目を惹くパノラマ写真の撮り方と合成方法
写真撮影において、広い範囲を写すときは「広角レンズ」や「魚眼レンズ」を使う方法が定番です。画像をゆがませたくないときは前者、湾曲してデフォルメされたような効果がほしいときは後者を使いますが、第三の選択肢もあります。それが、「パノラマ撮影」です。
パノラマ撮影は、広角レンズや魚眼レンズ以上に広い範囲が写せます。広く写せるということは、表現の可能性も幅広いということです。そんなパノラマ写真を写すポイントからソフトを利用した合法方法まで順を追ってみていきましょう。目指すは、「目を惹く印象的」なパノラマ写真です。
目次
パノラマ写真とは
パノラマ写真とは、広い範囲を撮影した写真のことです。風景画像に利用されることが多く、360度パノラマ写真もパノラマ写真の一種となります。
「パノラマ写真=風景写真」だけではもったいない
パノラマ写真というと、ポストカードのような風景を思い浮かべるかもしれません。確かに風景はパノラマで撮りたくなる(撮りやすい)シーンですが、パノラマ写真の可能性は無限大です。「パノラマ写真=風景」と考えてしまうと、その面白さを見逃してしまうことでしょう。
風景のパノラマ写真はシーン的にもテクニック的にも撮りやすい。
パノラマ写真をはじめるには格好の被写体(練習台)といえる
実は、トップに掲載している写真もパノラマ写真です。手前の落ち葉がダイナミックに写るように、近距離でパノラマ撮影しました。このように、風景以外でもパノラマ撮影は楽しめるし、個性的な効果が演出できるのです。
「広い範囲が写せる」という点では、裏路地などもパノラマ写真にしやすいシーンといえます。長さや高さのある被写体もパノラマ向きといえるでしょう。
まずは、パノラマ写真はアイデア次第でたくさんの可能性があることを覚えておいてください。
裏路地をパノラマでスナップ。道が交差する場所で角を中心にパノラマ撮影すると、
奥行きのあるダイナミックなパノラマ写真になる
パノラマ写真を撮る方法とメリット・デメリット
パノラマ写真の撮影方法には、「スイングパノラマ」と「パノラマ合成」あります。どちらもメリットとデメリットがあります。
スイングパノラマのメリット・デメリット
スイングパノラマはスマホやデジカメに搭載されていることが多く、画面に表示された矢印の方向にカメラを振ることで、少しずつ写真をつなげる写し方です。簡単に素早く撮影できますが、写真の表現で大切な「絞り(ボケ)」や「シャッター速度(ブレ)」を駆使した撮影ができないことがほとんど。これは、本格的に写真を撮っている人にはデメリットといえます。
パノラマ合成のメリット・デメリット
対して「パノラマ合成」は、景色が連続するようにカメラを動かして写真を撮り、パソコンのソフトやスマホのアプリで「後からつなげる」タイプの写し方です。普通の撮影のように1枚ずつ写していくため、「絞り」や「シャッター速度」を駆使した表現が可能です。
「パノラマ合成」機能の例。画面は、Adobe Bridgeの「Camera Raw」画面から、
「パノラマに結合」を実行したもの。
Adobe LightroomやAdobe Photoshopにも同等の機能が搭載されている
もちろん、「パノラマ合成」にもデメリットがあります。それが、撮影している最中は「つながるかどうか分からない」という点。
「スイングパノラマ」は画面上でリアルタイムにつながっていく様子が確認できます。でも、「パノラマ合成」はソフトで編集を行わないと、上手く撮れているかどうかが分からないのです。最悪の場合、写真がつながらなくて失敗なんてこともあります。
写真表現を追求するなら、スイングパノラマよりパノラマ合成がおすすめ
このように、どちらの撮り方もメリット、デメリットがありますが、写真表現を追求するなら「パノラマ合成」が向いています。「写真がつながらない」という失敗は、撮り方で回避できます。「結果が分からない」という不安は、「つながったときの感動」と表裏一体です。広い範囲を写すには広角レンズや魚眼レンズが必要になりますが、パノラマ写真なら「普通のレンズ」で撮れるのも魅力のひとつといえます。
パノラマ合成するための失敗しない撮り方
