動画編集をスムーズに行うためのPCスペックとは?

動画編集に興味が湧き、いざ編集ソフトを立ち上げても、動作が重くて作業が捗らないケースがあります。

 

原因として考えられるのは、古いPCを使っていてスペックが不足している可能性。動画ファイルは容量が大きいため、スペックが足りないと動画編集ソフトの処理スピードに影響を与えたり、エラーの原因になったりします。

 

また、比較的新しい数年前のPCであっても、動画編集を想定していないスペックで作られていれば、動画編集ソフトの動作は重くなってしまいます。

そこで今回は、映像作家として活躍されているスタジオねこやなぎ代表・大須賀淳さんに、動画編集をスムーズに行えるPCのスペックについて伺いました。本記事の内容は、2022年取材時のものです。

 

昨今のPCは基本性能の向上によって動画編集もこなせるモデルが増えている

 

PCを新調しようと家電量販店に向かい、売場にずらりと並ぶマシンを前に「これだ!」と即決するのは難しいでしょう。

 

メーカー、WindowsやMacintosh(以下Mac)などのOS(基本ソフト)、デスクトップかノートか、と判断するポイントが多岐に渡るからです。そしてなんと言っても重要なのは「予算」。

 

ハイスペックを求めるほど価格は際限なく跳ね上がりますが、今回は「リーズナブルかつ快適に動作するコストパフォーマンスの高いPCとは?」をテーマに探っていきます。

 

WindowsとMac、どちらも使い勝手に大きな差はない

PCのOSには、大きく分けて「Windows」と「Mac」があります。動画編集ソフトのAdobe Premiere Proであれば、どちらにインストールしても機能や使い勝手が大きく変わることはありません。PCを新調する場合も、使い慣れているPCと同じOSで検討しても問題はありません。

 

MacはApple社のみが販売していますが、WindowsOSを搭載したPCは、国内外のさまざまなメーカーが販売しています。

 

PCの中身を構成しているCPUなどの各パーツの性能は年々向上しており、買い求めやすい価格帯のモデルでも、動画編集ソフトを十分扱えるようになりました。ひと昔前は購入時にCPUをアップグレードしたりメモリ(RAM)を増設したりと、高負荷作業に耐える準備が必要でした。現在は動画編集が身近になったといえるでしょう。

 

CGを使わない通常の動画編集であれば、10〜15万円クラスが狙い目

 

PCの価格帯は、数万円から百万円を超えるものまであり、その中から選択するには、ある程度条件を絞る必要があります。Premiere Proではソフトが推奨する最低限のPCスペックありますので、今回はそれを頼りに探っていきましょう。この必要システム構成を確認しておくと、PCのスペック表を見た時に購入の判断ができます。

 

なお、制作する動画の解像度がフルHD(1080p)から4K(2160p)に上がると、取り扱うデータ量は2〜4倍に増大します。今回は、フルHDの動画をメインで制作する場合を想定し、どのくらいのスペックが必要かを見ていきましょう。

 

PCを構成する主なパーツ

 

PCのパーツは、日進月歩で性能が向上し、常に新製品が登場しています。1年経てば同程度の性能を持つパーツが、半分の値段で購入可能なケースもあるほどです。

 

PC本体は、CPU・メモリ(RAM)・ストレージ(ROM)・GPU・そのほか電源やマザーボードといったパーツ群で構成されています。

 

各パーツごとに専門メーカーが複数存在し、性能向上や価格競争でしのぎを削っている状況です。

 

CPU(プロセッサー)

「CPU」はPCの頭脳にあたるパーツです。ソフトのさまざまな処理を行っており、その速度が性能に直結しています。

 

CPUの銘柄で有名なのは、インテル社のCoreシリーズや、AMD社のRyzenシリーズ。どちらも高性能なラインとして位置づけられています。これらがPCのスペック表に記載されていれば動画編集もこなせると、基準の一つにしてもよいでしょう。

 

Macについては、2020年に登場した自社開発のM1、M2プロセッサー搭載のモデルであれば動画編集に対応するスペックを有しています。

 

