マタニティフォトの撮り方
一人の人が出産する回数は、そうはありません。それだけに、生命が誕生する前の短い期間の姿を写真に収めておきたいと思う人も多いでしょう。
しかし、妊婦さんはお腹が大きくなった状態なので、写真撮影のポージングにも工夫が必要です。マタニティフォトを撮る高木慎平さんに、撮影時期、ポーズの取り方、衣装選びといった、マタニティフォトならではの撮影のポイントを聞きました。
目次
ママが主役の可愛い写真を目指す
依頼に応じてマタニティフォトを撮影している高木さんは、撮ってもらって良かったと思える写真にすることを心掛けているようです。高木さんがマタニティフォトを撮るきっかけは、
「それまで見てきたマタニティフォトでは、ちょっとクール過ぎてこれでは妊婦さんも撮られたいと思わないのでは?」
ということだったようです。子供が生まれると、子供中心の生活になり、ママが主役になれる機会はどうしても減ってしまいます。ママを可愛く写してあげよう、飾っておきたくなり、誰かに見せたくなる写真になるように撮影するそうです。
写真は撮る側の意図も大切ですが、被写体になる相手がどう思うかということも忘れてはいけません。マタニティフォトであれば、特に妊婦さんに喜んでもらえる写真にしたいものです。
マタニティフォトの撮影時期は、妊娠9~10ヶ月目がおすすめ
高木さんのところには、妊娠3カ月くらいで撮影依頼の予約が入ってくるそうですが、実際は9〜10カ月目くらいに撮影するとのこと。
個人差はあるものの、7〜8カ月ではお腹はまだちょっと小さく、生まれる直前は身体に心配があるため、ちょうど可愛くお腹がポンポンになるこの時期を選ぶようです。
頼んで撮らせてもらうのであれば、なるべく早めにお願いしつつ、どれくらいの時期に撮らせてもらうか調整したほうがよいでしょう。
ポーズの取り方
マタニティフォトはいわばポートレートです。とはいえ、妊婦さんはプロのモデルではないのですから、写真を撮られ慣れているとは限りません。ポーズの取り方を上手に伝えることが必要です。
ポージングを自分でやって見せる
言葉であれこれと指示して、すぐに応えてもらうのは難しいでしょう。高木さんの場合、自らがこんな感じというようにポーズをして見せることもあるそうです。
仰向けは辛い、横向きに寝そべるのは平気な人が多い
妊婦だから難しい姿勢もありますが、意外にできることも多いそうです。仰向けになるのは辛いそうですが、無理ということもなく、横向きに寝そべるのは平気なようです。
無理のないポージングを心がける
ただ、個人差もあるので、ポージングについては、どこまで可能なのか、本人とコミュニケーションをとりながら、無理のない範囲でお願いしたいものです。
妊娠線や正中線は、恥ずかしくないと説明する
お腹が大きくなってきた妊婦さんは、妊娠線や正中線が出てきます。恥ずかしいからと隠したがる人が多いそうですが、子供を産むためには自然のことでママらしく、ありのままがよく、恥ずかしくないことだと説明をするそうです。そこで納得してくれたら、
「こういうのはどうですか?」
という提案をしていくようです。撮影の依頼をした人ですらそうなのですから、撮らせてもらう場合では、なおのこと慎重に、少しずつ話を進めたほうがよいでしょう。
お腹に手を当ててもらうのは、パターンの1つ
妊婦さんの特徴と言えば、膨らんだお腹です。お腹に手を当ててもらえれば、見る人の目を惹きます。ただし、必ずしもはっきりとお腹が見えなくてもマタニティフォトになると高木さんは言います。
大切なのは、その人自身を可愛く写せるかが重要とのこと。マタニティと思わずに撮るくらいで、可愛く写せると言います。すべてお腹を強調したものではなく、パターンの一つと思っておくといいかもしれません。
マタニティフォトに最適なカメラの設定
マタニティフォトに最適なカメラの設定方法をご紹介します。
自然光を生かす
室内のスタジオでの撮影とはいえ、高木さんは自然光で撮ることが多いそうです。日本人にあう柔らかい光の場所を探して、撮影していきます。補助光やスポットでストロボを使うこともあるそうですが、あくまでも脇役のようです。
