動画編集をするなら覚えておきたい撮影時の注意点

今や動画編集ソフトが大きな進化を遂げ、幅広い加工や修正ができるようになりました。しかし中には、カメラの設定などを間違えていて、編集ではカバーできない撮り方になってしまうこともあります。

 

今回は、動画の撮影・編集技術に詳しい映像作家の大須賀淳さんにインタビュー。編集時に修正できることとできないこと、撮影時の注意点について解説していただきました。

映像の明るさ 

 

撮影した後に動画編集ソフトを使って明るさを調整することは可能です。しかし、白飛び(本来は色のある部分が明るすぎて真っ白に写る)や、黒くつぶれた状態(本来は色のある部分が暗すぎて黒く塗りつぶされたように写る)になると、修正はほぼ不可能です。

 

実際の撮影環境では画角内すべての箇所を白飛びさせないのは難しい場合もあります。そのようなときは、メインの被写体に明るさを合わせることが重要です。例えばメインで撮りたい人物に合わせて明るさを設定し、背景は白飛びする部分があっても問題ないとすることです。被写体の優先順位を決めてから明るさを調整し、撮り始めるとよいでしょう。

 

スマートフォンのカメラでは基本的に自動で明るさが設定されますが、それでも明るすぎる、または暗すぎる場合は「露出補正」の機能を使って手動で補正できます。

 

また、カメラやスマホアプリの種類によっては、撮影時に白飛びを警告してくれる機能を搭載しているものもあります。

 

【大須賀さんのワンポイントアドバイス】

メインの被写体が白飛びしないようにカメラで調整すると、全体が暗くなってしまうこともあります。その場合は、照明器具もしくはレフ板を用いると便利です。レフ板とは光を反射させて被写体に光を当てることで明るさを補うための道具。カメラ用品店で売られている専用の商品はもちろん、100円ショップで手に入る工作用の白い板などでも、ある程度の代用が可能です。白くて平らな物であれば紙などでもよいですが、硬いほうが扱いやすいでしょう。

 

 

音量 

 

音量の調節も編集時に行うことができますが、大きすぎて音が割れている、もしくは小さすぎてほとんど録音されていないと修復は不可能です。

 

撮影時に音量を耳だけで判断するのは難しいため、カメラや音声レコーダー、スマホアプリに搭載されている音量メーターを見て確認しましょう。

 

適切な音量の目安は、メーターの目盛りで4分の3程度の範囲に収まっていることです。メーターの最大値まで振り切れるほど音が大きい、もしくはメーターがほとんど動かないほど音が小さいと後から修復できなくなるため、カメラの音量設定を調節したり、マイクの位置を変更したりして対処しましょう。

 

【大須賀さんのワンポイントアドバイス】

カメラには「リミッター」機能が搭載されているものもあります。例えば座談会で全員が笑い声を発するなどして急に音が大きくなった場合に、最大に振りきれるのを抑えてくれたりします。大変便利な機能ではありますが、リミッター機能で調整された部分が不自然に聞こえることもあるため、あまり頼りすぎないほうがよいでしょう。急に音や声が大きくなる可能性のある撮影では、念のため全体をやや低めの音量で撮っておくと安心です。

 

雑音 

 

撮影時に入りやすい雑音にも気をつけましょう。小さなエアコンの音や足音程度であれば致命的ではありませんが、メインで撮りたい人の声などがかき消されるほど大きな雑音が入ると修復が難しくなります。

 

雑音の種類で最も注意すべきなのは「人の声」です。例えばインタビューやセミナーなど人の声を収録している時に無関係な人の声が混ざってしまうと、メインの音声が聞き取りづらくなる上、編集で除去することは不可能です。

 

【大須賀さんのワンポイントアドバイス】

雑音対策のためにも、座談会など複数人で話す声を撮る際には各自にピンマイクをつけるのがベストです。もしくはICレコーダーを使って音声を映像とは別に撮り、後で編集して合わせる方法もあります。映像編集ソフトAdobe Premiere Proには、このように別々に撮った映像と音声を自動で適切な位置に合わせてくれる機能あり、便利です。

 

手ブレ

 

手ブレは編集である程度補正できますが、撮影時にできるだけブレを抑えるのに越したことはありません。

 

ズームで撮ると手ブレが目立ちやすいため、可能であれば広角で撮影するとよいでしょう。さらにビデオ用の三脚を使うとベターですが、ない場合は腕を伸ばさず脇を締め、壁などに背をもたれて体を支えると比較的安定した映像が撮れます。

 

【大須賀さんのワンポイントアドバイス】

一眼カメラの手ブレ補正機能は、カメラ本体についているものとレンズについているものがあります。本体に手ブレ補正機能が搭載されているカメラを一台持っていると、レンズを替えても対応できるため重宝するでしょう。

 

カメラやスマホを手に持って歩きながら撮影するときのコツは「トレイに飲み物を載せてこぼさないように運ぶ」のをイメージすることです。さらに撮影時の揺れを吸収してくれる機材「ジンバル」を使うと、どうしても起こってしまうわずかなブレを除去でき、きれいに撮れます。

 