【大須賀淳さんのワンポイントアドバイス】

昨今のCPUは、OSやソフトとの連携も強化され、負荷の大きい作業にリソースを割り当てる機能が搭載されています。高速処理と省電力化を両立し、ノートPCでも余裕で動画編集できる時代になりました。ただ、安すぎるモデルにフォーカスしすぎるのも注意が必要です。インテル社のCeleron(セレロン)のCPUを搭載したマシンはPC初心者向けのスペックとなっているので、動画編集にはおすすめしません。

 

メモリ(RAM)

メモリはデータを一時的に記憶しておく働きをします。CPUと同様に処理速度への影響が大きいパーツです。

 

編集作業中に何らかの変更を加えた時、CPUで処理された結果がディスプレイに表示され、そのデータがストレージに保存されます。メモリは、CPUとストレージの間のデータの行き来を担う役割を持っています。搭載量が増えるほどに一度に取り扱えるデータ量も増し、動画編集のような高負荷作業時にストレスなく編集作業を続けられます。

 

メモリを「作業をする机の広さ」として捉えるとイメージしやすいでしょう。頭脳(CPU)が速くても机(メモリ)が狭ければ、仕事の効率が落ちてしまいます。

 

数年前まではPC1台に対して4〜8GBが平均的な搭載量でしたが、最近では16GB、32GBを搭載しているマシンも増えています。デスクトップPCは後から増設できるケースもありますが、ノートPCは購入時のみ増設に対応しているケースがほとんどです。

 

【大須賀淳さんのワンポイントアドバイス】

数年前は8GBでも多いとされてきましたが、最近は最初から16GBを搭載しているPCも多く登場しています。Premiere Proで動画編集をするのであれば、この16GBを基準として選んでおくと快適に編集作業が行えます。将来的にAdobe After EffectsアニメーションやCG制作にも取り組みたいと考えている場合は、メモリをさらに増やしておくことをおすすめします。

 

ストレージ(ROM)

映像や音声などのデータを保存しておく場所の総称を「ストレージ」と呼びます。種類としてはHDD(ハードディスクドライブ)や、SSD(ソリッドステートドライブ)などが挙げられます。

 

HDDはケース内で円盤状の磁気ディスクが回転し、レコード針のようなヘッドが動いてデータの読み書きを行います。SSDはフラッシュメモリを用いているため、小型軽量で読み書きがHDDよりも高速であるメリットがありますが、HDDと比べて高価です。

 

メモリと同様、ストレージも容量の単位が「GB(ギガバイト)」で表記されます。大型になると「TB(テラバイト)」表記のものもあり、容量が大きくなるほど価格も上がります。

 

内蔵ストレージの容量が大きいほど多くのデータを保存できますが、USB端子などを介して“外付け”ストレージを増設することも可能です。

 

【大須賀淳さんのワンポイントアドバイス】

PC購入時に予算を抑えたい時は、ストレージを標準容量にして、あとから外付けHDDなどを導入する手もあります。内蔵のストレージにはOSやソフトウェアなどを入れ、編集用の素材データは外付けHDDに入れる、といった使い分けをするのもいいでしょう。使い分けることを前提にすると、内蔵ストレージは512GB以上あれば多くの場合、十分といえるでしょう。

 

GPU(グラフィックボード)

動画の最終データの書き出しや、再生時にCPUの処理を補完する役割をもつGPUとよばれるパーツがあります。メーカーのスペックシートでは「ビデオカード」や「グラフィックカード」と表記される場合もあります。

 

GPUが搭載されていないPCも多く存在していますが、ないからといって動画編集ができないわけではありません。ハイスペックPCに搭載されているケースが多いです。

 

銘柄としては、AMD社のRadeon Proシリーズや、NVIDIA社のGeForce RTXシリーズが高性能モデルとして知られています。

 

【大須賀淳さんのワンポイントアドバイス】

GPUは搭載されていなくとも、最新のCPUの中に同様の機能を持つものも登場していています。GPUにこだわりすぎると電源や冷却パーツも高グレードのものが必要になり、コストパフォーマンスの観点から言うとあまり現実的ではありません。