ポートレートでは、明暗をはっきりつけた写真もあります。もちろん、モデルさんや特徴的な顔や表情のある人であれば、十分にそれを生かせますが、柔らかい光のほうが可愛く写しやすいそうです。
標準域のレンズを使う
高木さんが使用するのは標準域のレンズ。35mm判で、50mmや40mmの焦点距離のレンズを使うことが多く、これくらいが撮影していてちょうどいい距離感で可愛く撮れるそうです。
これより望遠だと距離が必要になりますし、もっと広角だと妊婦さんよりも空間を重視することになり、また歪みも気になってきます。スタイルが良く見えるように、足は写さないようにしています。
ブレは気にしない
また、ストロボを使わないため、あまり絞り込まずに撮影でき、前ボケを生かした撮影もしやすいようです。一方、被写体ブレを防ぐためにある程度速いシャッター速度が必要になりますが、高木さんはそれほど気にしなくてもいいと言います。
ブレてても可愛く写っていればいい、ブレているのはその時楽しいことがあって笑っていたから、それもまた臨場感ということのようです。
すべてブレていては、撮られた妊婦さんも楽しくないでしょうが、なにがなんでもブレないようにする必要もなさそうです。
ヘアメイク・衣装選びのポイント
マタニティフォトではヘアメイク、衣装で大きく印象が変わります。ヘアメイク・衣装選びのポイントをご紹介します。
ヘアメイクは可愛いをテーマに
高木さんは、衣装にあったヘアメイク(髪のセットと顔の化粧)を心掛けているようで、プロのヘアメイクを頼んでいるようです。
妊婦さんの希望もありますが、柔らかい光にあわせてメイクはしっかり目に、そして立体感や表情を生かすためチーク(頬に対する化粧)を入れてもらうよう指定しています。
衣装も可愛いをテーマに
衣装は、高木さんのほうでオリジナルのドレスを用意することもあります。その際は、マタニティフォトに合いそうな透け感と、目に留まる色合いを考えているようです。女の子の心をくすぐるような色やフリルのついたデザイン。
「普段、自分で選んでは着ないけれど、ちょっと着てみたいかな?」
というギリギリを探るのがポイントとのこと。もちろん、これは高木さんに撮影を依頼する時点で、事前に高木さんが撮ったほかのマタニティフォトを見ていて、変化を希望しているからできること。
そうでない場合、たとえば頼んで撮らせてもらう状況なら、どういう写真にしたいから衣装をどうしたのか、妊婦さんが撮られて喜ぶように相談して決めるとよいでしょう。
実際に衣装を選ぶ際に、妊婦さんが逡巡することもあるようです。そんなときは、
「絶対可愛くなるから」
と声をかけるそうです。この声かけは、撮影中でも重要です。撮影の現場にいる全員で、妊婦さんを盛り上げることが素敵な写真につながります。可愛い、きれいと言葉に出すことは大切です。もしその場に夫がいれば
「言ったことがない」
と言われれば、じゃあ今言いましょうと返します。夫に可愛いと言われた妊婦さんは、やはり嬉しいものですし、緊張もほぐれ、いい表情につながります。
花は撮影直前に準備する
撮影アイテムとして重要なのが「花」です。高木さんは、撮影直前に花を買いにいくそうです。花は持ってもらうこともありますし、前ボケの要素としても使えます。
無理をさせず、リラックスした雰囲気に
衣装を次々変えて撮影するというのは、一般の人からすれば非日常です。それを楽しい時間と感じてもらえるようにしましょう。また、撮影では無理をさせず、リラックスした雰囲気にすることも重要です。
撮影側が男性だけにならないように配慮
前述のように妊婦さんのほとんどは、プロのモデルさんではありません。写真を撮られることに慣れていないのですから、緊張もします。
撮影するカメラマンが男性であれば、肌を見せることに抵抗がある人もいるでしょう。撮影する側が男性だけにならないような配慮も必要です。
実際の撮影では、高木さんのほかは、女性のヘアメイクと、アシスタントである高木さんの奥様との3人でおこなっています。
おしゃべりも大切
