油絵の特徴をつかんで、素敵な作品を仕上げよう
誰もが一度は見たことがあるけれど、実際に描くのは大変そう……身近なようで遠い存在、“油絵”について、その特徴を紹介します。
たとえば、「好きな絵はありますか?」と聞かれたとき、あなたは何と答えるでしょうか。もしそれが西洋絵画だとしたら、そのほとんどは油絵の具で書かれた油彩画、いわゆる油絵です。美術館で見る古典絵画が圧倒的に油絵が多いこともあり、油絵=クラシックな表現という印象を持っている人もいるかもしれません。水彩絵の具絵を使う絵と比べて難しそうだと思う人も多いでしょう。油絵は描いたことがない人にとっては、よく見ているのに自分で描くのはハードルが高い、油絵は近くて遠い存在と言えるのではないでしょうか。
油絵の特徴は?
油絵の具にはどのような特徴があるのでしょうか。代表的なものは以下のようなものです。
「水ではなく、油で溶く」
たとえば水彩絵の具は絵の具を水で溶いていくことでその濃淡をコントロールします。一方、顔料と乾性油が混ぜ合わされて作られている油絵の具では、絵の具をリンシードオイルのような油で溶き、絵の具の硬さをコントロールしていきます。しっかりと厚みを出して塗り重ねたいときには油を少なく硬いまま、薄く延ばしていきたい場合には油を足して柔らかく。描きたい表現に合わせて、絵の具の状態を変えて描くことができるのは油絵の特徴の一つと言えるでしょう。油絵の表面をよく見ると、絵の具の厚みによって生み出される陰影が独特の重厚感、立体感を生み出しているのがわかるはずです(一方で厚みを出さずに描くこともできるのも油絵ならではの魅力です)。
油絵に使う画用液。左は絵の具の粘性、濃度をコントロールする乾性油。中央は乾く速度を早める溶剤。右は絵の具の柔らかくする溶剤
「乾きにくい」
水溶性の水彩絵の具やアクリルとは異なり、乾燥に時間がかかるのも油絵の具の特徴です。指で触れて絵の具がつかないようになるのに数日、完全に乾燥するまでには年単位の時間が必要になると言われています。そのため、1枚の絵を仕上げるためには描いては数日乾燥させてまた続きを描く……という作業を繰り返す必要があり、完成には長い時間を要します。このため、油絵に取り組むアーティストの多くは、複数の作品を同時並行で進めることで乾燥時間を無駄にしないように創作に取り組んでいます。専用の溶剤を使うことで乾燥時間を早めることもできますが、多用すると絵の具の質感が変わってしまうこともあり、制作にかけられる時間と表現、そのバランスを見極めながら絵の具をコントロールする必要があります。
ほかの画材に比べ高価なことも油絵の具の特徴のひとつです
「色がきれいに重なる、混ざる」
絵の具に絵の具を重ねていくことができるのも油絵の具の大きな特徴です。たとえば複数の画材を組み合わせてひとつの作品を作り上げるとき、油絵の具であればたとえアクリルの上であってもしっかりと絵の具を重ねることができます。また、アクリルなどに比べて、色を混ぜ合わせても色の濁りが少なく、きれいに混ぜ合わせることができるのも油絵の具ならではのメリットと言えます。
油絵の具は水ではなく油と合わせて使います
「多彩なマチエール」
マチエール(matière)とはキャンパスや画材によって描き出された質感のこと。水彩絵の具などに比べて、油絵の具は多彩な質感を生み出しやすい画材と言えます。たとえば、キャンパスに対して凹凸を持たせた下塗りをしておき、その上に描くことで立体感のあるマチエールに仕上げる、逆に薄く延ばしていくことでフラットなマチエールに仕上げる、絵の具を重ねていくことでレイヤー感のあるマチエールに仕上げる……幅広い表現が可能です。描くベース(支持体)も、キャンパスに限らず、板やガラス、帆布、陶器など作家により多種多様で、こうした水彩であれば色を乗せられないようなものに直接、描くことができるのも油絵の特徴です。
油絵では絵の具の固さを生かし、立体的な質感を描き出すことができます
「さまざまな道具:筆、ナイフ、ローラー」
