オリジナルキャラクターの考えかた
キャラクターの背景、世界観を考える
漫画、ライトノベル、アニメーション、ゲームなど、キャラクターが登場するメディアはさまざまです。
深みのあるキャラクターを作るには、そのキャラクターが存在する世界観やストーリーをイメージし、その中でどんなキャラクターとして動くのか、役割、性格、動機を考えていきます。さらに身長や髪の長さ・目つき、ポージングのような見た目だけではなく、性別・年齢・国籍といった属性、服や装飾品のデザインとカラーリング等々、多くのことを考えなければなりません。
実際にキャラクターデザインを手がけているクリエイターはどのようにキャラクターを生み出しているのか。クールで魅力的なイラストで、キャラクターデザインからゲームイラストまで幅広く活動しているイラストレーターのLAMさんの例を見てみましょう。
商品PRと盛り上げを担うオリジナルキャラクター「ぞん子」
多摩美術大学を卒業後、ゲーム会社でUIデザインなどの制作を経て独立、イラストレーターとして活躍中のLAMさん。2020年5月に発売されたエナジードリンク「ZONe」の宣伝を担う公式アンバサダー「ぞん子」のデザインも手がけました。
「ZONe」公式アンバサダー「ぞん子」キービジュアル(イラスト:LAM)
「『ZONe』のプロモーションと、eカルチャーに関わるクリエイターやファンに寄り添うエナジードリンクであるという商品特性と、実際に僕も飲んでみた印象を踏まえ、“没入する/スイッチが入る/飲むと目の色が変わる”というイメージで描きました。ヘアスタイルも脳から火花が出てスパークしているようなかたちにして、飲んだ瞬間にエナジーが満ちてゾーンに入ることが伝わるように。瞳にはスタンバイマーク、片目には漫画やアニメ好きならなじみ深い眼帯をつけて、ファンの人の記憶に残るようにしています」(LAMさん)
LAMさんはキャラクターでデザインを考える際にまず顔を考え、次に人体のスケッチをしたあと髪型などシルエットを決めていくと言います。
「服装はおへそ、脚や肩など女性らしさを強調する要素を入れました。頭にツインテールの大きなシルエットがあるので、足元にも大きなシューズを描きバランスを取っています。これらの要素があることで、モノクロになっても、シルエットとしてわかりやすいキャラクターにしました」(LAMさん)
「ZONe」公式アンバサダー「ぞん子」キャラクターデザイン(イラスト:LAM)
キャッチーでユニークな要素を詰め込んだキャラクターは、誰が書いても同じキャラクターに見えるメリットも。Twitter上で開催された人気クリエイターによる「ぞん子」イラストリレー、SNSでのファンアートも活発です。
漫画、ゲーム、アニメのキャラクターは物語があり演じる役者がいて、それら全体が受け手の印象を作ります。
一方でぞん子のようなイメージキャラクターでは商品、クライアント、ユーザーのために存在し、見た瞬間にどう思われるかが重要です。そのため、一瞬でそれとわかり、キャラクター単体でプロモーションとして機能させる力が求められました。
“好き”が詰め込まれた「九条 林檎」
「AVATAR2.0 Project」のオーディションでVTuber(バーチャルYouTuber)としてデビューした「九条 林檎」はpixiv発の3Dキャラメイカー「VRoid Studio」を使って、LAMさんがキャラクターデザインのみならず3Dモデルも作成しています。
通常、キャラクターデザインをイラストで描く人と、3Dモデルを作る人は別であることがほとんどですが、オーダーではその両方を担当すること、そして「LAMさんの好きなデザインに」と自由な発想でキャラクターデザインをすることが求められました。
「九条林檎」キャラクターデザイン(イラスト:LAM)
「林檎ちゃんは吸血鬼、つり目、長い睫毛のスレンダーという僕の好きな要素が詰め込まれています。数多のVtuberの中でも埋もれないように『赤と黒の吸血鬼』と、ひと言で表現できる特徴を持たせて、パッと覚えてもらえるデザインにしました」(LAMさん)
吸血鬼は人間より上位の存在。口元は笑みを浮かべ、ポーズで上品かつ余裕がありそうな態度を表現し、コウモリのアクセサリーで吸血鬼らしさを高めています。
九条林檎キービジュアル(イラスト:LAM)
“ひと言で表現できること”はLAMさんがオリジナルキャラクターを生み出す際に意識しているポイントです。
「いろいろな要素を詰め込んで、装飾的なオリジナルキャラクターを作ることももちろんありますが、そのときもたとえば『とにかくアクセサリーが派手な女の子』と覚えてもらえるようにする。ひと言で言い表せるということは、それだけ覚えてもらいやすいということだと考えています」(LAMさん)
キャラクターの顔つきから髪型、コスチュームのデザイン、そして配色に至るまで、情報量を持たせる特徴的なポイントと過度に情報を持たせないポイントを巧みにコントロールすることで、受け手にもっとも印象に残るデザインに仕上げること。それがLAMさんのキャラクターデザインのひとつのポイントと言えそうです。
九条林檎キービジュアル(イラスト:LAM)
キャラクターにオリジナリティを出すには
ビビッドなオリジナリティを出すのはとても難しいことです。LAMさんのオリジナリティの背景には、自身に影響を与えた作品に対する“思考実験”があるようです。
「イラストレーターの竹さんやヤスダスズヒトさん、漫画家の藤崎竜さんなど昔から好きなクリエイターや作品の分析をたくさんしました。『どうしてこのキャラクターは印象に残るんだろう』『なぜこんなポージングなのか』といった魅力の因数分解をして、そのエッセンスを取り出す作業を何度も繰り返して。人が特徴をタグとして覚えていられるのってせいぜい2つくらい。僕がオリジナルキャラクターを描くときも、そこに命をかけています」(LAMさん)
魅力の因数分解を繰り返すうち、感じた魅力を言語化した結果、プレゼンする力も身についたそうです。
もちろん、完璧な言語化はせず直感で進むことも同じくらい重要ですが、自分が惹かれたキャラクターの魅力、自分が描いたキャラクターの魅力を一度きちんと言葉にするのは、日常的に取り組める訓練となるはずです。
服、小物、モチーフは資料と実物をよく観察する
キャラクターの服装や小物といった細かな要素も忘れてはなりません。
「服も小物もかなり調べます。ドレスや革ジャンも質感や細部の構成を知るため資料を集めたり、ネットはもちろん100円ショップや女性向けアクセサリーショップをめぐったりします。しっかり観察できないまま描いたものは、たとえボタンひとつでもバレてしまいますから(笑)」(LAMさん)
筋肉を描く時は筋肉好きの人の気持ちに、ドレスやフリルを描く時は女の子らしい服が好きな人と同じ気持ちに立ってみることで細部の仕上がりが変化するそうです。
自分の“好き”を分析し、考え続けること。ほかの人の「好き」の側に立って同じ目線で見てみること。そのアウトプッ3トのた3め技術を発展させていくことが、キャラクターデザインの力を高めてくれるでしょう。
(取材協力:LAM)