前置きが長くなりましたが、「パノラマ合成」するための「失敗しない撮り方」を紹介します。ポイントとなるのは、「視差」です。
視差とは?視差を小さくするときれいに写真がつながる
「視差」とは、カメラを回転したときに生じる写り方の違いです。たとえば、右目と左目で景色を見比べたとき、手前と奥の物体の重なりが微妙に異なって見えることがあります。それが「視差」です。
「視差」とは見え方の違いのこと。右目と左目で見たときに景色に見え方が異なるように、
パノラマ撮影ではカメラを回転するさいに視差が生じてしまう
パノラマ写真は、この「視差」を小さくすると、きれいにつながる写真になります。とくに、「室内」や「近距離」で被写体が写るシーンはなおさらです。
ノーパララックスポイントを探す
「視差」を減らして撮影するには、「カメラの回し方」がポイントとなります。体を回転するようにカメラを回すのではなく、レンズの先端付近を中心に回転します。具体的には、カメラを右に振っても、左に振っても、手前と奥の重なりが変化しない位置を探す、ということです。
回転する位置の探し方。まずはレンズ先端の下に指をおき、そこを中心にカメラを回す。
被写体の重なりが変化するときは、指の位置を移動して重なりが変化しない位置を見つけ出す
上が視差のある状態。適切な位置で回転すると、下のように被写体を左右端に置いても重なりに変化が生じない
パノラマ撮影において、「視差」の生じない点を「ノーパララックスポイント」や、「ノーダルポイント」と呼びます。この位置でカメラを回転するアダプターもありますが、慣れれば指を支点にしても大丈夫。この技を身につければ、いつでも、どこでも、素早くパノラマ写真が撮れるようになります。指が広角レンズや魚眼レンズの代わりになるのですから、とても便利です。
パノラマ撮影を安定させる、360度回転ヘッドやプレートを利用する
また、高精度で安定した撮影が行いたいときは、下のような360度回転する雲台や三脚ヘッドと、長めの取り付けプレートを利用すると、ノーダルポイントでカメラを固定して回転しやすくなります。
パノラマ撮影に適した360度の回転ヘッドと、カメラに取りつけて回転位置が調整できる長めのプレート。
写真は「アルカスイス」と呼ばれる汎用のクイックリリースタイプのもの
スマホを使うとパノラマ合成がしやすい
ちなみに、パノラマが写しやすい機材が「スマホ」です。スマホの「ノーダルポイント」は「レンズの真下」にあるので、その部分を指で支えて回転すれば、きれいにつながるパノラマ写真になります。この考え方は、「パノラマ合成」だけでなく、「スイングパノラマ」のときも同じです。
1/4以上が目安!重なりを大きくするとつながりやすくなる
「カメラの回し方」を理解したら、次に考えるのは「重なる範囲」。つまり、写真と写真をつなげる「のりしろ」に当たる部分の広さです。
基本としては、それぞれの写真の1/4以上が重なるようにカメラを回転して写せば、とりあえずはパノラマに合成できます。
重なり部分をわかりやすく濃い色で表示した例。この写真は、3枚を結合してパノラマ写真にしている
写真の重なり(のりしろ)の考え方としては、大きいほど合成後に切り取られる範囲が狭くなるということです。つまり、「重なりが大きい=幅の広いパノラマ写真」、「重なりが小さい=幅の狭いパノラマ写真」、となります。イメージとしては、下のような感じです。
重なりと仕上がりサイズのイメージ。重なる「のりしろ」を大きくするほどパノラマ写真の幅は広くなるが、
範囲を広げるためにはたくさんの写真が必要になる
写真の周辺部分はゆがみなどが原因で、パノラマ合成に使えない(上手くつながらない)領域になりがちです。広角レンズになるほどゆがみが大きいため、重なりを大きく作らないと細長いパノラマ写真になってしまいます。
言い換えれば、失敗したくないときは「大きな重なりで撮影」すると安心、ということです。
左が広角レンズ、右が望遠レンズのイメージ。
周辺のゆがみが大きくなる広角レンズは、パノラマ合成で使えない範囲が広くなりがち
個性的で面白いパノラマ写真を撮る方法
