イラストレーターになるには? 仕事内容から必要なソフトまで
絵を描くことが好きな人は、一度はそれを仕事にしたいと考えたことがあるでしょう。働き方が多様化し、情報も入手しやすくなっている今、チャンスは誰にもあると言えます。
そこで今回は、日本とアメリカを舞台に活躍するイラストレーターの目黒ケイさんにお話を伺いました。イラストレーターになるにはどうしたらよいのか、仕事内容、必要なソフトなどについてご紹介します。
目次
イラストレーターの仕事内容とは
イラストレーターとは、ひとことで言えば「絵を描く職業」。依頼主が伝えたいことを、イラストを使って伝える「通訳」のような仕事です。最近では「絵師」という呼び方もありますが、同じく絵を描く仕事をしている人を指します。
イラストレーターの主な仕事
イラストレーターの主な仕事には、下記の7種類があります。
挿絵
書籍やパンフレット、webサイトなどにおける、文章での説明の補足をするイラスト。どのような絵が必要なのかを依頼主から細かく指定されるのが一般的です。
商品PRイラスト
商品をPRする目的で、商品パッケージやポスターなどの広告に用いられるイラスト。写真では伝えきれない世界観や色、質感などを表現できるというイラストの強みが発揮できます。
装画
雑誌や本の表紙に用いられるイラスト。表紙の一部に使われる小さなものから、メインビジュアルとなる大きなものまで規模はさまざまです。
似顔絵
企業から依頼されてスタッフの似顔絵を描く、結婚式などの記念日のために個人から依頼される、SNSなどのアイコンに使う似顔絵を依頼されるなどのケースがあります。る小さなものから、メインビジュアルとなる大きなものまで規模はさまざまです。
マンガイラスト
行政が発信する啓発資材や企業のプロモーションに使われるマンガ形式のイラスト。作画のみ依頼される場合と、企画やシナリオから任される場合があります。
グッズ製作・販売
自身のイラストをあしらったグッズを製作して販売する仕事です。グッズの企画やデザインから自分で行う方法、SUZURIなどのサービスを利用して既存のアイテムにイラストを印刷してオリジナルグッズを作る方法があります。
SNSを活用した企業コラボ
SNSでのフォロワー数が増えて発信者として影響力を持つようになると、企業とのコラボレーションの依頼が来ることもあります。商品をPRするマンガやイラストを描いてSNS投稿する、企業が主催するイベント会場に出向いてそこからSNSで発信するといった仕事が挙げられます。
イラストレーターの有名人
イラストレーターの中でも最近話題になっている人、有名な人を紹介します。
中村佑介さん
ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしのCDジャケットをはじめ、装画、TVCMのキャラクターデザインなど多様なイラストワークを手がけています。初作品集『Blue』は、画集では異例の9.5万部を記録しました。
【目黒さんからのワンポイントアドバイス】
私がこれからプロを目指す方におすすめしたいイラストレーターは、竹久夢二さんと天野喜孝さん。竹久さんは抜け感の演出と構図が素晴らしく、私もたくさん真似して練習しました。天野さんはとにかくオリジナリティに溢れていて、一刷毛の線を見ただけで「天野喜孝の作品」とわかる圧倒的なブランド力を尊敬しています。
イラストレーターの年収はどう決まる? いくら稼げる?
正社員の場合は、デザイナーやアートディレクターがイラストを描くケースがほとんどで、イラストレーター専業の正社員はほぼ存在しません。そのため、ここではフリーランスの場合に特化して解説します。フリーランスのイラストレーターの報酬は「一点当たり〇〇円」というように、イラストの点数で決まるのが基本です。イラストの使用年数やロイヤリティ(グッズ販売などに商業利用される場合の使用料)を考慮して、1点あたりの金額にプラスされることがあります。
駆け出しの頃はなかなか単価の高い案件を得られなくても、数をこなすことで一定の年収に達することができます。経験を積んで徐々にイラストレーターとしてのブランド力を向上させていき、単価アップを狙うとよいでしょう。
【目黒さんのワンポイントアドバイス】
フリーランスで軌道に乗れば、最低でも年収400~500万円くらいはもらえるようになると思います。頑張り次第で年収2000~5000万円に達することも可能でしょう。また、仕事の依頼が来ると嬉しくてすぐ引き受けたくなりますが、イラストの用途や使用年数などを詳しく聞いてから慎重に考えて返事をし、見積もりを出すことをおすすめします。
イラストレーターに向いている人の特徴3つ
絵を描くことが好き
趣味と違って仕事となると毎日のように描かなくてはならないので、絵を描くことが好きでなければ続けるのは難しいでしょう。好きだからこそスキルアップにも積極的になれますし、その意欲は絵を見る人にも伝わります。
柔軟性と思いやりがある
