VTuberとは?なり方や仕事内容・機材・ソフトについて
オンライン動画共有プラットフォーム『YouTube』の登場以降、誰もが気軽に動画を使った情報発信が可能になりました。YouTubeに動画を配信する人を『YouTuber』と呼び、近年では小学生のなりたい職業ランキングの上位に入るなど、世間的な認知度も高まっています。YouTuberの活躍と同時に注目を集めているのが、キャラクターを使い配信を行う、『バーチャルYouTuber(VTuber)』です。VTuberとは一体どのような職業なのでしょうか。
今回は、VTuber事情に詳しい映像作家の大須賀淳さんと、VTuberとして活躍しているイラレ職人コロさんの2名にインタビュー。専門家の知見をもとに、VTuberのなり方や仕事内容、年収、必要な機材・ソフトなどをご紹介します。
そもそもVTuberとは何か、活動の種類と仕事内容について紹介します。
VTuberとは
VTuberとは、2DCGや3DCGのアバターを使い、YouTube動画を配信する『バーチャルYouTuber』の略称です。現在日本国内でも、多くのVTuberが活躍しています。VTuberの明確な定義はありませんが、配信者が動画で顔を出す場合はYouTuber、顔を出さずにアバターを使用する場合はVTuberとして区別されるのが一般的です。VTuberはテーマ先行型とキャラクター先行型の2つのタイプに分けることができます。
テーマ先行型VTuber
テーマ先行型とは、配信者の発信したい情報が明確化されているパターンです。YouTubeに動画を公開したいけれど、防犯上や職業柄などの事情で顔を出すことが難しい場合に、本人に代わってキャラクターを登場させて情報発信をします。専用ソフトを使えば一人でも簡単に始められるため、個人で活動する人が多いのもテーマ先行型の特徴です。
【イラレ職人コロさんのワンポイントアドバイス】
僕はAdobe Illustratorのチュートリアル動画をYouTubeに公開している「テーマ先行型」のVTuberです。Adobe Illustratorの基本操作を伝える際に、優しく教えてくれそうな雰囲気を感じ取って欲しいという想いを込めてイラストのキャラクターを作成し、2DCGのVTuberを選択しました。自分がどのような情報発信をしたいかが、重要な判断基準になるので、まずはコンテンツの骨子を明確にしてみましょう。
キャラクター先行型VTuber
キャラクター先行型は、キャラクターが人格を持ち、タレント化した活動を行うのが特徴です。2DCG、3DCGで作ったキャラクターを動かし、歌やダンスなどのパフォーマンスをします。最近では、企業単位で商業的に運営しているケースも増えています。VTuberはアニメのキャラクターに近い面があり、作画を行うイラストレーターやアニメーター、原画を動かすCGデザイナーやモデレーター、ストーリーを考えるシナリオライター、セリフを吹き込む声優などが集まり、チームやプロジェクトとして動いています。
キャラクター先行型VTuberの代表的な存在として知られているのが、2016年から活動を始めたキャラクター『キズナアイ』です。彼女の誕生により、VTuberの文化が急激に拡大したと言われています。イベントやTVに登場したり、日本政府観光局ニューヨーク事務所の訪日促進アンバサダーに就任したりと活動は多岐に渡り、現在チャンネル登録者数が最も多いVTuberです。
VTuberの年収はどのように決まる?
