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写真の印象を変える切り取り方

「せっかく撮ったけれど、何だかパッとしない」。自分が撮った写真を見て、そんなふうに感じることもあります。しかし、そんな写真も編集次第で魅力的に見せる方法があります。それは「切り取り(切り抜き/トリミング)」です。

「切り取り」とひと口に言っても、何をどのように切り取るかによって、見る人に与える印象を大きく変えることができます。今回はフォトグラファーの長野竜成さんに、「切り取り」をする際のコツや、撮影や切り取り時に使える写真の構図などについて教えていただきました。

目次

編集で写真を切り取る理由とは

写真の構図決め・切り取りのコツ

写真の切り取り方と効果

多様な切り取り方を習得して、ワンランク上の写真編集を目指そう

編集で写真を切り取る理由とは

写真には、多くの情報が写り込んでいるものです。不要なものが写りこむと写真の完成度が下がってしまったり、伝えたい情報以外に目が行き、見ている人に違うニュアンスで伝わってしまったりすることもあります。そんな余分な情報を省くことで、「この写真で何を伝えたいか」にフォーカスできる編集方法が「切り取り」です。ここでは、「切り取り」による効果や撮影時の注意点についてお伝えします。

切り取る画角によって印象が変わる

どこをどのように切り取るかで写真の印象は大きく変わります。その切り取り方によっては、写真を全く別物に進化させることができるのも「切り取り」の魅力です。

(編集前→編集後)

例えば、このカンガルーの写真は、動物園で寝ているカンガルーを撮影したもの。しかし、この写真の周囲を切り取って上下を逆にするだけで動物園らしさがなくなり、そこはかとなく「死」を感じさせる印象的な写真になりました。このように、写真の可能性が広がるという点でも「切り取り」はとても重要な編集方法の一つと言えます。

撮影時の注意点

撮影する時には、自分が「撮りたい」と思った構図から一歩引いて撮影することが大切です。なぜなら、撮りたい構図ギリギリで撮影すると、後から「もう少し横にずらしたほうがよかった」「もう少し上下に余白が欲しい」などと思っても、どうすることもできないからです。後から編集できる自由度を上げるためにも、一歩引き気味に撮るように心掛けましょう。

【長野さんのワンポイントアドバイス】

動物や赤ちゃんなどよく動く被写体を撮影する時は、動画を撮ってそこから写真に切り出すのもおすすめです。画質は少し落ちますが、一番かわいいと思った瞬間を切り取れます。これも一種の「切り取り」なので、ぜひ試してみてください。

写真の構図決め・切り取りのコツ

撮影の際に気をつけたいのは「水平・垂直を取ること」です。何気なく撮った写真は、意外と傾いています。もし傾いていたら、きちんと写真の傾きを水平・垂直になるように角度を変えてから切り取るだけでも写真のレベルが上がります。

もう一つは、「構図を意識すること」。写真にはさまざまな構図があり、それを意識して撮影をしたり写真を切り取ったりすると、出来栄えがワンランクアップします。ここでは、写真の構図にはどのようなものがあるのかを説明します。

三分割法

縦横を三分割した線を引き、その線上や線の交点に被写体を置く構図です。

また、画面を9個のマスに等分すると考え、「真ん中と上段の6マス」や「右下の4マス」など、一定のマスの中に被写体を収めるように撮ることでも写真のバランスが良くなります。料理や風景、人物など何にでも使える構図なので、初心者にもおすすめです。

四分割法

写真の縦横を四分割する線を引いて、画面を16等分して考える構図です。

三分割構図と同様に、線の上や線の交点に被写体を置くことでバランスの良い写真になります。三分割法よりも外側に被写体を配置することになるので、空間の広さが感じられる構図になります。風景を撮るのにぴったりです。

日の丸構図

日本の国旗のように、画面の真ん中に被写体を置く構図です。

見せたいものが中央に来るので分かりやすく、初心者でも撮りやすいでしょう。ただし、写真の中に被写体が点在している場合には使えません。料理や人など、メインの被写体が「これ」とはっきりしている場合に使うと効果的です。