依頼主の要望に絵で応えるのがイラストレーターの仕事。難しい依頼であっても「どうしたらできるのか」を柔軟に考えられる姿勢と相手を思いやれる心が大切です。
決断力を持っている
依頼されたことを絵で表現するにあたって、唯一の正解はありません。描こうと思えばいつまででも描き続けられるからこそ、自分の意志でゴール地点を決められる決断力を持っていることが重要です。
【目黒さんのワンポイントアドバイス】
イラストレーターを含めたクリエイティブな仕事には「できないことをできるまで考える」ことが何より大切。それができる創造力や気概があれば、活躍できるようになると思います。
イラストレーターに必要なツール・スキル
イラストレーターの仕事に必要なツールやソフト、スキルを紹介します。
揃えておきたいツール
パソコン
タブレット型端末やスマートフォンだけでも絵は描けますが、本格的に仕事としてイラストを作成するならパソコンを用意したほうがよいでしょう。
ペンタブレットまたは液晶タブレット、タッチペン
パソコンを使ってデジタルで絵を描くために必要な3ツールです。
スキャナー
アナログで描く場合は、鉛筆や紙などの画材のほか、必要に応じてパソコンに取り込んで加工するためのスキャナーも用意しましょう。
いずれも店頭で使い心地を確認するなどして、自分に合った物を選びましょう。アドビ公式サイトのコンテンツ「デジタルイラストに必要な道具と、使い方のコツ」も参考にしてみてください。
【目黒さんのワンポイントアドバイス】
ツールは一気に買い揃えなくても大丈夫です。予算が厳しい場合は、フリマアプリなどを利用するのも一つの方法でしょう。
用意すべきソフト
必要なソフトは、使用する機材や絵の描き方で異なります。それぞれの手法に適したソフトを紹介します。
Adobe Illustrator
パソコンを使って描く人には、プロユースのグラフィックデザインソフトAdobe Illustratorがよく使われます。テンプレートやチュートリアルが充実しているため、初心者でもスタートしやすいでしょう。
Adobe Photoshop
紙に鉛筆や絵の具などアナログで描いてからスキャンしてデジタル加工する人は、画像の編集や加工ができるAdobe Photoshopを用意しましょう。画像の自動補正、切り抜き、ぼかしなどの基本的な加工から、色調の細かな調整などの本格的な加工まで非常に多くの機能が搭載されています。
Adobe Fresco
iPadなどのタブレット端末で描く場合は、ペインティングソフトAdobe Frescoが便利です。絵を描くブラシツールが豊富に用意されており、多彩な表現が可能です。Photoshopと連携できるため、Frescoで描いたイラストをPhotoshopで加工することもできます。
アドビ製品には無料体験が用意されています。まずは無料体験でさまざまなソフトを試し、自分に合ったものを見つけてください。
イラストレーターに資格は必要?
プロのイラストレーターを名乗るための国家資格や民間資格はありません。資格ではありませんが、イラストレーターの登竜門として有名なのは一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)の公募。また、アドビの資格制度「アドビ認定プロフェッショナル」を活用してソフトを使いこなすスキルを磨くのもおすすめです。
イラストレーターに必要な6つのスキル
イラストレーターに必要なスキルを6つに分けて紹介します。
構図を考えるスキル
絵そのものをうまく描けるだけでなく、画面や紙の中にどのように配置するか、物や人をどの角度から描くかなどを考えられるスキルが重要です。
使いやすい絵が描けるスキル
依頼主がどのように使用したいのかを踏まえて、絵の大きさ、デザインや文字と組み合わせた際のバランスなどを考慮したイラストデータを納品すると喜ばれます。
多様な切り口で描き分けるスキル
同じ商品を描くとしても、複数の構図やタッチなどでバリエーション豊かな提案ができるイラストレーターは依頼主に重宝されます。
ヒアリングスキル
依頼主の話をじっくり聞いたり参考となるイラストを見せたりしながら、求められていることを汲み取る力が必要です。
スケジュール管理スキル
依頼を受けた案件の締め切りに間に合わなくなったり、目の前の仕事に忙殺されて自分の感性を磨く時間がなくなったりすることがないよう、余裕を持ったスケジュール管理ができる能力が重要です。
発信力
イラストの仕事を得るには、まず自分が描く絵を一人でも多くの人に知ってもらう必要があります。SNSに毎日イラストを投稿する、名刺にイラストを添えて会った人に渡すなど、行動を積み重ねていきましょう。
【目黒さんのワンポイントアドバイス】
発信力をつけたいなら、完璧でなくてもいいのでとにかく自分が描いた絵をどんどんSNSなどに投稿しましょう。もしうまくいかなかったとしても、調整しながら次のアクションを考えれば大丈夫。自分で自分にストップをかけずに進んでいただきたいです。アートに失敗はありません!
