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感情豊かな目の描き方

人物を描く際に、目は喜怒哀楽をはじめとするさまざまな感情を伝える重要なパーツです。漫画やアニメなど複数の人物が同一のストーリーに登場する場合には、人物ごとの特徴づけや造形の個性づけなどに、目は大きな役割を果たしています。今回は、基本の目の描き方や着彩方法、目による感情の表し方など漫画・アニメ・イラストでキャラクターの表情を描くコツと目の色の塗り方を解説します。

目次

リアル・デフォルメの絵柄によって大きく変化する「目」

基本的な目の描き方

開いた目の表情の描き方

閉じた目の表情の描き方

目の色の塗り方

目の塗り方:厚塗りの場合

リアル・デフォルメの絵柄によって大きく変化する「目」

目は、絵柄によるデフォルメの違いが大きく現れるパーツです。人間の脳は、顔を認識する力が強いため、たとえばメールなどで使われる文字記号を並べてつくる顔文字のような図でも、逆三角形の上に2つの点などが並んでいれば「目」のように見えます。人物を描く場合も、顔の中に2つの円形などがあれば、「目」として読者に認識させることが可能です。

目はデフォルメの仕方によって大きく印象が変わるパーツです(イラスト:Saku.U)

日本の漫画では、非常に多様なデフォルメ表現で人物を造形していますが、その中でも目の描き方は千差万別です。

基本的な目の描き方

漫画のジャンルや時代の流行などによって、目の描き方の主流は異なりますが、今回は、少女漫画など女性向きの漫画によく登場する、上下に大きい形状で、目の中に光を加えたタイプの目を中心に、ややリアルなタイプの目についても、解説をしていきます。

顔の中の、正しい目の位置を知る

絵柄のデフォルメによって形状が大きく異なる「目」ですが、どのような形状でも、顔の中での配置はそれほど大きく変わりません。正面顔と横顔とで、大体の目の位置は図の通りです。

左:子どもの顔/右:大人の顔(イラスト:Saku.U)

子どもは顔の全体のパーツがすべてやや下方にあるなど、男女や年齢の描き分けによって、配置のバランスは若干異なりますが、目の高さは大体顔の輪郭の上下の中心あたりに位置します。

顔のパーツの配置の決め方は、人によってさまざまです。たとえば、眉にあたるでっぱりの部分と鼻の最も高い部分を決めてから、その間に収まるように描いたり、目尻と耳の付け根の高さを揃えるラインをひいてから描いたり、額から顎先までの縦線を引いて自分の絵柄に合わせた比率で目や鼻や口を描いたりする方法などがあります。

ただ、つり目やたれ目、極端に大きな目など、絵柄によって目の位置の基準となるラインが変わることもあるため、自分で描きやすくバランスを取りやすい方法があれば、一点の方法にこだわる必要はありません。ただ、顔の角度が変わった場合に、目の位置がずれてしまうことが多いので、最初に輪郭の中で基準になる線は引くようにするとよいでしょう。

目の向きを変える時は、目の構造を意識する

実際の人間の目は、眼窩という人間の頭の部分を構成するいくつかの骨で囲まれたくぼみに、眼球がすっぽりと収まっている状態になっています。目の中に白目と黒目の部分を描き分ける絵柄の場合は、いろいろな目の向きを描く場合、こうした目の構造を意識しておくとよいでしょう。

図のグレーの円が眼球にあたります(イラスト:Saku.U)

視線を動かすときは、眼球の動きを意識する

横顔の場合、正面を向いた目を描く時は黒目の部分が前に出るため、眼球の膨らみを描く場合が多いですが、横を向いた目を描く時は白目の部分が前に出るため、明確に白目を描かない絵柄の場合は、膨らみの線も省略されることになります。ただ、その場合も、まぶたの位置は動かないことに注意しましょう。

視線を動かす時は眼球の動きを意識しましょう

両目の向きは揃える

また、少し角度のついた顔を描く場合、黒目の大きさや角度は揃えた方がバランスよく見えます。通常、目は左右同じ方向を向くため、顔がどの方向を見ていても、目の向きは左右で揃えるようにしましょう。

両目の向きは揃えて書くようにしましょう(イラスト:Saku.U)

