風景写真の撮り方
美しい風景を写した写真は、見ていて気持ちのいいものです。そこに行ったような気分になると同時に、そこに行ってみたいと思えてきます。
一方、自然の中に入っていき対峙する「風景写真」ならではの撮り方もあります。風景写真家として活躍している清家道子さんに、撮影地や機材の選び方、構図の決め方といった風景写真を撮るコツ話を聞きました。
撮影地場所を選ぶコツ
いいなと思った風景にレンズを向けてシャッターを切れば、それは立派な風景写真ですが、闇雲に移動していてもいい場所が見つけられるわけではありません。清家さんの被写体選びには、以下の二つのパターンがあるそうです
1. 事前にリサーチをする
リサーチには、ネットを活用することも多いそうです。SNSなどでは今の情報が多く掲載されています。どこどこで花が咲き始めたり、紅葉が始まった、といったことを調べています。
2. 経験に基づいた勘で決める
後者は勘といっても、経験に基づくものです。たとえば、スマートフォンには、どこから太陽が出て沈むのか簡単に確認できるアプリを入れているそうです。日中訪れたときに、どの辺から太陽が出たり沈んだりするのか、確認しています。
日常の生活の中で、下見をしているとよいかもしれません。清家さんは、北極星や天の川、日の出/日の入りの位置は確認し、どの位置で撮ればどう撮れるか頭のなかでイメージし、データとして貯めておくそうです。
風景写真に最適な撮影機材の選び方
風景写真で相手になるのは自然そのもの。撮影に適した機材は、被写体やそこまで行く道のり、気温などによって変化します。
撮影地近くの駐車場で機材を選ぶ
撮影地近くまでは車で移動して、そこから徒歩で移動する清家さんは、様々な条件を想定して、カメラ関連機材を車に積んでいるそうです。その中から、駐車場で最適な機材を持って行く鞄に改めて詰め直しています。
様々な撮影に対応できるようレンズや三脚、鞄などを色々と車に積んでおき、現地で選んでいるようです。
機材の重さを考える
持っているレンズをすべて持って行けば、当然どんな条件にも対応できますが、かさばりますし、重量も相当なものになってしまいます。
最小限まで切り詰めなくても、あれもこれもではなく、無理をしない範囲で選びたいところです。ときには割り切りも必要かもしれません。
清家さんの場合、レンズは3本くらい、「もう少しと思ってもできれば2本くらいにおさえておく」そうです。それでも、リュックの重さに肩を痛めてしまったこともあるとか。
過去にはフィルム中判カメラで撮影していたという清家さんも、今はミラーレスのデジタルカメラをメインで使用しています。自分の体形にあったカメラを選んで欲しいそうです。
機能面も大切ですが、重い荷物を持ち歩いて疲れてしまっては、せっかくのシャッターチャンスも逃してしまうことになりかねません。.....実際、マイクロフォーサーズのカメラと、フルサイズのミラーレスカメラを、機能や機材の大きさ・重さなどを考え、使い分けているそうです。機材にあわせて、いくつか用意してある中から最適な大きさのカメラバックへ、機材を駐車場で詰めています。
三脚は重くても必要
重くてかさばる荷物といえば三脚です。清家さんは、基本的に三脚を使って撮影しています。今日ではカメラも進化し手ブレ補正機能も向上しています。
5段や6段という効果を持つカメラシステムもありますから、たしかにブレを抑えるという意味では手持ち撮影でも十分でしょう。
しかし、構図を決めて微調整をしながら撮影していくには、やはり三脚はあったほうが便利でしょう。特に風景写真では、微妙な構図の違いが写真の印象を大きく変えます。
三脚はパイプが太いものほどしっかりして、重い機材に対応できブレも抑えられます。ただし、それだけ重量も増します。水の中でも三脚を立てる清家さんの場合、水の勢いに耐えられる重い三脚を使うこともあるそうです。
もちろん、常に重い三脚が必要になるわけではありません。険しい道を長い距離歩くのであれば、軽くて小さい三脚のほうが持ち運びは容易です。こちらも何を撮るのかに加えて、体力に合わせて選びたいものです。
メモリーカード、バッテリーの予備も用意しておく
メモリーカードやバッテリーも、持ち物として重要です。現在のデジタルカメラは、メモリーカードがなければ写真を保存できませんし、まだまだ撮影したくても、バッテリーが切れてしまえば、カメラはただの重い塊ともいえます。
どれくらい撮影するのかだったり、使用する機材だったりによって異なりますが、途中で撮りたくても撮れないということにならないように、必要に応じて予備を用意しておいたほうがいいでしょう。
冬は温度調節がしやすいよう、重ね着がおすすめ
