自然な水面、水しぶきの描き方
漫画やイラストで、水のように透明で形のないものをどのように描くかは、なかなか難しい問題です。海やプールのような大量の水から、グラスに注がれた水まで、水を絵にする際に大きなポイントとなるのは「水面」です。水面は、光を反射したり、周囲の風景を映したり、波立ったりと、変化に飛んだ表情を見せます。
今回は、漫画やイラストを描く際に役立つ、水面の描き方を紹介します。
さまざまな水面の表情
水面と聞いて、海や湖、川などの自然風景を最初に思い浮かべる方も多いでしょう。
漫画やイラストでは、ほかにもプールや温泉、水たまりなどもよく登場する水面のモチーフかもしれません。
海であれば水面には大なり小なりの波が立ちます。海に起きる波は主に風によって発生します。また、引力による潮の満ち引きによっても発生します。そのため、海の場合は波をどのように描くかが、水面の描く場合のひとつのポイントとなります。
湖や池も海と同じように風が吹くことによって波が起きますが、海のように大きく複雑な波はあまり立ちません。しかし、基本的に水面が完全に静止することもありません。
空気と温度差によって水面付近で生まれるささやかな気圧の変化による、さざ波が起きます。この水面全体に広がるさざ波を自然に描くことが、湖や池の水面をそれらしく描く場合のコツと言えるでしょう。
『コミック版世界の伝記39 レントゲン』漫画:フカキショウコ、監修:岡田晴恵/発行:ポプラ社
図は川遊びによって勢いよく上がる水しぶき(左)と、深さによって変化する川の色と、流れをさえぎることで水面に浮かぶ水紋(右)の様子です。
川は大きさや深さ、流れる水の量などによって描き方は異なりますが、ここでのポイントは水の流れを描くことです。渓流などは、川底の状態や岩などによって、水面に目まぐるしく変化し、水しぶきを上げる様子を描くとよいでしょう。
また、水の表面は光を反射します。波など動きのある水面も、穏やかな水面も、光が当たる部分は反射した光でキラキラと光って見えます。水面が穏やかであれば、鏡のように周囲の風景も映し出します。
こうしたバリエーション豊富な光の反射を描くことも、水面を描く場合に欠かせません。
『#コミック版世界の伝記35 ゴッホ』漫画:フカキショウコ、監修:木村泰司/発行:ポプラ社
映り込みのある水面の描き方
「水鏡(すいきょう)」という言葉があるように、比較的穏やかな水面には、鏡のように周囲の風景などが映り込みます。湖に映る「逆さ富士」は写真や映像でもよく知られていますが、身近なところでは雨上がりの水溜りなどにも空がきれいに映り込んで見えることがあります。
映り込みは水面の状態のほか、周囲の光や角度などによって見える場合と見えない場合がありますが、漫画やイラストの場合、あえて映り込みを描くことで、水面であることをわかりやすく伝えることができます。ただ、映り込みは光の反射なので、「暗いものが映る」等、不自然にならないように注意することが必要です。
『#コミック版世界の伝記35 ゴッホ』漫画:フカキショウコ、監修:木村泰司/発行:ポプラ社
上のコマには、街並みと遠景の樹木が水面に映り込んでいます。
このような水面の映り込みを描く際、山や街並みなど映り込む対象と共に画面内に収める場合は、対象物の姿と映り込んだ姿との整合性に気をつけましょう。
デジタルで漫画やイラストを作成している場合は、対象物の画像を複製し、角度や濃度などを調整することで、手軽に映り込みを描くことができます。川などの水面に映り込む像は、基本的にあまり鮮明にはならないため、水の動きに合ったブレを入れたり、グラデーション状のレイヤーマスクなどを利用して徐々に薄くしたりと、状況に合わせて加工をするとよいでしょう。
水しぶきの描き方
砂浜に打ち寄せる波から上がる水しぶきや、渓流で岩にぶつかった水の流れから散る水しぶき、プールで遊ぶ子どもが立てる水しぶきなど、水面を描く場合に欠かせないのが水しぶきです。
水しぶきは漫画の中のコマやイラストに躍動感をあたえ、印象的な画面づくりにも役立ちます。
波の形が千変万化なように、水しぶきの形もさまざまです。
水しぶきを描くコツとしては、水にかかった力と、その力によって水が動く方向、そして重力を意識することです。
具体的には、たとえば水面を弾いた時にできる水しぶきは、水面近くでは弾いた方向に勢いよく向かい、大小さまざまなサイズで動きながら、次第に重力に引かれて下方へ向かいます。水しぶきの形や大きさは変化に飛んでいますが、他の水面を描いた時と同じように、直線や角はなくすべて曲線で構成されています。
実際に描く場合には、写真など静止した図だけでなく、実際の水しぶきを自分で観察すると、水にかかる力を実感することができます。ホースなどを使って、水の勢いを自分で調節しながら、ゆるやかな水しぶきや勢いよく飛ぶ水しぶきの動きを体感してみましょう。
海の描き方
海岸付近で無風状態でも、海上の他の場所で吹いた風によって起きた波は遠くまで伝わるため、風がない時も波は起きます。波は浜辺など底が浅い場所に近づくと、海底部分との摩擦によって波が高くなります。沖では穏やかな波が、浜辺で急に白い波頭が立つのはこうした理由です。
水は透明ですが、海や湖など深さのある水は青や青緑色に見えます。これは、青や緑、赤などさまざまな色の光がふくまれた太陽光のうち、赤系の色が水を構成している分子に徐々に吸収されるため、結果的に私たちの目に青っぽく見えるのです。
そのため、漫画やイラストで昼間の海を描く場合は、青やうす青、青緑などの色で描きます。夕陽など、太陽が沈み赤い光が届く量が多くなると、海の色は暗くなります。夕陽を反射している水面の部分は、赤やオレンジになります。
深さのある海や湖を描く場合、砂浜など浅くなるにつれて、青色が薄くなって透明になり、砂浜の色が透けるようにするとよいでしょう。
波打ち際の様子をカラーで描く場合の手順を解説します。
まず、下地の色を塗ります。先に説明した通り、深い部分から浅い部分にかけて、青色を少しずつ薄くしていきます。凹凸や波によって水の量が変わるため、青い部分とそうでない部分にむらをつくるとよいでしょう。
次に、別のレイヤーに水面に浮かぶ泡でできた模様を描き、上に重ねます。打ち寄せるにしたがって泡が増え、細かくなります。泡を描いたレイヤーを複製し、濃度を調整して水底に移った影として配置します。
今回の例には反映していませんが、正確には深い部分は水面から遠く、浅い部分は水面から近くなります。
波打ち際の泡立ちや水面に反射する光を描き入れ、全体の色味を整えて完成です。
(作画・取材協力:フカキショウコ)