ピントが合っていない 

映像全体のピントが甘い(輪郭が少しぼやけている)程度であれば、編集時にくっきり見えるよう補正することで対処が可能ですが、ピントが完全に外れている(合わせるべき物や人に合わず、無関係の物や人に合っている)のは修正不可能です。

 

ピントがずれやすいのは、ピントを合わせた後にメインの被写体が動いたり、画角内の物や人の位置関係が変わった時です。特に最近のカメラのオートフォーカスは顔認証機能に優れているために、メインの人物が横や後ろを向いて顔が見えなくなった瞬間に別の人物へピントが移ってしまうことがあります。それを防ぐためには、ピントがメインの被写体を追従してくれる機能を使うとよいでしょう。

 

銅像や建物など動かない物をメインに撮る時は、マニュアルフォーカスでピントを合わせるほうが安心です。オートフォーカスだと、不意に画角に飛び込んできた物や人(通行人や鳥など)にピントが移ってしまうことがあるからです。

 

【大須賀さんのワンポイントアドバイス】

ピントがずれたことに気づかないまま撮影を進めることがないよう、できれば外付けの大きなモニターを使い、きちんと撮れているか確認しましょう。また、録画したものをノートパソコンなどでこまめに確認しながら進行することをおすすめします。

 

余計な物の映り込み 

 

写真は1コマなので写り込んだ不要な物は編集で比較的簡単に除去できますが、動画は1秒間に何十コマも含まれているので、それだけ編集の難度が上がります。そのため撮影時には注意が必要です。

 

特に起こりがちなのは、鏡や窓、黒い車やピアノなどに出演者以外の撮影スタッフなどが映り込んでしまうことです。また、出演者のメガネに照明が写り込むこともあるので気をつけましょう。

 

余計な物を隠すためにモザイクやぼかしをかける手段もあります。例えば「画面の下半分にモザイクをかける」のように範囲を固定した処理は比較的簡単にできますが「歩いている特定の人物の顔にモザイクをかけ続ける」のような動きのある処理は一気に手間が増大します。Premiere Proには人の顔を認識し追従してモザイクをかける「トラッキング」という機能がありますが、対象の人物が横を向いたりすると顔認証が機能せずモザイクが外れることがあり、それを手動で修正するのは大きな手間なのです。

 

また、撮影環境の光の角度などによって「レンズフレア」(丸い形の光が写り込む現象)が起きることがあります。これも編集で除去するのは不可能なため、防止策としてレンズフードを装着するのをおすすめします。スマホで撮っている時は光を手で遮るだけでもレンズフレアを防げます。

 

【大須賀さんのワンポイントアドバイス】

ドラマやコマーシャル、格調高い映像美を追求した作品などはモザイクやぼかしをかけることで世界観を壊してしまうため、余計な物が映り込まないよう撮影時に細心の注意を払ってください。また、できれば撮ったらすぐ大きな画面でプレビューして余計な物が映っていないか確認しましょう。

 

レンズの汚れ

 

レンズの汚れも編集で除去するのが難しいので気を付けてください。特に雨天などでレンズに水滴が付着すると目立つため、ついた場合はすぐに拭きとりましょう。

 

そのほか、明るいところでホコリが目立つ、気温差が大きい場所でレンズが曇るといったこともあります。いつでもすぐにレンズを拭けるよう、撮影に出かける際はクリーニング用具が必需品です。

 

また、撮影現場でレンズを交換する場合がありますが、その時にカメラ内部のセンサーや内側のレンズにホコリがつくこともあります。レンズ交換はできるだけホコリのない場所で、素早く行いましょう。

 

【大須賀さんのワンポイントアドバイス】

レンズにゴミがついたり、それを拭いたりすることで傷がつく場合があります。レンズには、レンズを守る「プロテクター」をつけておきましょう。また、ホコリがついたまま拭くと傷がつきやすいため、風でホコリを飛ばす「ブロワー」があると便利です。

 

傾き 

写真では手軽に傾きを調整することができますが、動画の場合は写真ほど簡単にはできません。撮影の段階からしっかり水平垂直を保っておくことをおすすめします。

 

編集でカバーできないポイントを把握して動画撮影に臨もう 

 

編集でカバーできないポイントを把握しておくことで、撮影における取り返しのつかない失敗を防止できます。撮影技術を磨きつつ、プロ仕様でありながら初心者にも使いやすいアドビ製品も活用して、クオリティーの高い動画制作に取り組んでみてください。

 

Adobe Premiere Pro

Adobe After Effects

Adobe Premiere Rush

Adobe Express

 

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取材協力: 

大須賀淳(おおすが・じゅん)

1975年生、福島県出身。映像作家、音楽家。スタジオねこやなぎ代表。企業ビデオなどのさまざまな映像・音楽コンテンツを制作すると同時に、書籍や雑誌での執筆、大学やeラーニングなどでの講師、製品デモなども数多く務める。近著は「Adobe Premiere Pro超効率活用術」(玄光社)「YouTuberの教科書」(インプレス)ほか。

公式サイト:https://junoosuga.com/

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 (取材・執筆:北村朱里 編集:ノオト)