開いた目の表情の描き方

漫画などで人物のさまざまな表情を描く際に、目は大きなポイントの一つになります。表情のちがいによって目をどのように描くかを、まぶたや眉の動きとともに、紹介します。

「微笑み、優しさ」の目の描き方

目による感情の表現(ほほえみとおどろき)(イラスト:Saku.U)

記号的な表現をする場合、「笑顔」は目を上向きの曲線で描くことが多いですが、実際の表情では、「微笑む」、「少し目元をゆるめる」、「優しい目をする」など、目を開いたままほんの少しだけ目を細めることも多いでしょう。

そうした、好感を表現する目を描く場合は、まぶたを少し閉じ気味にして、眉も目に近づけます。目を細める度合いが強くなるほど、「笑顔」に近づき、感情が強く表れるような印象になります。

「驚き」の目の描き方

まぶたや眉が逆の動きになるのが、「驚き」の表現です。目は黒目の円形がすべて見えるくらいに上下に大きく開き、眉の位置も上がって目との間が広がります。実際の人間の目はどんなに驚いても黒目の大きさが小さくなることはありませんが、目を見開くことで白目に対する黒目の割合が小さく見えるため、漫画的な表現としては黒目を小さく描く場合もあります。

漫画的な表現では、目の中や目の付近に星や弾けた光の粒、ハートなど、驚きの種類に合わせた効果が加えられることもあります。「驚き」のうち、悲しみなどの強いショックを受けた場合の表現としては、黒目の部分を含む、本来黒く描かれている部分もすべて白く描く場合などもあります。

「悲しみ」の目の描き方

目による感情の表現(涙目と上目づかい)(イラスト:Saku.U)

「悲しみ」の感情は、「泣く」という行為で表現されることが多いですが、眉尻や目尻など目の外側を下げるだけでも、「悲しみ」や「落胆」、「悲しみや辛さをこらえる」といった、マイナスの感情を表すことができます。

黒目を下に描き、視線を下に落とすと、「しょんぼり」とした印象が強くなります。涙を描く時は、潤んだ目を表すため、黒目をやや大きく描いたり、黒目の輪郭をぼやかしたりぶれさせたりといった表現方法があります。

涙が流れる場合は、一気に溢れ出す場合や、ゆっくりと涙が目の下にたまってこぼれ落ちる場合などがありますが、目からあふれた涙は、まっすぐではなく頬の膨らみに沿って流れます。

「怒り」の目の描き方

同じマイナスの感情でも、「怒り」を表す場合は、眉尻や目尻など目の外側が上がります。眉の内側の眉根は、どちらも場合もやや力が入るため、場合によっては眉間にシワをよせて表現することもあります。怒りのあまり涙がにじむ場合は、目尻が上がっているため、涙は目頭にたまる方が自然に見えます。

「甘え、戸惑い、媚び」など上目遣いの描き方

「甘え」や「戸惑い」、「媚び」などは、上目遣いで表現することができます。相手の感情をうかがう場合にも上目遣いで表現できます。単純に上方を見る場合には、視線だけでなく顔も上向くことが多いですが、上目遣いは顔の角度はそのまま、もしくは逆に少し下を向きます。目は上下に開き気味になり、眉の位置もやや上がります。

閉じた目の表情の描き方

閉じた目の描き方にも、さまざまな表現方法があります。

目の閉じ方(軽くつむる、ぎゅっとつむる)(イラスト:Saku.U)

「眠っている、軽く閉じた」目の描き方

眠っている時や自然に軽く閉じた場合は、力が入っていないため、まつげの生えている閉じたまぶたのラインは開いた時の目の下のラインとほぼ同じ位置で重なります。閉じた場合にまぶたの上に眼球の丸みを示すラインを入れてもよいでしょう。

「恐怖、緊張、考え事、悩み事」など強く閉じた目の描き方

恐怖や緊張で目を閉じるなど、強く閉じた目を表現する場合は、頬の筋肉ごと下まぶたが持ち上がるため、まつげの生えている閉じたまぶたのラインは少しだけ上に描くと効果的です。

また、まぶたや眉間にシワが寄ります。強く閉じた目の表現は、目に砂などが入った時や顔をしかめた時などにも使うことができます。漫画的には考え事や悩み事の表現として使うこともあります。

「笑顔」の目の描き方

目の閉じ方(笑顔とウィンク)(イラスト:Saku.U)

