ティルトシフト撮影のすすめ
ティルトシフトレンズを使い、個性的な被写界深度で写真の遠近感を自在に操る手法を学びましょう。ここではティルトシフト撮影のテクニックを磨くためにプロの写真家がアドバイスします。
個性的な写真を目指す
風景写真をジオラマ風に仕上げる、高層ビルのラインを際立たせる、ポートレートでぼかして見せるなどティルトシフト効果は創造力をかきたてる撮影方法です。ティルトシフトレンズを使用することで、デジタルツールでしか表せない被写界深度を実現することができます。個性的な写真を撮りたいなら、ティルトシフトレンズは最適なツールかもしれません。
ティルトシフトレンズの仕組みと機能を知る
ティルトシフトレンズには、ティルト機能をコントロールするツマミと、シフト機能をコントロールする2つのツマミがあります。
ティルト機能
レンズを傾けることで、ピントを変化させる方法です。ピントの合う範囲を決めることで、ピント面が一定の方向に傾くことになります。
ピント面を傾けると被写界深度が深く、あるいは狭くすることができ、好みのフォーカスを選択できます。レンズブラーの手法を使って被写界深度を浅くする、あるいはピントをくっきりと合わせることもできます。さらには距離が異なる 2 つのポイントにピントを合わせることもできます。
ピントを操作できるのは、「シャインプルーフ」と呼ばれる原理によるものです。利用例としては、ミニチュア撮影に似せたフェイク写真が分かりやすいでしょう。画像の大部分をぼかし、被写界深度を浅くして撮影することで、現実の風景をミニチュアスケールのように見せることができます。
シフト機能
ティルトは画像のピントを変えるのに対して、シフト効果は画像の遠近感を変える手法です。シフトノブを使って、レンズを上下左右に動かし、遠近感を調節します。レンズが動くことで、センサーには画像全体のうち異なる部分が記録され、カメラ本体を動かさなくてもパノラマ写真が撮れるという仕組みです。画像の開始点にしたい箇所にレンズを向け、ノブをひねってレンズを任意の方向に移動させることで、思い通りの構図を得ることができます。
どのレンズを使う場合でも、イメージセンサーに光の輪が当たりますが、ティルトシフトレンズではイメージサークルが通常のレンズよりもはるかに大きくなり、シフトを変えることでサークルをセンサーの周りに移動させることができます。
「ファインダーで見ているものは、レンズで見ているものの一部に過ぎません。Adobe Lightroomで写真の形に切り取られたようなものだと考えてください。レンズを移動させるということは、理想的な構図を探して画像を動かすようなものです」(ニック・ウリビエリ)
例えば、パノラマタイプの機能では撮影者と被写体の位置関係にかかわらず、完全な直線を撮影できます。 建築写真では、建物が高いほど後ろ向きに見えることがありますが、 シフト機能を使えば、上に向かって完全な平行線に見えるような画像にすることができます。
編集によって遠近感を補正する
1枚の写真を撮った後、ノブを上にずらしてもう1枚の写真を撮影し、Adobe Photoshop の編集アプリでつなぎ合わせてパノラマ写真を作るという方法もあります。
「画像編集は、私の撮影作業の中でも大部分を占めています。全体の30% をオーバーラップさせていると言ってもいいほどです」(アンドリュー・ピーラージ)
Adobe Photoshop Lightroom の「変形パネル」でも遠近感を補正することができます。これらの写真編集ソフトウェアを使うと、画像を引き伸ばす、または圧縮することができますが、必要に応じてある程度画像をある程度切り取ることになります。このトリミングは頻繁に使われる機能ですが、画像に歪みがある場合はトリミングによって画質が低下する、構図が変わる、といった可能性があります。
これら撮影後の編集ツールは数多く使われている方法ですが、撮影現場で納得のいく結果を求めるなら、ティルトシフトレンズを使うと良いでしょう。
ティルトシフトシンズの5つの使い方
撮影 : ニック・ウリビエリ
1:建築写真の撮影
