魅力的な漫画のコマ割り
漫画では真っ白な紙の空間をコマで区切って連続させ、時間の流れを作ることで物語を表現します。大きさや形、どこに配置するかで読者が受ける印象も変わり、仕上がりも左右される大切な要素。コマ割りの仕方や考え方はプロの漫画家でもそれぞれですが、ここでは基本テクニックとうまいコマ割りのコツをみていきましょう。
コマ割りの基本的な考え方
日本の漫画のコマは右から左/上から下に読み進め、セリフも縦書きが基本です。海外の漫画(いわゆるアメコミなど)では左から右に読み進め、セリフも横書きのものがほとんどですが、ここでは日本の漫画・コミックでのコマ割りを前提に話を進めましょう。どう作ればいいのかわからない場合は、まずは最初に空間を縦3段に区切り、さらに横にコマを2〜3つに区切ります。そこからコマの大きさに強弱をつけてみると考えやすいでしょう。このとき1ページずつ考えるのではなく、見開きでバランスをとりながら考えていくのが基本です。なお、日本のマンガのほとんどは右綴じ・縦組みで製本されており、多くの場合、1ページ目は左ページから始まることも覚えておきましょう(この場合、奇数ページは左、偶数ページは右になります)。
まずは縦に3分割、次に横に2〜3分割をして、強弱をつけていきます
1ページあたりの基本的なコマ数は多くても8コマまでとされていますが、スマートフォンやタブレットで電子コミックを読む人が増えた現在は、5〜7コマであることが多いようです。コマが多くなるほど画面が詰まって見えたり、フキダシの中のセリフが読みにくくなったりする可能性もあるため、読者の立場に立って視認性を考慮する必要があります。特に、 印刷する予定のマンガのコマを区切る時は、本が綴じられている内側のノドと、外側の裁ち切りの部分に登場人物の顔やフキダシの文字が被らないようあらかじめ計算しておかなくてはなりません。初心者はどうしても、コマの分割が多くなり、多くの絵や文字をページに詰め込んでしまいがちです。その場合は、ひとつひとつのコマがどういった役割を果たしているか再確認し、削ぎ落としてブラッシュアップしていくとよいでしょう。
コマ割りの前にプロットを準備しておこう
コマ割りに入る前にまずこれから描く内容のプロットを準備しておきましょう。コマ割りで何を演出するか、プロットの段階で前もって見せ場やインパクトを残したい場面を決めておき、メリハリのあるコマ割りにすると、読者が飽きることなく読み進められるようになるからです。コマの大きさが同じものばかりになると単調になり、かといって大コマや変形コマばかりになると読みづらくなってしまうので、全体の流れを確認しながら、各コマの役割を決めていきます。コマ割りをするにはテンプレートなどを活用するのもひとつの手としてはありますが、自分のストーリーをイメージ通りに形にするためにはできるだけコマ割りによる演出をしっかり考えることが大切です。
コマ割りは見開きで考えるのが基本。基本は右上から左下に誘導しますが、構成によってはまず下に読ませるなどのコマ割りも行われます
フキダシの位置はコマ割りを決める段階で同時に決めておき、読者が正しい順番にコマの流れを追えるようにします。左ページの左上のコマは大切なシーンを描き、左下にページをめくりたくなるようなコマを配置するのもオーソドックスなテクニックです。コマの中の構図もコマ割りに影響するので、コマの中でどのようなアングル(角度)で何を配置するのか、どういったショット(アップショット、ロングショットなど)で見せるのかも考えていきます。寄り/引き、上から/下から、それぞれのコマに持たせる視点を変えることで読者に伝えられる情報や印象を変えることができるからです。たとえば、下から見上げる「アオリ」の構図では対象となる人物の表情にフォーカスされること多く、上から見下ろした「俯瞰」の構図は対象が置かれた状況を説明するためによく使われます。
左ではコマを進めるごとに視点が上(俯瞰)から下(アオリ)へと移動、右の雨が降ってきたのを見上げ、左右それぞれの店に入っていくシーンでは真俯瞰から視点を下げていくことで、映像的な印象に/小学館ビッグコミックススペシャル『アルティストは花を踏まない』著:小日向まるこ/発行:小学館
ジャンルによるコマ割りの違い