黄金螺旋比(おうごんらせんひ)構図

別名「フィボナッチ螺旋構図」とも呼ばれており、フィボナッチ数列を元にしてできた螺旋を使った構図です。

この螺旋は、自然の摂理から生まれたバランスを持ったものなので、見る人に心地良い安定感を感じさせることができます。螺旋の中心部に被写体が来るように撮影・切り抜きをすることで、自然と視線が奥から外側へと導かれます。奥行きやダイナミックさを出したいときにおすすめです。

【長野さんのワンポイントアドバイス】

デジカメもスマートフォンのカメラもグリット線を表示できるので、撮影時には表示させておくとよいでしょう。水平・垂直が取りやすくなり、構図も決まりやすくなります。写真のクオリティが格段に上がるのでぜひ活用してください!

写真の切り取り方と効果

見る人にどのような印象を与えたいかによっても、切り取り方は変わります。ここでは、効果別に最適な切り取り方や構図を紹介します。

被写体を際立たせる切り取り方

(編集前→編集後)

被写体を際立たせたい場合は、その被写体をメインに据えて切り取りましょう。被写体に重点を置くことで、他の情報が削減されて被写体にしっかり目が行くようになります。日の丸構図か三分割構図になるように切り取ると効果的です。

風景の主役を目立たせる切り取り方

(山を主役にした構図→空を主役にした構図)

風景写真の場合は、まず主役となる被写体を決めましょう。その被写体が写真の3分の2を占めるように切り取ると、何を見せたいのかが分かりやすくなります。例えば、山と空が映っている写真であれば、山に重点を置くと山の雄大さが、空を中心にすれば空の広さや美しさが伝わります。構図としては、三分割構図か日の丸構図が使いやすいですが、広大な風景の場合は四分割構図もおすすめです。

見る人にインパクトを与える切り取り方

(編集前→編集後)

見る人にインパクトを与えたいなら、とにかく被写体に寄ることです。特に、人物写真は顔や目などにグッと寄って切り取ると表情が強調され、引いて撮影したものよりも見る人に強い印象を与えることができます。構図としては、日の丸構図がぴったりです。

空間の広がりを作る切り取り方

(柱や縁を入れない構図→柱や縁を入れる構図)

空間の広がりを作りたい場合は、見せたい部屋の手前にある柱や部屋の縁などを入れて切り取りましょう。そうすることで、見ている人が「撮影者がいるところにも空間がある」と認識して、空間に奥行きを感じられます。反対に、柱や部屋の縁が入らないように切り取ってしまうと狭く感じるので要注意です。

料理をおいしく見せる切り取り方

(編集前→編集後)

料理は、俯瞰か斜め45度の角度で撮影して、画面の3分の2を料理が占めるくらいしっかりと寄って切り取るのが一番おいしそうに見えます。構図としては、日の丸構図か三分割構図がおすすめです。

【長野さんのワンポイントアドバイス】

僕が普段使っているのは、Adobe Photoshop Lightroom ClassicとLightroom CCです。これらの切り取りツールには、8種類の構図に合わせたグリッド線が用意されているので非常に便利。構図を選んで線に合わせて写真を配置し、切り取るだけで簡単に希望の構図に仕上げることができます。

多様な切り取り方を習得して、ワンランク上の写真編集を目指そう

写真は、切り取り方一つでインパクトを与えたり、より風景を美しく見せたりすることができます。アドビ製品で簡単に切り取れるので、写真をより魅力的に編集して楽しんでください。

Lightroom

Photoshop

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取材協力:長野 竜成(ながの・りゅうせい)

フォトグラファー

1994年、東京都生まれ。高校卒業後、日本を放浪する中でフォトグラファーの道を志す。その後、フリーランスのフォトグラファーとして、マガジンハウスやヤフーなどの雑誌・Web媒体の他、Honda、FIATなど有名ブランドの撮影を担当するなど、幅広く活躍。人と向き合うことに重きを置き、被写体となる人物の生き様や雰囲気を、独自の色彩感、温度感で表現している。

Portfolio

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(取材・執筆:神代裕子 編集:ノオト)

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