VTuberの年収は活動内容によって異なります。収益化が見込めるVTuberの活動をご紹介します。
YouTubeの広告収入
YouTubeでは、公開した動画の閲覧数やチャンネル登録者数に応じて広告収入を得ることができます。YouTubeから一定の収益を得るためには、下記3つの条件を満たすことが必須です。(2021年8月時点)
・チャンネル登録者数1,000人以上
・過去1年の総再生時間4,000時間以上
・YouTubeのガイドラインに反していない
YouTubeチャンネルメンバーシップ
視聴者がお気に入りのチャンネルに月額料金を支払う制度です。メンバーシップの月額料金は、チャンネル開設者が設定可能で、収益の約70%を受け取ることができます。
YouTubeライブ、プレミア公開のスーパーチャット機能
YouTubeライブやプレミア公開には、スーパーチャット機能があります。この機能は視聴者が動画に対してメッセージを投稿する際、任意の金額を添えて送信できる機能です。チャンネルメンバーシップ同様、収益の約70%を受け取ることができます。
SNS
YouTubeと並行して、TwitterやInstagram、TikTokなどのSNSを運用すことで認知度が高まり、動画配信以外の仕事が発生するケースもあります。さらに最近では課金制のブログツールなども普及しており、SNSを組み合わせることで収入を得ることが可能です。
イベント・講演会
情報発信を継続していることで、認知度が高まりイベントや講演会などの依頼につながることもあります。VTuberは映像を投影するため、オンラインのイベントがメインとなりますが、「テーマ先行型」のVTuberの場合はリアルでの登壇機会もあるようです。
書籍やグッズ
YouTubeやSNSで発信していた情報やコンテンツが、書籍化やグッズ化する事例も増えています。出版社やメーカーによって、条件や収益は異なります。
【イラレ職人コロさんのワンポイントアドバイス】
僕は現在フリーランスで、Illustratorの情報発信を仕事にしています。これまでにSNSを通じて書籍の出版やイベントの登壇、教育機関での講師業などの依頼をいただきました。動画は週1本ペースで公開していて、毎月数万円の広告収入があります。もしVTuberとして独立を考えているのであれば、何かあっても大丈夫なようにしばらく生活できるだけの貯金と収入先を分散させておくことが大切です。しっかりと準備してから臨みましょう。
VTuberの将来性
VTuberはインターネット環境があれば、どこでも誰でも気軽に始められる仕事です。顔を出さなくても良いという点からYouTuberよりも参加のハードルが下がり、情報発信の1つの手段としてのニーズは高まることが予想されます。
個人で発信を行う「テーマ先行型」のVTuberは、クリエイターやインストラクターなどの職業との相性も良く、今までは会社や組織に所属していた人たちが、副業として収入を得る機会にも繋がっていくでしょう。
「キャラクター先行型」の場合は、新規のキャラクターだけではなく既存のキャラクターの活動にも大きな影響を与えます。例えば、地方自治体のゆるキャラを2D、3D化し、音声をつけることで、今までとは違ったフィールドでの活動も可能になります。どのタイプの場合も、高い将来性が感じられる職業です。
VTuberに必要な機材
スマートフォン
最近は動画編集ソフトが充実しているため、スマートフォンが1台あれば、撮影〜編集、アップロードまで可能です。加えて、バーチャルライブ配信ができるアプリも登場し、どこでも気軽にVTuberとしての活動ができるようになっています。
パソコン
スマートフォンでも一連の作業は可能ですが、動画編集や動画のアップロード、データの保管など、パソコンがあるとよりスムーズに作業を行うことができます。動画編集はパソコン作業の中でも特に重い処理のひとつです。動画編集向きのモデルやハイスペックのモデルを選ぶとよいでしょう。アドビの公式サイトには、動画編集ソフトのAdobe Premiere Proの推奨スペックが記載されているので、ぜひ参考にしてください。