「街並みや建築物を撮影で直線的な写真を撮る場合は、レンズを地面と平行にして、被写体に対して垂直にする必要があります。しかし、大抵の場合は歩道から建物を見上げるような形になるため、建物全体をフレームに収めるには広角レンズが必要になります。広角レンズを使うことで建物全体が写りますが、縦のラインは真っ直ぐではなく、ある1点に向かって内側に合流するように見えてしまいます。シフトタブを使用して撮影すると、この歪みが解決し、建物が本来のように真っすぐな姿で撮影できます。」(ニック・ウリビエリ)
2:風景写真の撮影
この建築写真の撮影原理は、風景写真の撮影にも当てはまります。森や山の風景撮影は、シフト機能を使うことで線の後退を避けることができます。
さらに、ティルト機能を使うと、被写体が近くにあっても遠くにあってもシャープに写すことができます。
手前に野花があり、遠くに山がある場合を考えてみましょう。
「撮影者が花の近くにいると、普通のレンズの絞りでは花と山の両方をシャープに撮ることはできません。しかし、レンズを傾けると、ピント面が後ろに傾くので、花と山の両方とシャープに表現できるのです」(ニック・ウリビエリ)
3:ミニチュア(ジオラマ)効果
被写界深度が浅いと画面全体がぼやけていてマクロ撮影のように見えますが、ティルトノブを使うと、まるでミニチュア模型(ジオラマ)のようなシーンを再現することができます。
4:ポートレート
ウェディング写真やカップルの写真を撮影するような場合、ティルト機能のフォーカス選択を使うと、幸福感漂うムードを表現することができます。ピントが合う面を意図的に傾けることで、一部の要素だけにピントを合わせて周囲をやわらかくぼかし、被写体を引き立てることで見る人の視線を重要な部分に誘導することができるのです。
5:商品写真
「商品を撮影するとき、小さな絞りだけではピントが合わない場合はピント面を傾けることで、近くにある物、遠くにある物をシャープに見せることができます」(ニック・ウリビエリ)
被写体以外のものを意図的にぼかすこともできます。これは食べ物の写真でもよく使われるテクニックです。
ティルトシフトを使いこなすために
三脚を使用する
レンズを上に傾けつつカメラを安定させるのはとても難しいものです。可動部が多くなるティルトシフト撮影では、カメラを安定させる三脚があると良いでしょう。
購入前に試してみる
「ティルトシフトレンズはとても機能的に設計されていますが、その分、価格も高いのです」(アンドリュー・ピーラージ)
購入する前にはレンズをレンタルして試してみるなど使い勝手を確かめてから希望するレンズを見つけると良いでしょう。
「レンズを2 、3 枚レンタルして使ってから購入するのがおすすめですが、高価であっても結果的に金額に見合うだけの価値があります」(ニック・ウリビエリ)
撮影 : ニック・ウリビエリ
慣れるまで繰り返し使う
ティルトシフトレンズは、購入すればすぐにテクニックが身につくようなものではありません。デジタル一眼レフカメラのレンズに比べて慣れるのには時間がかかってしまうでしょう。
「初めてティルトシフトレンズを使ったときは、最初の 1、2 ヵ月ほどイライラしたものです。その仕組みを知るために、何度も繰り返して試してみました。実際に手に取って撮影し、失敗を繰り返すのが慣れるための最良の方法です」(アンドリュー・ピーラージ)
レンズを使いこなそうとして、いきなりティルト機能とシフト機能を使用するのはおすすめできません。最初から2つの機能を組み合わせるのではなく、それぞれを試して機能に慣れるようにします。ティルトシフトレンズはすべてマニュアルフォーカスなので、構図決めて撮影するのに時間がかかります。
「最も難しいのは、ゆっくり時間をかけてピントを合わせていくことだと思います。目標達成のためには慎重に進めていくのが良いでしょう」(ニック・ウリビエリ)
どのような写真を撮りたいのか、あるいはどのような経験を積んでいるのかにかかわらず、ティルトシフトレンズはすべての写真家に新しい発見を与えてくれます。
「ティルトシフト撮影にはさまざまな方法があります。このレンズでどのような創造性豊かな写真が撮れるのか、その方法について人々は未だに模索を続けているのです」(アンドリュー・ピーラージ)
ティルトシフトレンズの基本的な使い方を理解した上で、創造性あふれる写真撮影を目指しましょう。
寄稿
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