 

今回のテーマは「リーズナブルかつ快適に動作するコストパフォーマンスの高いPCとは?」で、10〜15万ほどのマシンを想定しているので、予算から考えるとCPUをアップグレードさせられればGPUはなし、もしくは廉価なグレードのものでも十分でしょう。

 

ディスプレイ

デスクトップPCを選択する場合、別途ディスプレイが必要です。

 

現在はフルHD(1920×1080)のディスプレイが主流のため、Web上で見られる動画もフルHDでの視聴に適した解像度で作られていることが多いです。フルHD以上の解像度を持つディスプレイであれば、動画編集においても、動画の閲覧においても困ることはないでしょう。

 

【大須賀淳さんのワンポイントアドバイス】

2〜3万円の予算で24〜27インチのディスプレイが購入できる時代になっています。大きいサイズのほうが編集時のチェックもしやすく、おすすめです。

 

フルHD動画をメインに編集する場合の、PCの必要スペックまとめ

 

  • CPU……インテル社のCoreシリーズ(銘柄がi3、i5と増えていくほどに高速)、AMD社のRyzenシリーズ、Apple社のM1、M2プロセッサーであれば動画編集に対応できる。
  • メモリ……16GBを基準として選んでおくと快適に編集作業が行える。将来的に4K解像度での編集の可能性がある場合は32GB、64GBと増設を検討(ただしノートPCは増設不可であるケースが多い)。
  • ストレージ……PC内蔵(ローカルストレージ)分として512GB〜(後に編集データを移動するための外付けHDDなどの併用も検討)。
  • GPU……10〜15万ほどの予算を前提に考えると、CPUをアップグレードさせられればGPUは搭載されていなくても問題ない。
  • ディスプレイ……フルHD(1920 × 1080)以上の解像度。

 

ノートとデスクトップ、WindowsとMac、どう選ぶ?

今回は動画編集ができるPCのスペックについて紹介してきましたが、PCには多くの選択肢が存在し、どれを購入すればよいのか迷う要因にもなります。

 

じっくり腰を据えて同じ部屋で編集をする、または大画面で作業したい場合はデスクトップPCがおすすめです。ノートPCの方が割高になる傾向ですが、移動の多い人はノートPCがよいでしょう。

 

WindowsとMacの違いについても、個人ごとの「慣れ」による使いやすさの影響が大きいでしょう。

 

それぞれの特徴を挙げるとしたら、macOSを搭載するMacBook AirやMacBook ProのノートPCシリーズは、ディスプレイの発色が豊かで、編集時のチェックもしやすいでしょう。WindowsPCは、メーカーごとのサポートの違いや選択肢の多さが魅力です。購入時は実物を確認できる店頭で、ディスプレイの発色具合などもチェックして購入するのがおすすめです。

 

【大須賀淳さんのワンポイントアドバイス】

Premiere Proで快適に編集作業をこなせることを条件にすると、ノートPCは15万円程度、デスクトップPC(ディスプレイなどは除く)は10万円程度で購入できます。数年前までは考えられなかったほどリーズナブルです。

 

これから動画編集をはじめてみたい人にとって、恵まれている時代が来たといっていいと思います。ぜひ、動画編集の世界に足を踏み入れてみてください。

 

Adobe Premiere Pro

Adobe Premiere Rush

Adobe Express

 

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取材協力: 

大須賀淳(おおすが・じゅん)

1975年生、福島県出身。映像作家、音楽家。スタジオねこやなぎ代表。企業ビデオなどのさまざまな映像・音楽コンテンツを制作すると同時に、書籍や雑誌での執筆、大学やeラーニングなどでの講師、製品デモなども数多く務める。近著は「Adobe Premiere Pro超効率活用術」(玄光社)「YouTuberの教科書」(インプレス)ほか。

公式サイト:https://junoosuga.com/

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(取材・執筆:赤坂太一 編集:ノオト)