マイク
VTuberの動画を作成する上で、一番重要なのがマイクです。キャラクターに動きをつけるソフトは、音声認識機能を使って口の動きを表現しているものもあります。ノイズが入ったり、声が明瞭でなかったりすると、キャラクターの口の動きにも影響がでてしまうため、性能の良いマイクを使うことが大切です。
【大須賀さんのワンポイントアドバイス】
YouTuberの場合は、配信者の表情や身振り手振りで感情を表現することができますが、VTuberの場合は声がメインになります。そのため、情報をきちんと伝える上でもマイク選びは重要です。声が聞き取りにくいと視聴者にとってもストレスになるため、ノイズ防止のフィルターや響きを抑えるシールドを使うなど工夫をしてみましょう。
VTuberに必要なソフト
VTuberとして活動するために必要な、動画編集やキャラクターの作成に使えるソフトを紹介します。
Adobe Character Animator
VTuberとして動画を配信するには、キャラクターを動かすためのソフトが必要です。Adobe Character Animatorでは、パソコン内蔵のカメラとマイクだけで2DCGキャラクターを動かすことが可能です。アバターのテンプレートを使えば、一からアバターを作らなくても簡単にVTuberの活動を始めることができます。
Adobe Illustrator
Adobe Character Animatorでは、テンプレートから選択するだけでアバターを作成できますが、自分だけのアバターを作りたいならグラフィックデザインソフトのAdobe Illustratorがおすすめ。イラストを描いてオリジナルキャラクターを作成することができます。Adobe Photoshopでもイラストを描くことができるので、作業しやすいツールを選びましょう。
Adobe Premiere Pro
キャラクターが完成し、撮影が終わったら、最後に動画の編集を行います。Adobe Premiere Proはプロフェッショナルも使っている高性能な動画編集ソフト。Adobe Creative Cloudを契約していれば誰でも利用できます。
Adobe Premiere Rush
Adobe Premiere Proと同じエンジンを用いながら、よりシンプルな操作性で動画編集できるソフトです。Adobe Premiere Rushにはモバイル版があり、クラウド上にデータを保存することで、出先でもスマホで編集をすることができます。
Voidol
Voidolはマイクに入力した音声をリアルタイムで他の声に変換できるヴォイスチェンジャーソフトです。
OBS Studio
OBSとはOpen Broadcaster Softwareの略で、パソコンでライブ配信を行う際に使用する無料ソフトです。YouTubeライブやTwitchなど多様な配信サービスに対応しています。
【大須賀さんのワンポイントアドバイス】
キャラクターの作成や編集をアドビ製品のソフトで統一することで、効率的にVTuber活動ができます。音声の変換やライブ配信アプリと上手く組み合わせることで、オリジナリティの高い情報発信も可能です。過去にアドビ公式サイトにて、VTuberのなり方・作り方を解説した記事があるので、ぜひこちらも参考にしてみてください。
VTuberになるにはどのような方法があるのでしょうか。年齢制限や独学の方法についてご説明します。
VTuberになるにはどのような方法があるのでしょうか。年齢制限や独学の方法についてご説明します。
年齢制限はある?
VTuberとして活動する上で、年齢制限は特にありません。しかしYouTubeのプラットフォームを使って配信を行う都合上、YouTubeの利用規約を厳守する必要があります。利用規約では、原則としてサービスを利用できるのは13歳以上と定められています。(2022年1月時点)
VTuberは未経験や独学でもなれる?
