表現力豊かなデザインフォントの世界
本、新聞、ポスター、看板、そしてパソコンやスマートフォン……私たちは日々、文字に触れていますが、その文字のかたちは実に多種多様です。同様にそのデザインされた文字のセット「フォント」も非常に多くの種類があります。ここではスクリプト・筆記体・手書き系フォント、毛筆・筆文字フォント、ステンシル・字幕風フォントといった、特徴的なデザインのフォントを紹介していきます。
デザインフォントとは?
「デザインフォント」という言葉はフォントを分類する際によく使われる言葉ではありますが、「こういうものがデザインフォント」という、正確な決まりがあるわけではありません。
明朝体であれば「横画が細く、縦画が太い」「ウロコと呼ばれる▲状のおさえがある」、ゴシック体であれば「横画と縦画が近い太さ」、丸ゴシック体であれば「横画と縦画が近い太さで先端が丸い」といった特徴がありますし、楷書体、行書体、草書体、隷書体といった伝統的なフォントは、それぞれの書風にならった特徴を備えています。
明朝体/ゴシック体/楷書体フォント
デザインフォント
「デザインフォント」は、こうしたフォントの分類に属さないフォントの総称と言うことができるでしょう。
デザインフォントの中には、個性的なデザインのものもあれば、明朝体風デザインフォント、ゴシック体風デザインフォントもあり、その種類は膨大です。
しかし、いくつか表現手法としてカテゴライズされているものもあるので、ここではAdobe Fontsで使えるフォントの中から、そうしたデザインフォントを紹介していきます。
スクリプト・手書き系フォント
スクリプトフォントとはいわゆる筆記体の欧文フォントのことを指します。カリグラフィーのように伸びやかで優美な装飾を備えるものから、スピード感あふれるデザイン、手書きの風合いのあるものまで、さまざまなデザインがあります。欧文のカリグラフィックなスクリプトフォントは日本のデザインにおいても高級感、優雅さを演出したいときによく使われています。
Cadogan/Memoriam/Bickham Script/Fairwater Script/Primot
日本語フォントにおけるスクリプトフォント・筆記体フォントを、手書きの文字をベースにしたものと置き換えるならば、楷書・行書・行書等の筆書体フォントや、手書き風フォントがこれにあたると言えます。筆書体フォントはフォーマル、伝統、格式を表現したいときによく使われますが、手書き風の日本語フォントはやさしさ、温かみ、親近感を出したいときに使われています。
筆記用具によって書かれる文字の表情が異なるように、スクリプト・手書き風フォントもそれが何で書かれた文字を元に作られたものかによって、文字のデザインは大きく変わります。日本語フォントにも、筆で書かれた文字のほか、鉛筆、マーカー、万年筆などを使ったフォントがリリースされており、文字のかたちもニュートラルなものから個性的なものまでいろいろなものがあります。
ペンジェントル/ペンレディ/クレー/Nothing/Verveine/P22 Cezanne
毛筆フォント・筆文字フォント
毛筆フォント・筆文字とは、おもに筆で書かれた日本語フォントのことを指します。
前述の楷書体、行書体、草書体、隷書体のような伝統的な筆書体フォントのほか、歌舞伎の看板や筋書に使われる勘亭流、相撲の番付等に使われる相撲文字、千社札や提灯の文字などに使われる籠文字等々、さまざまなフォントがあります(こうした伝統的な筆書体として扱われ、「デザインフォント」には分類されないケースが多いと言えますが、筆法や骨格を取り入れつつ、文字のかたちや画線の処理を変えたものもあり、筆書体フォントとデザインフォントを正確に分けるのは困難です)。
日活正楷書体
香蘭
このほか、近年ではこうした伝統的な書法によらず、よりデザイン性、創作性、オリジナリティを重視した筆文字・毛筆フォントも出てきており、これまでの毛筆フォント=伝統的、格式が高い、フォーマルという印象だけでなく、多様な表現ができるようになっています。
また、OpenTypeフォントの技術を活用し、正方形の中に一文字一文字を収める日本語フォントの枠組みにとらわれることなく、次の文字とつながるような文字表現を可能にする、連綿体の文字を収録したフォントも登場しています。こうした動きは従来の活字から連なる日本語フォントの設計からの脱却という点で非常に興味深い流れと言えるでしょう。
かづらき
ステンシル・字幕風フォント
ステンシル風フォントとは、おもに欧文フォントに見られる閉じた部分のないデザインのフォントのことで、たとえば「O」の文字でも「( )」のように、上下の線が途切れているところがあるのが特徴です。
Rufina Stencil/Stenciletta
Milka/Jeanne Moderno OT Geometrique
ステンシルとは、文字や模様のかたちに切り抜かれたテンプレートをなぞったり、スプレーで塗ることによって印字するもので、製図や屋外で使われています。ステンシル風フォントはこのテンプレートの文字の特徴を活かして作られています。
“文字の線に途切れた部分がある”という特徴を持つフォントは日本語フォントにもあります。
それが「シネマレター」(モリサワ)や「ニューシネマB」(フォントワークス)のような字幕風フォントです。シネマフォントとも呼ばれ、昔の映画の字幕のような独特の丸みと、読みやすさを備えています。
なお、ステンシル風フォント同様とは異なり、完全に閉じた部分がないというわけではなく、字幕文字のようなかたちを持つデザインフォントもあります。
シネマレター(モリサワ)/ニューシネマB(フォントワークス)
TBシネマ丸ゴシック/VDLアドミーン
まだまだたくさん!デザインフォントの世界
ここで紹介したフォント以外にも、分類ができないようなユニークなデザインフォントはたくさんあります。
Adobe Fontsでは明朝体、ゴシック体、セリフ体、サンセリフ体といった基本的なスタイルから、ここで取り上げたようなデザインフォントまで数多くのフォントが利用できるようになっています。
使えるフォントの数が多いということは、文字で表現できる幅が広いということでもあります。いま、パソコンにインストールされているフォントに加えて、Adobe Fontsを活用することで文字の表現力、デザインの訴求力をさらに高めることができるはずです。
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デザインをする際には、かわいいデザインにしたい、かっこいいデザインに仕上げたいと言ったイメージや、伝える目的にあったフォントを選択し、レイアウトをしていくことが大切です。
ここではフォントによってデザインに与えるイメージはどう変わるのかをご紹介します。
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