これで、パノラマ写真の撮り方は理解できました。あとは実践あるのみです。ここからは個性的で面白いパノラマ写真を取る方法を紹介します。
遠方の景色を印象的に撮る
まずは、十分に遠方にある景色をパノラマで写してみましょう。遠くの景色は「視差」が生じにくいので、ラフにカメラを回転してもパノラマに合成できるはずです。
遠方の景色をパノラマ撮影。視差が生じにくいため簡単に写すことができる
問題は、写真が印象的かどうか。遠方の景色のパノラマは定番の撮り方のため、没個性的な写真になりがちです。要するに、「見慣れている」ということです。「稀に見る絶景」でもない限り、写真としてのインパクトを出すのは難しいかもしれません。
しかしながら、パノラマ写真はアイデア次第で様々な画作りができます。たとえば、町のスナップにパノラマを取り入れれば、広角レンズで撮影したよりもさらにダイナミックな写真になります。
夜景を活用する・被写体に近づく
ほかにも、夜のシーンを写してみたり、被写体に近づいて接写してみたり。被写体に近づく撮り方は、魚眼レンズのように湾曲して周囲が写り込むため、個性が出しやすくておススメです。
遠方の景色をパノラマ撮影。視差が生じにくいため簡単に写すことができる
ピントの位置や露出を固定する
ここからは少し、撮影の難しい話になります。被写体に近づいて写す方法をおススメしましたが、その場合、注意したいのが「ピントの位置」や「露出(写真の明るさ)」、「ホワイトバランス」です。カメラでこれらの設定をオートにしていると、写真を写すごとにボケ方や明るさ、色が変化してしまい、ムラのあるパノラマ写真になることがあります。
1枚ごとに写真の露出や色が異なる場合、上の画像のようにムラのあるパノラマ写真になりやすい。
下はピントや露出、色を固定して撮影したもの
これを避けるため、レンズを「マニュアルフォーカス」にセットしてメインの被写体にピントを合わせ、カメラを「Mモード」にして露出(絞りとシャッター速度の値)を固定します。ホワイトバランスは、「太陽光」など「オート」以外の設定を選ぶとよいでしょう。ピントと露出は、写したい被写体に合わせればOKです。この状態でカメラを回転して撮影していけば、「大切な部分」にピントと露出が合ったパノラマ写真になるというわけです。
メインの被写体でもある赤いスクーターにピントと露出を固定してパノラマを撮影。
スクーターが写っていないカット(左端)はピンボケの状態で写している
キメの構図を作っておく
それともうひとつ、パノラマ写真を上手に写すアイデアがあります。それが、「キメの構図を作っておく」というもの。
ピントと露出を合わせるとき、「一枚の写真として成立」するようにしっかりと構図を作って(考えて)からカメラを回転します。この方法で写せば、「見せたい範囲」が格好よく含まれたパノラマ写真にすることができます。
上の写真が、露出とピント合わせに使った「キメの構図」。複雑に交差した電線が不安だったが、
多少の湾曲はあるもののLightroomの「パノラマ結合」機能が上手くつなげてくれている
ソフトを利用してパノラマ合成する方法
パノラマに合成する写真を撮ったら、その先はソフト任せになります。 主なソフトを利用してパノラマ合成する方法を紹介します。
今回の写真は主にLightroomの「パノラマ結合」機能を使っていますが、Photoshopなら「Photomerge」機能でパノラマ写真が作れます。
どちらの機能も、多少の露出や色のムラがあっても目立たないように合成してくれるので、まずは「つながる」ようにカメラを回転し、「のりしろ」を十分に作って撮影してください。
カメラを回す位置(ノーダルポイント)は厳密に追い込まなくても大丈夫です。実際、トップに掲載している足元の写真は、指を支えにカメラを回して撮っています。ノーダルポイントはズレているはずだし、写真ごとに指の支えも動いているはずですが、それでも「回す位置」を意識するだけでつながりやすい写真になるものです。
パノラマ写真は面白いジャンルです。仕上がりを想像して撮影するのも楽しいし、合成した写真を見る瞬間もワクワクします。みなさんもぜひ、「こうなったか!」という驚きを体験してください。
(取材協力:桐生彩希)