VTuberを目指すための大学や専門学校
現在VTuberに特化した教育機関はありません。ただし、イラストレーターやCGデザイナー、声優など、VTuberの活動をする上で必要なスキルを身につけられる学科やコースを設けた大学、専門学校に通うことは可能です。
VTuberに必要な資格
VTuberになるために必要な資格は特にないため、独学で知識を身につけて活動を行うことができます。YouTubeで動画を配信するために必要な知識をまとめた書籍やwebサイトはたくさんあるので、必要に応じて活用していきましょう。
【イラレ職人コロさんのワンポイントアドバイス】
資格や学歴なしで気軽に始められますが、VTuberの活動を通して何を伝えたいのか、それによってキャラクターの方向性も変わってきます。自分がやりたいことを整理し、コンセプトを明確にしていくことが特徴的なVTuberになるコツです。
そしてSNSにはそれぞれ特性があり、使っているユーザーの傾向も大きく異なります。自分のコンセプトとSNSの特性に合った使い方や見せ方をデザインする能力も大切だと思います。記事や本で調べたりするだけではなく、実際に使ってみてユーザーの反応を観察し、自分にとってベストな形を模索していきましょう。
また、VTuberであっても人との繋がりは重要です。現に僕はSNSを通して出会ったたくさんの人たちのおかげでここまでやってこられました。時には知らないことを教えてもらったり、応援の言葉で勇気づけられたり、普通に働くだけでは機会がなかったであろう凄い人や大きな仕事とも出会えました。対面で人と話すのは苦手という人も、SNSだからこそできるコミュニケーションがあるはずです。勇気を出してチャレンジしてほしいと思います。
VTuberのスキルが学べる書籍
(スタジオ・ハードデラックス編/河出書房新社)
人気バーチャルYouTuber17人のインタビューや動画の作り方が丁寧に解説されています。機材にコストをかけず始めたい人、ビジネスとして本格的に始めたい人はチェックしてみましょう。
(大須賀淳著/インプレス)
YouTubeアカウントの作り方から再生数が伸びる動画作りの裏技まで、YouTubeに動画を投稿するために必要な知識がしっかりと身につく1冊です。
おすすめのオンラインコンテンツ
アドビ公式サイトでは、VTuberの活動に役立つオンラインコンテンツを公開しています。初心者向けの基本知識や操作の解説から、上級者向けのテクニックや表現方法まで、ニーズや目的に合わせてチェックしてみてください。
職業としてVTuberが認知され始めたのはごく最近で、現状ではVTuberの求人情報は限られています。個人で情報発信を行うケースの多い「テーマ先行型」の場合は、会社に所属せずに自分が培ってきたスキルを活かし、コンテンツを配信することが収入を得る一番の近道になります。
一方で、「キャラクター先行型」は、自分がどのようなパートでVTuberに関わりたいかを明確にすることで、イラストレーターやCGデザイナー、声優など、プロジェクトに必要な職種や会社を具体化することができます。
また「テーマ先行型」、「キャラクター先行型」ともに、事務所に所属するという選択肢もあります。VTuberとして今後どのような活動をしていきたいかをしっかりと考え、適した働き方を見つけましょう。
【イラレ職人コロさんのワンポイントアドバイス】
個人でVTuber活動を行うことは、自由度も高く自分がやりたいことにチャレンジできるなどメリットも大きいですが、一人ですべての作業をしなければならないので、事業化する場合は大変なことも多くあります。キャラクターを使ってクリエイティブな活動をすることが一番の目的であっても、ビジネスとして取り組むのであれば、どのように収益を生むかなどの経営的な視点も必要です。もし自分の得意なことに専念したいという思いがあれば、チームやプロジェクト化された案件に携わったり、事務所に所属したりすることをおすすめします。
機材やソフトのパフォーマンスの向上に伴い、誰でも気軽に動画の撮影、編集ができる時代が到来しました。バーチャルのキャラクターを活用することで、動画配信のハードルも下がり、今後VTuberという職業は一般的な職業になっていくでしょう。キャラクターデザインから動画編集まで、アドビ製品を使ってVTuberの活動をスタートしましょう。
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取材協力:
大須賀淳(おおすが・じゅん)
1975年生、福島県出身。映像作家、音楽家。スタジオねこやなぎ代表。企業ビデオ等様々な映像・音楽コンテンツを制作すると同時に、書籍や雑誌での執筆、大学やeラーニング等での講師、製品デモなども数多く務める。近著は「Adobe Premiere Pro超効率活用術」(玄光社)「YouTuberの教科書」(インプレス)ほか。
イラレ職人コロ
Adobe Illustratorのチュートリアル制作を専門とするクリエイター。1〜2分の超短チュートリアル動画『本日のイラレ』などSNSでの活動を中心に、イベントへの登壇、書籍の執筆など、クリエイター向けのコンテンツを制作・発信している。著書に『イラレのスゴ技 動画と図でわかるIllustratorの新しいアイディア(技術評論社)』など。Twitter:@coro46
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(取材・執筆:ユウミ ハイフィールド 編集:ノオト)