風景写真は自然と向き合うことでもあります。山の中に入っていくこともあれば、寒空の下で撮影の瞬間を待つこともあります。清家さんは、寒さ対策には十分な準備をして撮影に臨むそうです。
冬は温度調整がしやすいように、厚手のアウターを一枚で済ませるのではなく、何枚も重ね着をして調整しやすくしているそうです。
夏は虫さされ対策として、長袖がおすすめ
夏であれば、虫さされを予防するため、長袖を選んだほうがよいそうです。
撮影地に最適な靴を選ぶ
また、足元にも注意が必要です。舗装路ではない道を行くのであれば、それに適した靴が必要になります。清家さんの車には数足の靴が用意してあり、撮影地に合わせて使い分けているそうです。
寒い季節、濡れる可能性があるところでは、寒くならないように長靴やブーツを選びます。運動靴や登山靴では、水が染み込んでくると非常に冷えることがあるため、濡れないようにするという具合です。
川など水に入る可能性がある場所では、鮎タビを履くこともあるそうです。鮎タビは渓流釣りなどで用いられる専用の長靴で、防水性に優れ、靴底がフエルトなどになっていて、濡れた岩に上ったり、氷の上を歩いたりするときでも、滑りづらくなっています。
霧や靄は低いところから撮った方が密集して写せます。そのためには、水の中に入る必要もあり、胸まである長靴(胴長/胴付長靴)も用意しているそうです。
水や携帯食を用意する
数時間お店のないところを歩くことになります。水や携帯食なども鞄の隅に用意しておくのも大切。空腹に耐えかね、シャッターチャンスを逃すということは避けたいものです。
撮影のためのカメラやレンズ、服装やカバン、靴、三脚などこれで完璧という組み合わせはありません。特に自然と対峙する風景写真では、何を撮るのかに応じて、その時々で最適な組み合わせを選ぶようにしたほうがよいでしょう。
撮影場所を探すコツ
有名な撮影地では、定番の撮影場所があります。それに倣って撮るのも、もちろん価値があります。しかし、自分ならではの撮影場所を探すことも重要です。
移動しながら撮ってみる
自分ならではの風景写真を撮りたいなら、場所を色々と移動して撮ってみるのがおすすめです。
以前は全国を飛び回っていた清家さんも、最近は地元九州での撮影が増えているそうです。あまり知られていないものの、いい場所は撮りつくせないほどに見つかると言います。
まだ、発表されていない風景を発見し、撮影し、発表していく。それが撮影のモチベーションにもなっているようです。
身近にある「何か」を見つけて撮る
風景写真の被写体になる場所は、身近なところにも潜んでいる可能性があります。清家さんが以前、写真教室の指導で雨の公園に行ったときのことです。生徒も一緒に、傘をさしながら、被写体を探しながら撮影になりました。
天気が悪く、光の条件が好ましくなくても、何かしら見つけて撮ったそうです。雨に濡れた葉っぱなども立派な被写体です。
「何か」を見つけて撮るというのは、風景写真を撮る力にもなります。いわゆる絶景もいいのですが、遠くに足をのばさずとも、身近なとこで探してみてもいいのではないでしょうか。
構図を考えてみる
「足を延ばして、風景写真を撮りに行ったとき、これだ!」
という撮影地を見つけたとしても、やみくもに色々な場所から撮ればいいというわけでもありません。
清家さんも現場では動きながら色々な角度から撮影するそうですが、ファインダーを覗いてよく見て、自分で考えながら場所を決め、構図を整えシャッターを切るのが大切だと言います。
色々な場所から撮るものの、とりあえず撮っておくというのではなく、その一枚は追い込んで撮ることで、風景写真の完成度を高められます。
光を意識する
では、どこから撮ればよいのでしょう。清家さんは光を意識して選んでいるようです。特に逆光の条件で撮るのが好きで、太陽の位置を確認しながら動くそうです。
順光では光が全体に当たるため、モノの形ははっきりと写し取れる一方、逆光では陰影が生まれます。被写体の後ろから、光が回り込んで漏れてくるのも逆光ならではといえます。
光と構図を求めて、右に行ったり左に行ったり、岩に顔を付けたり、水の中に入ったりと、シャッターを切りながらイメージを膨らませつつ撮影場所を決めていくそうです。
よい光と構図を探す
よい光と構図を探すために、ときには地べたの寝っ転がって撮ることもあるそうです。すぐにあきらめるのではなく、粘り強く被写体に向かい合うのが大切と言えます。
自分で、見つけた被写体を、自分なりの撮り方や視点を見つけて、風景写真を撮れるようになったら素敵ですね。
風景写真に最適な設定
風景写真を撮影するには、最適な設定を考えておくことが大切です。
トリミングするかを決める
写真は、撮影後トリミングができます。適切な範囲だけを切り出す作業です。
ただし、撮影時にトリミングを前提とするのか、トリミングをしないノートリなのかは決めておいたほうがよいでしょう。気に入らなかったら後でトリミングすればいいという撮影とは、被写体への迫り方に差が出ます。
