フォトグラファーになるには? 仕事内容から必要な機材・ソフトまで
スマートフォンなどのデジタルデバイスが普及し、誰もが手軽に写真を撮れるようになった近年。趣味の世界から一歩進んで、写真を撮ることを職業にしたいと考える人も多くなりました。
今回は、プロのフォトグラファーとして豊富な経験を持つ井上依子さんにインタビュー。フォトグラファーになるにはどうしたらいいのか、仕事内容、気になる収入のこと、必要な機材・ソフトについてご紹介します。
フォトグラファーの仕事内容とは
フォトグラファーとは、静止画の撮影を職業にしている人を指します。撮影の対象は人物、商品、建物、風景などさまざま。撮影するだけでなく、ロケハン(撮影場所の下見)、小道具のセッティングに使う備品の用意といった事前の準備もフォトグラファーの仕事です。撮影後は、必要に応じてレタッチ(画像の加工)などを行い、現像(依頼主が指定するデータ形式に変換)して納品します。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
簡単なレタッチはフォトグラファーが行うこともありますが、本格的なものは専門職であるレタッチャーが行うことが多いです。ちなみに私はフォトグラファーとレタッチャーを兼任しており、撮影のみ、レタッチのみ、撮影+レタッチの仕事いずれも受注することがあります。両方できるようになると、仕事の幅も広がるのではないでしょうか。
フォトグラファー、カメラマン、写真家の違い
写真を撮る職業の呼び方は、フォトグラファーの他にも「カメラマン」や「写真家」があります。いずれも意味はほぼ同じですが、「写真家」は作家性が高く、アート寄りの作品を生み出す人が自身の肩書きとして使用する傾向が見られます。
フォトグラファーの仕事5種
フォトグラファーの主な仕事は、下記の5種類が挙げられます。
広告
クライアント企業の商品やサービスなどの魅力を広く知らせる目的で写真を撮影する仕事です。媒体は、ポスターやチラシ、店頭ポップ、パンフレット、ウェブサイトなどさまざま。撮影対象は商品そのものだけでなく、商品やサービスを使用する人物、イメージを伝えるための風景など幅広くあります。
雑誌
雑誌に掲載する写真を撮影する仕事です。ファッション誌やグラビア誌のモデル、料理雑誌の食品のほか、住宅雑誌では家の内観や外観、旅雑誌では観光スポットの風景などを撮ることもあります。
新聞
新聞社の写真専門部署に所属する社員として、もしくは新聞社と契約するフリーのフォトグラファーとして、新聞に掲載する写真を撮影します。
結婚式
結婚式の撮影を専門とする仕事です。結婚式場に所属する、フリーランスとして結婚式場やウエディングプランナーから依頼を受ける、派遣会社に登録して依頼を受けるなどの方法があります。
写真館
写真館に所属し、そこに訪れるお客様を撮影する仕事です。結婚式や成人式、七五三など記念写真の撮影がメインとなります。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
そのほかのジャンルに、スポーツ写真、音楽ライブの撮影などがあります。興味のあるもの、身近で撮影しやすいものからトライしてみると良いでしょう。
フォトグラファーの収入はどのように決まる?
フォトグラファーの収入は、会社員、フリーランス、アシスタントでそれぞれ決め方が異なります。
会社員の収入
会社員の場合は、入社後に先輩や上司のアシスタントをしながら撮影を学んでいきます。多くの場合は月給制で、給与の相場は、一般企業の正社員と同程度と考えてよいでしょう。
フリーランスの収入
フリーランスの場合は、拘束時間、カット数、撮影内容などで報酬が決まります。案件によっては1件当たり何円という形式で支払われたり、ウエディングなどでは日当として支払われたりすることもあります。
アシスタントの収入
会社員とフリーランスどちらであっても、はじめはアシスタントからスタートすることが多いです。報酬は、会社員の場合は月給、フリーランスの場合は拘束時間に応じた金額、または日当というかたちで支払われるのが一般的です。目安は、日当で1万数千円程度。仕事を得るには、カメラアシスタント専門の派遣会社に登録する方法もあります。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
カット数は少なくても、大掛かりなセットを組んだり、雨が止むまで待機になったりして、拘束時間が非常に長くなるケースもあります。仕事を受ける時は、事前に内容を把握した上で、適切な報酬額かどうか確認することをおすすめします。
比較的報酬が高い傾向にあるジャンルは、広告、ウエディングなどです。
フォトグラファーに必要な機材・ソフト・スキル
プロのフォトグラファーを目指すにあたって準備すべき機材やソフト、持っておきたいスキルを紹介します。
まずそろえたい機材・道具
フォトグラファーとしてそろえておきたい機材や道具は次の通りです。
一眼レフカメラ
スマートフォンやコンパクトデジタルカメラでも写真は撮れますが、仕事として撮影を行うのであれば一眼レフカメラは必携です。
ストロボ
人物撮影では、カメラの上に取り付けるクリップオンストロボがあると、さまざまな撮影環境に対応できて便利です。物撮りを極めたい場合は、本格的な照明機材をそろえることをおすすめします。