基本的に筆で描いていく水彩画などと異なり、粘性のある油絵の具はさまざまな道具を使って描画をします。筆・ブラシも水彩では柔らかい毛のものを使うのに対して、油彩では硬い毛のものを使います。ブラシで描くだけでなく、ペインティングナイフで絵の具をそのまま塗りつけることもあります。下地処理にはローラーを使い、一気に、フラットな塗りを作ることも。油絵の具の特性に合わせて、使う道具も他の画材とは異なります。
油絵では水彩等に比べて硬めの筆を使うほか、ナイフやローラーを使うことも
油絵で描かれるモチーフ、テーマ
油絵は描かれるモチーフによって静物画、人物画、風景画、具象を伴わない心象風景のような抽象画まで多様に分類されます。植物、果物などのモチーフにした静物画は、身近にあるものを題材にできるため、油絵の初心者にとっても取り組みやすいテーマと言えるでしょう。一方、目に見えるものの構図、陰影を正確に掴み取る、デッサン力が求められるテーマでもあります。油絵を描く基本的な手順はまずキャンパスに下地を作ることから始め、次に下絵を描いていきます。静物画であれば、デッサンと同じ要領で形を取っていけばよいでしょう。直接キャンパスに描くほか、下絵を別に描いておいてキャンパスに転写するという方法を取ることもあります。下絵を描き、構図が決まったら油絵の具で色を重ねていきます。このとき、最初からディテールを描き出すのではなく、大まかな陰影からつけていき、少しずつ細部を描いていくことで絵の解像度を上げていくようにすると全体のバランスが崩れることなく描き進めることができます。
静物画や人物画は初心者でも取り組みやすいテーマのひとつです(絵:中浦情)
描くものは自由、描き方も自由
「油絵で描くなら、ちゃんと学んでないと……」。古典的、伝統的技法だからこそ、そうした思いを抱く人も多いでしょう。もちろん、絵画教室などに通い、基本から身に着けることは、技術向上のうえで非常に重要なことです。でも、「油絵だからこうしなくてはいけない」と縛られる必要はありません。油絵の具はあくまで画材であり、表現は画材のみによって縛られるものではないからです。絵画を学ぶ学生が油絵の具だけで描いているのでしょうか。答えはNoです。油絵の具で描いた絵にスプレーでペイティングをする、アクリルと油絵の具を組み合わせて描く……その表現は多彩にして自由です。
油絵の具の上からスプレーでペインティングした作品(絵:中浦情)
油絵に手軽にチャレンジできるAdobe Fresco
「いつか油絵を描いてみたい」。そう思いながらもなかなか取り組めずにいる……そんなとき、絵画教室の門を叩くのもよいでしょう。「でも、ただ、その前に少し慣れておきたい。油絵の表現に触れてみたい」。それならデジタルペインティングに挑戦してみるのも一手。具を揃えなくても、iPad+Apple Pencil、そしてFrescoがあれば、水彩や油彩の表現を気軽に試すことができます。たとえば、Frescoに搭載されている「油彩ブラシ」は、油絵の具ならではの厚みや色を塗り重ねた時の下塗りとのなじみ、絵の具やキャンパスの質感を再現。筆の種類も多種多様でサイズの変更も思いのままにコントロールすることができます。ほかの画材が使いたいときにはツールを切り替えるだけで、鉛筆やペン、水彩まで簡単に切り替えられるので油絵以外にも、自分に合う道具を探してみるのもよいでしょう。もっと細かく描きたいと思えばいつでも拡大でき、全体を見るときにはさっと縮小することも可能です。たとえ塗り間違えてしまったり、思ったような線が描けなくても、いつでも何度でもやりなおすことができます。レイヤー機能を使えば、下塗り、下絵、着色……と互いに干渉することなく分けて描くことができるので、絵の具だけを塗り直す、下塗りの色を変えてみるといった試行錯誤も自由自在です。失敗を恐れることなく、納得がいくまで試すことができるのは、Frescoならではのメリットといえるでしょう。Frescoで誰にも気兼ねすることなく、いろいろな画材、表現にチャレンジしてみませんか?
(協力:東京造形大学 絵画専攻領域)
Frescoの油彩表現。油絵の具の特性、質感もリアルに描き出します
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