いい表情、つまり高木さんの言う、その人が可愛くなるようにするには、緊張をほぐす環境づくりを心がけましょう。そして、おしゃべりも大切。
無言で撮られるのは、慣れていてもどこか気まずくなることもあります。名前をどうするのか、性別はどうなのかなど、妊婦さんならではのことを嫌がらない範囲で、聞いてもいいでしょう。
夫の気分をのせる
撮影では、妊婦さんだけでなく、夫をのせて楽しい雰囲気にしていくことも重要のようです。脇にいる夫がのってくると、被写体である妊婦さんも少しずつのってくるとのことです。
夫や子供と一緒に記念撮影
被写体である妊婦さんだけでなく、一緒に来た夫や子供を撮ることも少なくないそうです。せっかくの記念ということもあります。
高木さんは、マタニティフォトとしてだけでなく、夫婦二人の写真だったり、子供がいれば家族写真だったり、妊婦さんが着替えたり休憩している間に夫だけを撮るなどもしているそうです。これも雰囲気づくりに役立ちます。
撮影時間は2時間半くらいを目安に
撮影はメイクをする時間や着替えなども含めて2時間半くらい。3〜4パターンほど撮っているそうです。写真を撮ること以前に、妊婦さんの健康が一番大切です。
こまめに休憩を取る
高木さんも、こまめに休憩を挟みつつ水分補給を促し、気持ち悪くないか、ポーズの姿勢が辛くないか聞くようにしています。人物撮影というと、あれもこれもとお願いしたくなりがちです。
セカセカせず、まったり撮影する
しかし、無理は禁物。時間に追われて撮ってしまいがちですが、セカセカせず、まったりやるのが大切だそうです。
屋内はエアコンの温度設定に気をつける
屋内であれば、冷暖房機器の温度設定にも気をつけましょう。妊婦ということもありますが、マタニティフォトではお腹を見せるために、薄着になることも少なくありません。
寒くないよう、冷えないように室温は暖かめにし、頻繁に寒くないか、暑くないか聞くようにしているそうです。
体調にしろ、温度にしろ、一度確認したらそれで済ませるのではなく、妊婦の体調の変化を見逃さないように、頻繁に聞くようにしたほうがいいでしょう。くれぐれも写真を撮っていたことで、悪い影響が起きないようにしたいものです。
写真を撮るというよりも、遊びに来たと思ってもらえるようにしていると高木さんは言います。
暗い写真にならないように、色を調整しよう
高木さんはRAWで撮影し、Lightroomを使って調整し写真を仕上げています。ホワイトバランスもこのときに調整します。その際、暗い写真にならないように気を付けているとのこと。
間もなく出産というおめでたい状況ですから、暗くする必要はないのです。特に肌の色は、注意深く微調整しています。真っ白にする必要はないものの、明るくなるように色白めに仕上げるそうです。
逆に、初めから色白の人であれば、少し肌の色を濃くして健康的に見えるように調整することもあります。
ただし、レタッチだけでなんとかしようとするのは禁物。撮影段階で整えておくことが大切です。色のある衣装や色のある花などを選んでおけば、仮にグレーのバックであっても写真は暗くなりません。
夫が撮影に協力することが大切
もし、あなたの妻からマタニティフォトを撮りたいと言われたら、ぜひ協力してあげてください。何人もたくさん産めるとは限りませんし、一生に一度という人もいるでしょう。残したいと思った気持ちを理解してあげることが大切です。
高木さんのところに撮影の依頼にくる夫婦は夫も協力的なことが多いそうです。仮に夫が面倒くさそうと思うと、伴侶である妊婦の表情にも出てしまうようです。
一方で、夫のほうから妻に撮影を提案して、撮影に来る夫婦もいるそうです。その際も、夫側の好みを押し付けないようにしましょう。妻が撮られて嬉しくなるような写真/カメラマンをInstagramなどで探して、
「こんなのどう?」
と提案すると、その気がない人でも撮られてもいいかもと思うようです。
繰り返しになりますが、マタニティフォトを撮る際は、楽しい雰囲気づくり、そして被写体である妊婦さんが楽しめることを意識しながら可愛くなるように撮ることが大切です。