「笑顔」のうち「にっこりと笑う」など笑顔の度合いの強い場合、実際にはかなり細めた目を閉じた目として描くこともあります。

また、単に記号的な「笑顔」の表現として、上向きに弓なりに閉じた目を描くことも多くあります。

「片目のみを閉じる、ウインク」の描き方

片目のみを閉じる、ウインクを描く時は、閉じた方の眉根が下がるなど、眉も同時に動くと、単に片目を閉じただけではなく意図的に閉じて力が入っていることがわかりやすくなります。ウインクを描く場合は、顔を真正面から描くほか、やや閉じた目の方を向いた角度から描き、開いている方の目も対象の方を向いているようにすると、ウインクを向けられた対象が明確になります。

目の色の塗り方

目の部分の色を塗る時は、色の濃淡をつけたり、光の効果を加えたりするため、レイヤーを分けて作業をしていくとよいでしょう。色の塗り方は、さまざまな方法がありますので、自分の絵柄や使用するツールに合わせた塗り方がおすすめです。こちらは塗り方の一例として参考にしてください。

目の色を塗る流れ(イラスト:Saku.U)

ベースの肌色は、一番下のレイヤーで塗る

ベースの肌色は一番下のレイヤーで塗っていきます。墨で描いた線の上に、赤系の色で線を重ねることで、肌とのなじみをよくしています。

レイヤーをつくり、白目・黒目を塗る

その上にレイヤーをつくり、まず白目を塗ります。白目は真っ白ではなく、少し青やグレーがかった色にすると澄んだ印象の目になります。そして、黒目の部分に、今回は緑系の色でグラデーションをかけました。

影を描く

次は影のレイヤーです。白目部分を中心に、瞼の下の影を「乗算」で描いています。

光を描く

次は光のレイヤーです。光は、「覆い焼き」53%にしています。今回は涙目でうるうるとした状態を表現するために、色々な色をちりばめています。涙用のレイヤーも作成します。涙部分を中心に白で光を足しています。

目の塗り方:厚塗りの場合

いわゆる厚塗りと言われる油絵のような塗り方は、重厚感が出るため、リアルな絵柄での着彩などに向いています。厚塗りの手順の一例は以下の通りです。

下塗りで大まかな色を置く

下塗りをしたのち、立体感を出すために濃淡をつけていきます(イラスト:Saku.U)

まずは下塗りです。大まかに色を置いていきます。

太めのブラシで色を重ねる

下塗りを参考に、筆など少し太めのブラシで、まぶたの凹凸を表現する色を乗せ、黒目の中央にある瞳孔など目の中の部位ごとに濃淡をつけて色を重ねていきます。

色をぼかす

色をぼかしながら自然な陰影を作り、ディテールを描き進めます(イラスト:Saku.U)

重ねた色の境界を指先ツールなどでぼかしてなじませます。

メリハリをつける

ぼかした上に、細かい部分を細いブラシに持ちかえて描き起こし、メリハリをつけます。まぶたと眼球に高低差があるので、目の内側にも影を入れます。また、影だけでなく瞳孔の周囲にある虹彩なども描き加えると、より立体感が出ます。塗るたびに、指先ツールなどでこまめにぼかしていきますので、同一レイヤーで作業することが多いですが、印象を引き締めるために、最後にシャープな線を加える時は、別レイヤーにしてもよいでしょう。

仕上げにハイライトを追加する

仕上げに目にハイライトを追加します。右はアニメ塗りの例(イラスト:Saku.U)

最後に上に1枚レイヤーをつくって、白で光を入れます。光は瞳孔の脇や虹彩に沿って入れると、つややかな印象に仕上がります。アニメ塗りの場合は、細かい線は省略し、線、色、影、光と段階ごとにレイヤーを分けます。昔のアニメは濃淡表現のないセル画を用いていたため、アニメ塗りという場合はパーツごとにべた塗りと言われる濃淡のない塗り方が基本です。しかし、最近はアニメもデジタルで作画されるため、グラデーションなども使用されています。そのため、アニメ塗りという言葉が指すイメージも広がっています。

塗り方には、ほかにもツールの特性を活かした多種多様な技法があります。いろいろな技法を試す中で、自分だけの方法を編み出し、感情豊かな目の表現をさらに広げていけるとよいですね。

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