三脚
商品カタログや家族写真などカメラの位置を固定して行う撮影、部屋の内観や建物の外観など水平を保ちたい撮影には必要となります。
レフ板
自然光での撮影が主流になる人は、照明機材よりもレフ板を先に用意するのがおすすめです。人物撮影と物撮りのどちらにも重宝します。
フォトグラファーが使用するソフト
フォトグラファーとして仕事をするには、撮影した写真の現像や加工ができるソフトをパソコンにインストールしておくことも必要です。
Adobe Photoshop
世界中のプロフェッショナルが使っている画像編集ソフトで、フォトグラファーを目指すなら使い慣れておくのがおすすめ。写真や画像の加工・色の調整、複数画像の合成、テキストの追加や装飾などが自在に行えるツールです。自分で色合いを調整するなど専門的な加工に向いています。
Adobe Lightroom
写真の明るさ・色の調整などを行う場合に最適です。また、タグ付け機能を使ってたくさんの写真を管理・整理したり、一括編集したりすることもできます。プリセットされているフィルターの種類が多く、Photoshopよりも手軽に加工できる機能が備わっています。Lightroomを使っているプロのフォトグラファーも多いです。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
私は昔からPhotoshopを使っています。Photoshopと合わせて使うにはAdobe Bridgeというソフトも便利。ファイルを管理するソフトで、撮った写真のプレビューがしやすいため撮影時も重宝しています。
フォトグラファーに資格は必要?
写真を撮影することそのものに特化した国家資格や民間資格はありません。資格はなくても技術や経験を積むことで、プロのフォトグラファーとしての活躍が目指せます。
アドビ製品の利用スキルを証明する資格「アドビ認定プロフェッショナル」の中にはPhotoshopを使う試験科目もありますので、画像編集技術の習得や向上を目指す一環としてチャレンジしてみるのもよいでしょう。
身につけておきたい4つのスキル
フォトグラファーの仕事で求められるスキルを4つに分けて解説します。
構図を考える力
物や人を画角のどこに配置するべきかを考える力は、フォトグラファーに必須と言えます。プロが撮った構図のよい写真を見て、真似をしながらたくさん撮影することが上達への近道です。
コミュニケーション能力
撮影現場ではスタッフやモデルなどさまざまな人と関わるため、コミュニケーション能力が必要です。人物を撮影する際は、表情やポーズを引き出すためにうまく声掛けができることも大事。また、特にフリーランスとして生き残っていくためには営業の観点からもトークスキルは欠かせません。
色彩感覚
被写体ごとの色の良し悪しがわかる能力も重要です。例えば、人物の肌がくすんでいないかどうか、食べ物がおいしそうな色合いに見えているかどうかを見極めるスキルを、多くの写真を見て養いましょう。
ライティング(光をコントロールする)スキル
ライティングは写真撮影の要。照明の当て方ひとつで出来栄えが大きく変わるため、どんな光を使うとどんな写真が出来るのか、しっかり理解することが大事です。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
初心者におすすめの練習法は、太陽光だけで撮る→照明を1つだけ使って撮る→複数の照明を使って撮るという順番で練習することです。太陽は一つなので、そこを意識して基本とし、まずは照明を1灯だけで撮ることから始めると光と影の関係が分かりやすいのでおすすめです。私もはじめは「1灯でいかに撮るか」の訓練を重ねました。その成果は今でも生きていると思います。1灯での撮影が理解できると、多灯ライティングで撮る場合も、ライトとライトの距離や周りの壁や床天井などの光の跳ね返りがどのくらい影響あるのかなどの理解がしやすくなると思います。また、私は美術大学でデッサンの訓練もしていて、それが構図を考える力につながっていると感じます。絵が好きな人にはこうした練習方法もおすすめです。
フォトグラファーになる方法
フォトグラファーになるにはどうしたらよいのか、その方法について紹介します。
フォトグラファーの勉強ができる大学や専門学校
フォトグラファーに学歴は必要ありませんが、知識や技術を身につけるために大学や専門学校に通うのは有効な手段。大学では4年間という時間を活かして、基礎的な知識や技術を勉強するほかにも、作品づくりを通して自分の個性を追求する機会が多く得られます。専門学校では、フォトグラファーの職業訓練として、写真の技術をしっかり学ぶことができます。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
大学で有名なのは日本大学芸術学部(日芸)や東京工芸大学芸術学部の写真学科、専門学校ならビジュアルアーツ専門学校の写真学科などが挙げられます。
私が通っていた日芸写真学科は、1・2年生で写真の基礎を学び、3年生からは好きな先生のゼミを選んで専門的な勉強をするというカリキュラムでした。授業で珍しいカメラに触れる機会や、印刷やデザイン、カメラの構造などを学ぶ機会を得られて、幅広い経験ができました。OBが働いている会社でアルバイトができたり、就職に関する情報が得られたり、人脈という面でも学校はメリットがあると思います。
