過程で、ファネルの両端の顧客に対応することがいかに重要であるかを学んでいたのです。この戦略的なアプローチは、元のwebサイトの実装にも役立ち、COVID-19のランディングページとスクリーニング体験を迅速に作成するための準備としても効果を発揮しました。
Mercyは、進行中のパンデミックに対応しつつも、再び未来に目を向けて動き出しました。Mercyには、パーソナライズされた医療体験へと進化し続けるための大きな計画があり、そのアイデアを実現するために必要なツールも揃っています。「Adobe Targetは将来的に、Mercyが提供する体験を推進する、一元化されたスイッチボードになるでしょう。Adobe Experience MnagerのCRMや他の製品との高い接続性を活かして、地域社会のためにパーソナライズされた体験を推進していきたいと考えています」と同氏は語ります。
「ビジネスのペースをいかに加速できたかを評価するには、COVID-19のランディングページを1日で立ち上げられたことがよい事例になるでしょう」とKellogg氏は述べています。
米国がCOVID-19の危機に晒され続けている中で、Mercyは機敏に対応しています。ウイルスと新しい治療計画に対する理解が深まり、Mercyは患者を安全に施設に迎え入れることに集中できるようになりました。こうして、状況は徐々に「通常」に戻りつつあります。しかし、多くのことが変わりました。Mercyは、適切な技術、組織構造、文化があれば、想像以上にすばやく行動できることを証明しました。そして、医療のデジタル化はこれからも世の中に浸透していき、もはや後戻りすることはないでしょう。
Mercyのような組織にとって、これは朗報です。一足先にスタートを切ることで、他より優位に立てたからという意味ではありません。医療業界全体が患者により優れた価値を提供するように変化していることが喜ばしいからです。テクノロジーは、質の高い治療へのアクセスを向上させ、Mercyのような組織に、人々のデジタル体験や生活の質を向上させる手段を提供します。個人の尊厳が医療業界の原動力となれば、誰もが勝者となれるのです。
「私を含め、デジタルマーケターは、コンバージョン率や売上高、収益、顧客生涯価値といった数字が大好きです。しかし、COVID-19のランディングページで成し遂げたことを考えてみると、それらの数字とは関係なく、重要だったのは、患者に奉仕し、命を救うことです。私たちにとって指標は、一人ひとりの患者なのです。私たちの仕事によって、人々が検査や治療を受けられるようになったり、感染リスクの高い人々をウイルスから守ることができたとしたら、それはすなわち命を救えたということです。すべて、あのたった1ページのランディングページから始まりました。これはマーケティングの数字では表せません。かけがえのないものです」と、Kellogg氏は述べています。