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
クロスカッティングを使うべき場面
電話や動画の会話を映し出す
映画ではよく、2人の登場人物が電話で会話をしているシーンを表すためにクロスカッティングが使われます。会話が進むにつれカメラは2人の登場人物を交互に映し、そして、フレームの中に会話とアクションに関連するシーンを入れます。例えば、映画『フェリスはある朝突然に』で、フェリスはベッドで寝込んでいるふりをしながら父親と電話で話しているものの、実際はコンピューターの前に座っていて、友達のキャメロンに遊びに来るよう誘っているシーンがあります。
サスペンス度を盛り上げる
クロスカッティングは、見ている人に緊張感を与えます。例えば、ヒーローが時限爆弾の信管を取り外そうと急いで走っている時、ヒーローのアクションと時を刻む時計のカットアウェイが、交互に映るのを想像すると良いでしょう。
映画『羊たちの沈黙』でジョナサン・デミ監督は、サスペンス度を盛り上げるためにクロスカットを使いますが、同時に観客にミスディレクションを与えて注意をそらさせます。悪人バッファロー・ビルが自宅にいるシーンと、FBIがある家を取り囲んでいるシーンとを交互に映すことで、デミ監督は事件がやっと解決するかのように見せます。しかしFBIが家のドアと窓を壊して中に突入すると、家は空っぽなのです。バッファロー・ビルは別の家にいて、主人公のクラリスの前でドアを開けます。クラリスは、今やたった1人で彼に立ち向かわなければなりません。
クロスカッティングはまた、フランシス フォード コッポラ監督の『ゴッドファーザー』のクライマックスシーンで見られるように、深い意味を伝えることもできます。マイケル・コルレオーネは教会にいて、妹のコニーの娘のゴッドファーザーになるところです。一方、コルレオーネ家の男達はライバルを排除しようとしています。シーンはマッチカット(テーマまたは構図が似た2つのシーンを隣合わせにしたフレーム)で始まります。最初の画面は、コニーの手に抱かれている赤ちゃんのクローズアップです。次は、男の手の中のピストルです。次にカメラは、マイケルが悪魔を放棄することを誓っている教会と、残虐な殺人シーンとを交互に映し出し、彼がマフィアのボスであるという洗礼を受けます。
クロスカッティングの巨匠、クリストファー ノーラン監督は、映画『インセプション』で、異なる階層の現実世界で同時に起きているアクションを表現するためにこのテクニックを使っています。ある有名なシーンで、主人公のアーサーは、オートバイに乗った男に追いかけられながら、スピードを出して走っているバンの中で眠っています。一方、夢の中でアーサーはホテルの廊下で男と戦っています。バンが斜めに傾き転がると、夢の中の重力も同じように働き、体が斜めになり転がります。その結果、映画の格闘シーンではとてもサスペンスに溢れ、記憶に残るシーンの1つとなりました。
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
撮影でクロスカッティングを使う方法
ビデオでクロスカッティングを上手く使うための基本的なヒントを確認します。
映像を撮るための準備をする
クロスカッティングに上手く使える映像を撮るために準備を整えます。
ショットリストを作る前に、以下の要素を考慮に入れます。
- 視点: カメラは誰の視点から見ていますか?その視点は、交互に絡ませるシーンとシーンでかなり違っていますか?違っている場合、観客はそのアクションを理解するためにどれだけの情報を必要としますか?
- フレーミング: 観客がそれぞれの場所を把握できるように各シーンを明確に表すショットを確実に見せてからクローズアップでシーンを交互に見せます。カットがマッチするように視覚的要素も揃えておきます。
- ライティング: それぞれのシーンの照明を変えてコントラストを明確にし、観客が混乱するのを防ぎます。例えば、映画 『インセプション』 では、追われているシーンの照明はブルーですが、格闘シーンはオレンジです。そうすることで観客は何が起きているのが明確にわからなくても、自分がどのシーンを見ているのかはわかります。Adobe Premiere Proの色調補正ツールを使って、コントラストのある色調を作ります。
- カバレッジ: カメラカバレッジとは、一貫したストーリーを伝えるために必要な映像のことです。2カ所、違うアングルでシーンを撮影して、後で選べるようにしておきます。いろいろなシーンがあれば、後からビデオを編集するのが大変楽になります。

Premiere Proでポストプロダクションの開始時に、ラベルカラーを使ってシーンに印を付けると、どのシーンかすぐに見分けられて便利です。「そうすれば、3つか4つのシーンをカットしている時に、タイムラインを見ればすぐにどこが強調されているのか、どこが強調されていないのかが分かります」とカラーリストでエディターのジェリー・ホルツさんは言います。
2つのシーンを交互に入れる前に、それぞれのシーンのビート(時点)を決めておきます。そしてそのシーンに、いつ入りいつ出るのか、どのように分割するのかを検討します。入り口、出口になりそうな場所にマーカーで印を付けます。「このようなビートがすべて用意できましたら、他のシーンと交互に入れていきます。まず、それぞれのシーンがそれ自体で意味が通るようにします。後で、それらが不要だと分かるかもしれませんが、それはそれで良いのです」とホルツさんは言います。
音楽を使う
音楽やその他のサウンドエフェクトは、様々なシーンを統一するのに役立ちます。例えばミュージック動画では、曲がストーリーとナレーション、パフォーマンスのシーンを繋いでくれます。これは映画や宣伝でも同様な働きをします。「パラレル編集をする上でのリスクは、1つのシーンがバラバラの感じになるかもしれない、ということです。しかし、そうしたシーンを音楽やサウンドエフェクトでカバーすればつなぐことができます」と映画製作者のテイラー・カバナーさんは言います。
このほか、照明を使って別々のシーンを表すように、音楽やサウンドエフェクトも同じように使うことができます。電話での会話の一方はマンハッタンの騒々しい街角にいて、他方が図書館にいる場合、そのコントラストは明白です。
両方の映像で動きに類似性を持たせ、登場人物に繋がりを持たせます。最初の映像で登場人物がフレームの左から右に歩いた場合、次の映像でもその登場人物を同じように撮ります。「観客からすると、1つのクリックから次のクリップに流れるように見たい考えます。そのモーションを持続させることで、それに気づこうと気づくまいと、観客につながりを感じさせることができます」とカバナーさんは言います。
混乱とサスペンスを取り違えないでください。例えば、戦いのシーンでは、人物に近寄った画面をあまり早いうちにたくさん見せないようにします。観客は誰が何をしているのか分からなくなります。「観客に疑問を持たせるのいいのですが、何を見ているのか分かってもらう必要があります」とホルツさんは言います。

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感想を聞く
観客を混乱させるかどうか確かめたい場合は、作品を見てもらうのが良い方法でしょう。映像製作も他のクリエイティブな作品と同様に、作品に深くのめり込むあまり、自らの視点を失ってしまいがちです。自分自身の判断を信じられなくなりましたら、撮影したクロスカットのシーンを人に見せて、彼らの感想を聞きましょう。彼らはアクションを映像に沿って理解できていますか?映像には持続性がありますか?観客は、1つのシーンが終わった後、そのシーンを後から思い出すことができますか?また、映像から離れた場合でも何が起こったのかわかりますか?
映画、テレビ、その他好きなコンテンツに対して常に関心をもつことが重要です。何が上手くできているのか、そして、なぜ上手くできたのかよく考えましょう。映像製作という技能を学ぶのに近道はありません。「自己研鑽し、チュートリアルを読み、それをすぐ実践してみてください」とカバナーさんは言います。
映像を制作することに失敗はつきものだと受け止めることが必要です。自分に厳しくしないでください。そして、批評家にも。