アニメーターに求められる技術とは

少年マンガと実写映画・ドラマの模写で絵を練習
アニメーター、イラストレーター、漫画家の深川可純さんは、アニメ『アイドリッシュセブン』『体操ザムライ』『ゾンビランドサガ』などのキャラクターデザインを手がけました。
現在はアニメ制作会社・MAPPAに所属し、月刊青年マンガ雑誌『ウルトラジャンプ』(集英社)にて『ゾンビランドサガ外伝 ザ・ファースト・ゾンビィ』を連載しています。




子どもの頃から漫画やゲームが好きで、自分でもイラストやマンガを描いていたという深川さん。ゲームグラフィッカーをこころざし、3DCGを学べる専門学校に進学。縁のあったアニメスタジオで動画を経て、約10年間フリーランスとしてさまざまなアニメ作品に携わってきました。
原画、作画監督、キャラクターデザイン、そしてマンガとマルチに活躍する深川さんですが、絵を描く仕事を始めたころについては「全然うまく描けていなかった」と振り返ります。
一方で経歴を見ると、フリーになってからは原画だけでなくキャラクターデザインや作画監督など、アニメ制作の工程において大切な役割を任されるようになったことがわかります。


「とにかく自分は絵が下手だと思っていたので、クロッキーと少年漫画の模写をひたすらやっていました。一番参考にしたのは大暮維人さん。どのコマを模写してもさまになるのがすばらしいです。もうひとりは冨樫義博さんで、最小限の線でデフォルメして見せるのが巧みですね。アニメで求められる動きについては、実写の映画やYouTubeなどの映像を見て描く練習をしました。
アニメは嘘がつけないから、アニメの表現からアニメの動きを学ぶのは難しいんです。動きをすべて理解したうえでデフォルメして表現するので、わからないまま描いてしまうと説得力がなくなってしまう。歩く動きなど、現実にある身近な動作ほどそうです。アニメーターは、重力や物の固さといった、この世界のことを知るのはもちろん、カメラアングルや絵コンテの意図を理解する力が必要だと思います」
「ゾンビランドサガ」Blu-rayBOXジャケットイラスト(発売中)©️ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
また、アニメ制作がイラストやマンガと異なるのは、アニメは大勢のスタッフが関わる集団作業であること。アニメの原画であれば、演出家や監督などが描いた絵コンテをもとに原画用紙に絵を描いていきます。
「何を表現したくてこの絵コンテを描いているのか、身近にあるものでもトレーニングできます。たとえば手元にあるペットボトルと缶をどう並べて、どういったカメラアングルで撮ればかっこいいのか。逆に、一見しただけじゃペットボトルだとわからないようにするにはどうすればいいのか。きれいだと感じさせたり、不穏な気持ちにさせたりする構図はどれかを自分で考えるといった、自分なりのやりかたで学んでいったほか、ほかのアニメーターの原画をたくさん見るのも、とても参考になりました」
さらにもうひとつ、アニメーターに求められるのは描くスピード。原画や動画では描いた数で収入が変わることもあります。同時に、クオリティも保たねばなりません。深川さんに早く仕上げるコツについてたずねると「目、口、鼻などの顔や表情が崩れていると目立つので、時間が限られているときはそこを重点的に描きます」と教えてくれました。


アニメはロジック、イラストは感覚、マンガは感情
『ゾンビランドサガ』ではキャラクターデザインも務めた深川さんですが、いわゆる“萌え絵”と称される絵を描くのが最初は苦手だったそうです。「もう少し萌え要素を追加してほしい」と要望を受けたときには、当時原画として参加していた『ご注文はうさぎですか?』から、かわいらしい女の子にするビジュアルを研究しました。
「キャラクターデザインではシルエットがまず大切です。それと、完璧な美しさを目指すのではなく、親近感があって身近な存在だと思わせること。『ゾンビランドサガ』なら、パリコレのモデルではなく、アイドルグループにいそうな親近感のある女の子をイメージしています」
一方で、『体操ザムライ』のキャラクターデザインでは、小学生の女の子から年配の男女までさまざまな年齢層のキャラクターのほか、筋肉質な体操選手が数多く登場します。こちらもすべてのキャラクターをしっかりと描き分けています。
「もともと色々な年代の人を描くのが好きで、実写ドラマでも、温水 洋一さんやムロツヨシさんなど俳優を描いて練習していました。シルエット、顔の表情、ほかにも『この人は実は顔が左右非対称だ』とか『眉毛の可動域が多い』など、動きの面でも参考になりました。筋肉質な体を描くのは大変でしたが、『体操ザムライ』のキャラクターデザインはとても楽しかったです」
「体操ザムライ」Blu-ray&DVD BOXジャケットイラスト(発売中)©「体操ザムライ」製作委員会


MAPPAに所属後、『ウルトラジャンプ』2021年6月号からは『ゾンビランドサガ外伝 ザ・ファースト・ゾンビィ』の連載で漫画家としての活動も加わりました。アニメの仕事の合間にマンガの持ち込みをしていたこと、アニメだけでなくマルチに活動したいと思っていた深川さんにとって、商業マンガ初挑戦となった同作。深川さんが感じた、イラスト、アニメ、マンガを描くときの違いは何でしょうか。
「アニメはロジック、イラストは感覚、マンガは感情で表現するものだと捉えています。ネームを作成する段階で、感情を最大限に感じてもらえるよう、私自身も裸の自分をさらけだす覚悟で。アニメの絵コンテを見慣れているせいか、最初のネームは淡々としていたんですよね。アニメは感情の部分を動きや音も担えるけれど、マンガでは絵だけで感情を描く必要があります」


独自のキャリアを築いてきた深川さんに、これからアニメーターを目指す人に向けてアドバイスも伺いました。
「私は他の人と少し感じかたが違うのかもしれませんが、SNSで自分が描いた絵に対して反応がなくてもまったく気にならないんですよ。絵が描けたらそれで満足で。のらりくらり、といってはなんですが(笑)、好きなことを自分軸でずっと描いてきました。自分が満足するやりかたでやるのがよかったのかもしれません」


取材協力:
MAPPA
掲載作品:
TVアニメ「アイドリッシュセブン」
TVアニメ「体操ザムライ」
TVアニメ「ゾンビランドサガ」

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