未経験から独学でフォトグラファーを目指す方法
撮影技術に関する情報は、書籍やインターネット上で簡単に手に入るため、未経験からでも独学でプロを目指すことは不可能ではないでしょう。まずは基礎知識を習得して、後はとにかく実践を重ねることが大事です。
知識については、写真撮影のノウハウを扱っている書籍で学べます。また、アドビ公式サイトでも撮影や編集の上達法を紹介しています。
経験を積む方法の一つに、SNSなどで被写体になってくれる人を募集する、もしくは被写体になりたい人が自分を撮ってくれるフォトグラファーを募集しているものに応募するという方法があります。また、写真好きが集まるコミュニティやSNSでのつながりを活用して、撮影に関する相談や情報交換ができるのも今の時代の強みでしょう。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
私も大学に入る前、とにかくいろいろな人にお願いしてたくさん撮らせてもらっていた時期がありました。日芸に受かったのは、そのように経験を重ねていたおかげも大きいと思っています。また、写真のノウハウが学べる本は玄光社から多数出版されているのでチェックしてみてください。
フォトグラファーのキャリアパス
プロのフォトグラファーとして、どのようにキャリアを重ねていけばよいのかを解説します。
フォトグラファーを目指すには
一般的には、まずアシスタントとして下積みからスタートし、経験を重ねたうえでプロのフォトグラファーとして独り立ちします。アシスタントになるには、下記のような方法が挙げられます。
- 撮影スタジオに就職し、スタジオを利用するフォトグラファーの補佐をする
- 写真撮影専門の会社に就職し、先輩社員のアシスタントをする
- 新聞社や出版社に就職し、写真室に配属される
- 自分が尊敬するフォトグラファーに師事する
- 派遣会社に登録する
また、最近はアシスタントを経験せずに、自分の作品をインスタグラムに投稿し続けていたら突然撮影の依頼を受けたという人も。ただし、作品を投稿したからといって必ず仕事の依頼が来るとは限らず、安定した収入を得られるようになる保証はありません。
他職種から、または他職種へのキャリアチェンジ
デザイナーやディレクターなど、他のクリエイティブ系の職種からフォトグラファーに転向するケースもあります。実際の制作現場でフォトグラファーの仕事を見てきたことを活かせる、培ってきたクリエイティブ界隈の人脈を活かせるといった点で有利と言えるでしょう。
また、フォトグラファーの経験を活かしてレタッチャーや映像クリエイターに転向、もしくはフォトグラファーと兼任するという方法もあります。有名な方だと、写真撮影も動画制作も手掛ける蜷川実花さん、もともとフォトグラファーで現在は映画監督として知られる紀里谷和明さんが挙げられます。
【井上さんのワンポイントアドバイス】
動画制作は現場での仕事を分業で行うことがほとんどですが、フォトグラファーはセッティングもライティングも基本的にすべて一人で行うもの。そのため、フォトグラファーを経験すると撮影に関する総合的なノウハウが身につきます。写真と動画の両方に興味がある方は、まず写真から始めるとよいかもしれません。
ポートフォリオは必須アイテム
仕事を受注するには、自分がどのような写真を撮影できるのか、すぐ伝えられるものを用意しておくことはマストです。そのために用意したいのがポートフォリオ。昔は印刷してファイリングしたものを持ち歩くのが主流でしたが、今はウェブ上に用意しておくとよいでしょう。
Adobe Portfolioはポートフォリオ作成に特化したツールなので、機能がシンプルで使いやすく、操作性も高いのが特徴。作るのも見せるのも手軽で、スピード感のある営業に役立ちます。
フォトグラファーの求人情報の探し方
「DXキャリア」「JOB STAGE」「MASSMEDIAN」など広告・クリエイティブ関係専門の求人サイトで探す、総合的な求人検索サイト「Indeed」などで探す、大学や専門学校に来る求人を利用するなどの方法があります。また、最近ではSNSで人材を募集している企業もあるので「フォトグラファー募集」「カメラマン募集」などで検索してみるのもおすすめです。
腕を磨いてフォトグラファーとしての一歩を踏み出そう
フォトグラファーは経験を積むほどに腕が上がっていく、奥の深い職業。自分の仕事が形として残り、人の役に立つというやりがいに溢れています。アドビ製品を活用しながら、フォトグラファーとしての一歩を踏み出してみてください。
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取材協力:井上依子
日本大学芸術学部写真学科卒業、広告写真制作会社を2社経由後、フリーランスでフォトグラファー/レタッチャーとして雑誌、広告、web媒体で活動中。2021年から、CCCフロンティアデザイン株式会社にてフォトディレクターとして撮影に関わる窓口も業務委託で行っている。提携スタジオ:株式会社AUOS(東京都中央区築地4-3-11 B1)
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(執筆:北村朱里 編集:ノオト)