清家さんは、師匠の教えに従い今でもノートリでの撮影を前提としているそうです。四隅に余計なものが入らないようにしつつ、ギリギリまで切り詰めています。
ただし、最近はYoutubeなど動画で使うことを考え、天地(上や下の部分)は少し余裕を持たせようかと考えているそうです。どの範囲まで写すのかは、用途に合わせて撮影するとよいでしょう。
パンフォーカスになるように撮影する
風景写真では、手前から奥までボケさずに写すパンフォーカスになるように撮影することが少なくありません。絞り込んで(絞り値を大きくする)、被写界深度を深くする技法です。
清家さんもパンフォーカスになるように、絞りF11〜16くらいを使って撮影することが多いそうです。手前から奥まで距離がある広い範囲をしっかり写そうとすると、どうしても絞り込まざるをえません。
手前側にくる主要被写体にピントを合わせます。もちろん、そのぶんシャッター速度は遅くなるので、三脚を使うなどしてブレに対する備えは不可欠です。
ホワイトバランスを考える
では、カメラの設定はどうでしょう。光の色は屋外では時間や場所によって異なりますし、室内でも照明/光源によって違います。この光源に応じて、撮影時に記録する色を合わせるのが、ホワイトバランスの機能です。
朝や夕方は赤っぽい光ですが、これをあたかも昼間に撮ったかのようにできます。しかし、実際の光の色とは乖離してしまいます。屋外では、太陽光モードにしておけば、比較的目で見たときに近い色合いで撮影できます。
清家さんは、日中は基本的に太陽光にし、色が大きく変わる夕日などでは、オートホワイトバランス(自動で色を調整するモード)にしているそうです。
レタッチするなら、RAWモードで撮影する
後で調整することを考えると、JPEGだけでなくRAWモードで撮っておくとよいでしょう。データに残っている暗部や明部の階調などは、RAWデータののほうが多いため、フォトレタッチソフトなどで調整する余地が増えます。前述のホワイトバランスも自由に変更が可能です。
一方で、フォトレタッチソフトで調整するのは難しい表現もあります。シャッター速度を遅くし動きを表現するために使う
レタッチでそれっぽく再現するにはかなり手間がかかります。
風景写真では、水の流れを白糸のように表現するのに使えます。なんでもないような波が、まるで雲の表現できます。
また、PLフィルターも同様に、レタッチで処理するのは難しいフィルターです。偏光板を使ったもので一方向きからの光の反射を抑えられます。
水面の反射を抑え水の中を写し取ったり、葉や花の反射を抑え、色を濃く写せます。また、空をより青くすることも可能です。もちろん、レタッチで近づけることも可能ですが、PLフィルターを使ったときと効果の度合いも異なります。
NDフィルターもPLフィルターも、風景写真では定番のアイテムです。風景写真を撮るなら、レンズにあわせて用意しておくとよいでしょう。
カメラの操作に慣れておく
清家さんは、カメラの操作に十分に慣れておくとことも必要だと言います。手袋をしていたり、暗闇の中だったりで、カメラを操作することもあるので、基本的なシャッター速度や絞り、露出補正といった操作は、目をつぶっても手探りでできるようにしておきたいものです。
残りの体力を考えて、スケジュールを組む
欲張ってなんでもかんでも、風景写真を撮ろうとしないほうがいいようです。
色々な被写体をずっと撮影し続けるのは、体力的にも難しいものがありますし、それぞれの撮影が散漫になってしまう可能性があります。せっかく行ったのだからと欲張ってしまいがちですが、頑張り過ぎないのも大切です。
清家さんは、朝に日の出の撮影をしたら、直後はその周辺を数時間撮影するのにとどめておくことも多いそうです。風景写真の撮影は体力勝負。
日の出を待って撮影、ずっと歩き回って、夕日や夜景まで撮るのは大変です。
身体に残るエネルギーのことを考えて撮影のスケジュールを組みたいところです。
清家さんは、13〜15時くらいはゆっくり休憩することも多いそうです。その後、光が美しくなる太陽が傾いたところを狙っています。
風景写真を上達させるコツ
最後に、風景写真がうまくなるにはどうしたらいいのか聞いてみました。
「たくさん撮って、色々な人の写真を見ること」//という答えでした。自分で撮って、ほかの人の写真を見て、を繰り返すことで、写真を勉強してきたそうです。
いい場所で、いい写真が撮れたとき「自分は上手い」と思い、雑誌・写真集や写真展で別の人の写真を見て「まだまだ」と思う繰り返しだと言います。
実際に写真を撮りに行くのも大切ですが、色々な写真を見るのもまた風景写真上達のポイントと言えるでしょう。