日本語のかなのデザインとフォント
日本語の表情を豊にし、特徴づけているのは、ひらがなやカタカナといった日本独自の文字を漢字と組み合せて使用している点にあります。ひらがなだけやカタカナだけでも日本語として読むことはできますが、漢字かな交じり文として表現されこそ、日本語らしさが際だちます。ここではあらためて、かなフォントやカタカナフォントの特徴と魅力を見てみましょう。
デザインの印象を左右する「かな」
日本語の表記は漢字にひらがなやカタカナを交えることで成立するもので、ひらがなやカタカナは平安時代のころから漢字をもとにして発展し作られてきました。
一方、漢字は中国で時代とともに使われる書風も変遷し発展していき、それぞれが歴史を重ねていったうえで近代の活字が成立する過程で漢字に調和するかな書体が確立していきました。現在使われている日本語フォントは、明朝体とゴシック体がおもに使われるほか、草書体や楷書体のように筆で書いたかたちを再現したものなどが用いられますが、フォントを特徴づけ印象を左右しているのは「かな」のデザインによるところが強くあります。その理由は日本語の文章において、漢字よりもかなの割合の方が多いこと、漢字に比べてかなはそのかたちに変化をつけやすいことが挙げられます。
また、かなは漢字の一部から作られたり、漢字をくずして書くところから成立してきた経緯があり、フォントのデザインでも筆で書いたときの動きやつながりは引き継がれています。この動きやつながりは漢字よりも色濃くデザインに反映される傾向が強いため、かなの微妙なデザイン差があるだけでもフォントの印象が異なって感じられることになります。
明朝体とかな
明朝体は中国の明王朝時代に広く用いられた書体が活字となり、現在のフォントのデザインへとつながっていますが、その特徴は横線が細く縦線が太いメリハリのある点と、横線の右端に「ウロコ」と呼ばれる三角形の山が強調されたデザインになっている点があvります。
ただしこれは漢字だけにある特徴で、明朝体とされるフォントのかなには横線と縦線の太さに差はなく、ウロコもありません。フォントとしての明朝体に使われているかなは何かというと、実は楷書体なのです。これは漢字が成立して変遷してきた歴史と、かなが成立して変遷してきた歴史が異なるためです。
明朝体のフォントには、昔の活字を再現してデザインされたものから、現代になって新しくデザインが作られたものまで、さまざまな種類があり、古典的な明朝体は「ふところ」といわれる線と線で構成される内側の空間が比較的狭く、近代的な明朝体ではこの空間が広めになっている傾向があります。
それぞれのかなも、漢字と調和するようにこの空間が調整されていたり、古典的なものでは筆のつながりがより強調されたデザインになっている傾向があります。
ゴシック体とかな
ゴシック体は縦線と横線が基本的に同じ太さで、明朝体の特徴となっているウロコを持っていないデザインが特徴です。これは漢字でもかなでも同じで、明朝体のように漢字は明朝体で、かなは楷書体ということはなく、漢字であってもかなであっても同じゴシック体であるといえます。ゴシック体のデザインが日本で用いられるようになったのが近代になってからで、新たに設計されたため漢字もかなも筆書きの特徴を持たず同じようにデザインされたと考えることができます。
なお、ゴシック体も古典的なものは、ふところが狭くデザインされていて、近代的なものではふところが広めに作られているという傾向は明朝体と同じで、もちろん、かなも同じようにデザインされて漢字との調和がとられています。また、近代的なゴシック体は横線も縦線も水平垂直で構成され、より幾何学的なデザインになっているのも特徴です。ゴシック体には角に丸みを持たせた丸ゴシック体もあり、丸ゴシック体のかなも、もちろん角は丸みを帯びて、漢字と同じイメージになるようにデザインされています。
かなフォントとアプリケーションでの使い方(Adobe Illustrator)
日本語のフォントは漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットがすべて用意されているものがほとんどですが、かなだけで構成されたフォントも作られています。
しかし、かなフォントだけで日本語を表現するのは不可能なので、漢字のフォントと組み合わせて使う必要があります。フォントはテキストを選択して文字パネルからフォントを指定すれば変更することはできますが、かなだけを選んでその都度、フォントを変更するのは効率的ではありません。
Illustratorでは「書式」メニューの「合成フォント」から、漢字、かな、全角約物、全角記号、半角欧文、半角数字にそれぞれフォントを割り当てて、文字の種類ごとに異なるフォントを割り当てたものを1つのフォントとして扱うことが可能です。
この合成フォントとして保存したものは、文字パネルから1つのフォントのように指定することができるようになり、合成フォントの内容を変更して上書き保存すると、適用しているフォントも一括で変更内容が反映されます。また、合成フォントは文字の種類ごとにフォントを変更するだけではなく、サイズも個別に変えることもできるので、デザインを細かく調整することも可能です。
かなフォントとアプリケーションでの使い方(Adobe InDesign)
合成フォント機能はIllustratorだけではなく、InDesignにも搭載されていて、同じようにフォントの組み合わせを作ってテキストに適用することができます。
合成フォントの機能では漢字、かな、全角約物というように文字の種類を区別するので、ひらがなであってもカタカナであっても、かなとして1つのフォントしか指定することができませんが、InDesignではひらがな、カタカナ、アルファベットにそれぞれ異なるフォントを指定した文字スタイルを用意しておいて、段落スタイルの正規表現スタイルから文字の種類に合わせて文字スタイルを適用する正規表現を設定しておくことで、Illustratorではできない細かなフォントの変更を行うことが可能になります。
正規表現スタイルを設定した段落スタイルは、テキストを入力するごとに、文字の種類に応じてフォントが変更されていきます。正規表現スタイルでは、特定の文字列ごとに決まったかなフォントを指定するということも可能なので、「アドビ」と「アドビフォント」という文字でフォントを変えるといった場合でも対応することができます。
一世を風靡したカタカナフォント
最後に少し特殊なカタカナフォントを紹介しましょう。
今でもこそ、日本語の文章にはカタカナが多く使われていますが、ひらがなに比べて割合は少なく、日本語の文章における表情を決めるという点では、ひらがなよりも影響が少ないということもあります。
しかし、1990年代後半、デジタルに強いデザイナーたちによって、さまざまなカタカナフォントをリリースされました。これは、当時のフォント作成ツールの日本語対応状況が限られていたということも関係しています。
フォントを作成するツールは、いま、極めて高機能で操作性にもすぐれた「Glyphs」というアプリケーションがスタンダードとなっていますが、それ以前はフォントメーカー以外でユーザーがフォントを作成できる環境は、Fontographerというアプリケーション以外にあまり選択肢がありませんでした。
Fontographerはもともと欧文フォントを作成するためのもので、事実上、日本語のフォントを作成することはできませんでした。しかし、A〜Z、a〜zの文字と発音記号付き文字などの領域を利用してカタカナを割り当てることは可能だったので、1バイトカナフォントといわれるフォントを作成するブームが巻き起こったのです。この時期には個性的なデザインの1バイトカナフォントが数多く配布されました。
日本語の文字をすべて作成しようとすると2万字以上が必要になりますが、当時のFontographerにはそのような領域がなく、また、インターネットの回線も今より低速だったため、容量の大きな日本語フォントをダウンロードするのも現実的でありません。しかし、1バイトカナフォントであれば容量は小さく、作成する字数もカタカナと記号類などで済むというのもブームとなった背景でした。
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