イラストレーターになる方法
イラストレーターになる方法、勉強の仕方を紹介します。
イラストレーターの勉強ができる大学・専門学校
イラストレーターのスキルを習得できる学校とその特徴を紹介します。
美術大学・短大
大学では4年間かけて多様な経験を積むことで、自分が進むべき道を模索できます。絵を学べる大学は、武蔵野美術大学、東京藝術大学、多摩美術大学が有名です。短い期間で効率的に学ぶには、短期大学という選択肢もあります。
専門学校
専門学校は、イラストレーターという職業に就くための技術を短い期間で効率よく身につけられるのが特徴。学生というよりインターンのような心構えで、仕事に必要なスキルを積極的に吸収するのが活用のコツです。
【目黒さんのワンポイントアドバイス】
私はニューヨークの私立大学「School of Visual Arts」に通っていました。そこでよかったのは、教授陣が第一線で活躍している現役のクリエイターばかりだったこと。社会に出てから役立つ実践的な技術を教わることができました。学び始める段階から一流の環境に身を置くことは、意識を高めるためにも重要だと感じています。
未経験から独学でイラストレーターになるには
未経験の人が独学でプロを目指すには、活躍しているイラストレーターの絵を自分なりに真似て練習することから始めて、自分らしい表現を探っていく方法が有効です。描くことそのものが技術の向上につながりますし、多様な絵に触れることで自分の得意分野や描きたいものが見えてくるでしょう。
アドビ公式サイト内にも絵を学べる多数のオンラインコンテンツがありますので、活用してみてください。
【目黒さんのワンポイントアドバイス】
イラストレーターとして成長するには、とにかく疑問に思うことがあればすぐ調べる、良いと思う方法があればすぐやってみる行動力が大事だと思います。
イラストレーターのキャリアアップ
イラストレーター専業での正社員雇用はほとんどありません。会社員としてイラストを描く仕事をするのは、デザイナーやアートディレクターとして制作会社や広告代理店に勤め、その業務の一環としてイラストも制作するケースです。もしくは、まったく別の職業に就きながら副業でイラストの仕事を受注し、後に独立する人もいます。
フリーランスのイラストレーターのキャリアアップとしては、絵のサイズや案件の規模が小さなものから徐々に大きなものになっていくのが一般的です。例えば、雑誌のページの一部に使われる小さな絵から始まり、ページいっぱいの大きな絵を依頼されるようになり、やがて表紙のイラストを任されるようになる、といった流れです。それに比例して単価もアップするのが一般的です。
ポートフォリオの重要性
「自分がどのような絵を描いているのか」を言葉で説明するのは限界があるので、一目でわかるポートフォリオを用意しておくことはマストです。SNSなどweb上のツールをポートフォリオ代わりにして発信を続けていれば、国内外どこからでも仕事を受けられるチャンスにつながります。
【目黒さんのワンポイントアドバイス】
SNSにアップするのは完成した絵だけでなく、制作途中の絵や制作風景の写真などいろいろな切り口を試してみることをおすすめします。私は以前、絵を描いている姿を投稿したら、イーゼルの会社からプロモーション案件の依頼が来たことがありました。誰が何に興味を持ってくれるかは、発信してみなければわからないものです。
案件を見つける方法、自分を見つけてもらう方法
自分から案件を探しに行く方法としては、クラウドソーシングサイトで検索する、SNSで絵を描いてくれる人を探している投稿を見つけるといった方法があります。また「エージェント」といって芸能事務所のマネージャーのように仕事を取ってきてくれる人をサポートにつける方法もあります。
イラストレーターとしての自分を見つけてもらうには、前述したようにSNSの活用が欠かせません。ポイントは、イラストを発信するのはもちろん、プロフィールに問い合わせ先を明記する、ハッシュタグをつけるといった「自分を見つけてリーチしてもらうための動線」をつけることです。
【目黒さんのワンポイントアドバイス】
私は、世界中のクリエイターが自身の作品を公開しているアドビのSNS「Behance」を活用してきました。これからイラストレーターになる方にはまず登録することをおすすめします。
大好きな絵を仕事にするはじめの一歩を
好きなことを仕事にするのは決して楽ではありませんが、実現すれば充実した日々を送れることは間違いないでしょう。プロ仕様でありながら初心者にも扱いやすいアドビのソフトとともに、大好きな絵を仕事にする第一歩を踏み出してみてください。
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取材協力:目黒ケイ(めぐろ・けい)
ブルックリンと東京在住のアーティスト。School of Visual Arts, NYCにてグラフィックデザインBFA取得。幼少の頃より絵を描き続け、これまで写実的な人物像を木炭や黒鉛、鉛筆で描くと同様iPadのみでのデジタル作品も多数ある。わざと荒く陰影を付けたりイメージを崩したり、差し色を加えることで現実では表現できない世界観を作っている。
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(取材・執筆:北村朱里 編集:ノオト)