ジャンルによってもコマ割りのアプローチは異なります。4コママンガの場合は文字通り、形の同じ4つのコマで進行するのが基本です。少女マンガの場合は感情の盛り上がりによってコマ割りが大きく異なり、まる1ページを使ってキャラクターの全身と表情のアップを見せる、キャラクター同士の間に流れる空気をしっかりと表現するなど、大胆で変幻自在なコマ割りが特徴と言えるでしょう。男性向けのマンガの場合は肉体の動きや躍動感、スピード感をしっかりと描くことが求められる傾向があります。自分が描きたいマンガのジャンルがあれば、同じジャンルの作品を見てコマ割りの参考にしてみましょう。見るだけでなく実際に描きうつしてみると発見があるかもしれません。ひとくちでコマ割りといっても、同時並行で考えなければならない要素が多く複雑なため、多くの漫画家がコマ割りを含むネーム制作に苦心し、常に工夫を凝らしているのです。
コマ割りでできる表現
コマを工夫することで様々なものを表現できます。代表的なものとして挙げられるのが、時間の流れのスピード調整です。
・同じ構図のコマを複数並べて流れる時間の長さを表す
・数日、数ヶ月、数年といった期間の出来事をダイジェストで見せる
・斜めの線でコマを区切ることでスピード感を出す
・ひとつのコマを線で区切り同時進行で出来事が起きていることを表現する
・ひとつのコマの中でいくつもの動作を描き圧倒的なスピードを表す
アルティストは花を踏まない』著:小日向まるこ/発行:小学館 より
上は自分を追う男の姿に気づいた女性が歩みの速度を上げるコマです。コマを斜めに区切り足音のオノマトペを横断させることで同時に男性もあとを追っていることがわかります。
回想や心情など頭に浮かんだこともコマを上手に使うことで表現することができます。
・コマの外を黒くしたり、枠線を他のコマと変えることで過去の出来事を表現する
・コマの中に枠線なしのカットを複数入れて心に浮かんだ風景を表す
・コマの角を丸くして回想カットであることを表す
・ブチ抜きで描かれた人物の背景にコマを複数並べフラッシュバック(瞬間的な記憶の再生)が起きていることを伝える
『アルティストは花を踏まない』著:小日向まるこ/発行:小学館 より
コマの枠線を変えることで、同じ人物の過去を思い出していることが伝わります。同じ構図で登場人物を据え、手にカップをもたせていることも、時間の経過や人物の変化を見せることに役立っていますね。
ほかにもコマ割で色々な表現ができます。空間とコマの使い方次第で表現の可能性が広がるのがマンガの奥深いところですね。
・違う場所で起きている出来事のコマを並べて描き対比して見せる
・コマをまたいだフキダシで同一の出来事が広い範囲で起きていることを表す
・強調したいコマの前にフリとなるコマを入れる(例:目を閉じるコマのあとに呪文を唱える大コマ)
アルティストは花を踏まない』著:小日向まるこ/発行:小学館 より
雨が降りしきる中、向かい合うカフェでの時間経過を並列的に見せるページ。ここがどんな街で、カフェはどこにあるか、どんな人々がいるのかといった様々な要素が巧みに表現されています。ページ下部に水の波紋を描き、この雨が非常に強く小さな洪水が発生していることがわかりますね。上下左右をまんべんなく利用しています。
現在ではスマートフォンやタブレット、パソコンで電子コミックを読むことは当たり前になりました。電子コミックアプリで配信されるオリジナルマンガは、見開きを使わないなどこれまでとは違うセオリーで描かれることもあります。また、デバイスの特性をいかして縦スクロールで読める電子コミックも出てきています。縦スクロールマンガでは、1回あたりのエピソードの始めから終わりまでページの区切りがなくコマが縦に連なる作品もあり、縦長の空間を使って時間の感覚を表すなど独自の表現が生まれています。映画やテレビの画面とは違い、枠の形を自由に変えられるマンガ。人物や出来事を淡々とコマの中で描くのではなく、感情を表すコマ、しっかりと印象づけたいコマ、読者への引きになるコマなどをテンポ良く見せることを意識してみましょう。何度も描いて直して、地道に試行錯誤することが上達への近道となります。
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