デジタル資料の視認性を上げるため、紙とは違うデザインのルールとは?
PCやタブレットのモニターで開くことを前提に作成するデジタル資料には、印刷して目を通す紙の資料とは違ったデザインのルールがあります。デジタル資料をより見やすくするためにはどういった工夫が必要になるのでしょうか。
企業にてペーパーレス化が進み、会議や打ち合わせなどではPCやタブレットで会議資料を確認することが当たり前になりつつあります。しかし意外と知られていないのが、紙ではなく、「デジタルであること」を意識した読みやすく見やすい資料のデザインルール。
PCやタブレットでの閲覧を前提にした「デジタル資料」を作成するにあたって、資料の視認性(内容を理解・確認できること)や可読性(資料や文字の読みやすさ)を高めるためには、どのようなコツがあるのでしょうか? 紙の資料のデザインルールと比較して紹介していきます。
まず、デジタル資料を作る上で考慮すべきは、その見やすさが、資料を開くデバイス(PCやタブレット、スマートフォン)の影響を受けやすいことです。大きく分けると、以下の3点に関して注意が必要です。
紙面と比較して、モニターは解像度が低い
解像度とは、画像(図や文字などを含む)の精細さを表す尺度のことです。この値が高いほど、自然の色や形に近い画像になり、反対にこの値が低ければ、モザイクがかかったような仕上がりになってしまいます。
ちなみに、紙やモニターの解像度を表す「dpi」で見ると、紙資料に印刷した写真は300dpi程度、デジタル資料では150dpi程度が一般的と言われています。
最近でこそ、4K対応の超高解像度のPCなども増えてきましたが、旧タイプのPCモニターは低解像度のものが多く、紙と比べると画像や文字の視認性が劣ります。そのため、解像度の低い画面を意識して、掲載する画像の色味やサイズ、フォントの種類や文字の色を選ぶ必要があります。
モニターのほうが、色の再現性が高い
色の表現についても、紙とデジタルでは大きく異なります。
紙の印刷では、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の4色(CMYK)、デジタルはパソコンなどのモニターで表示されるR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の3色(RGB)が使われています。
デジタル(RGB)のほうが紙(CMYK)よりも再現可能な色が多く、特に鮮やかな蛍光色を自由に表現できるのが特長です。
情報の一覧性、網羅性が弱い
PCやタブレットは、資料を紙のように机一面に並べたり、紙面全体を眺めたりすることが難しいのも特徴です。そのため、資料全体を把握し、資料を並べて複数の情報を見比べたりする「網羅性」が弱いと言われています。
デジタルで確認しやすい資料を作るためには、いかに、この網羅性を高めるかが、視認性や可読性を上げるポイントになってきます。
上記の3つの点を踏まえて、デジタル資料の視認性や可読性を高めるため、どのような工夫ができるのでしょうか。まずは文字やテキストのレイアウトについて考えます。
解像度を意識して、線が太いフォントを使用する
紙の資料だと、長文を書くときのフォントに「明朝体」が広く用いられています。これは明朝体が長文を読んでいても目が疲れない、すなわち、可読性の高いフォントだから。しかし、このルールはデジタル資料になると少し変わります。
先に述べたようにデバイスの影響で画面の解像度が低くなるため、明朝体のような横線の細い書体はモニターによってはかすれがちになってしまい、読み手にストレスを与える「読みづらいフォント」になってしまいます。
デジタル資料では、モニターでも視認性の高いフォントを選ぶようにしましょう。多くの文書作成ソフトにインストールされているものでは、「ゴシック体」のような縦線も横線もしっかりとした太さのあるフォントの使用がベターです。
また、ゴシック体の中にも「◯◯ゴシック Light」といった線の細い書体が含まれていることがあります。この書体も、デジタル資料では読みづらい場合があるので、注意するようにしましょう。もちろん、いくらデジタル書類とはいえ、太すぎるゴシック体(◯◯ゴシック Boldなど)は長文にはおすすめできません。
また、強調したい部分や注釈で使いたくなってしまう「斜体」は、アルファベットでは良いものの、日本語の場合は文字が歪んでしまいます。可能な限り、使わないようにするのがおすすめです。
ユニバーサルデザイン(UD)フォントの使用も検討する
多くの人にとって読みやすく、読み間違いの少ないフォントとして「ユニバーサルデザイン(UD)フォント」が注目されています。これは、パソコンやタブレットなどのデバイスの影響を受けず、可読性や視認性が高くなるように意識して作られた「誰にとっても見やすい」フォントのこと。
Adobe Fontsなら「A-OTF UD黎ミン Pr6N」「A-OTF UD新丸ゴ Pr6N」のようにフォント名に「UD」と記載されたフォントがそれにあたります。Windowsに標準搭載のフォントやフリーで使えるUDフォントもありますので、興味のある方は探してみてはいかがでしょうか。
1行30文字で見出しはひと回り大きく、極端に短い行はNG
デジタル資料に限らず、1行あたりの文字数は30文字、多くても40文字が目安です。図版などが入って1行が短くなる場合であっても、極端に短いと帰って読みづらくなってしまうので、少なくとも10文字以上になるよう心がけてください。
また、資料内に見出しを設ける場合、そのテキストサイズは本文の110%〜120%(本文を10~12ptとした場合、見出しは11~15pt)を目安とすると、バランスが整います。
一方で、紙面全体のレイアウトや色の選択では、以下のような工夫ができます。
コントラストを意識して、黒ではなく「濃いグレー」に
PCの画面を見続けていると、目が疲れてきませんか。これは、紙と比べて背景の白と文字の黒のコントラストが強いことが原因です。
そこで、文字の色を「黒」ではなく「濃いグレー」にしてみましょう。そうすればコントラストも抑えられ、目の疲れもいくらか和らぎます。大手ニュースサイトでも、テキストが黒ではなくグレーになっているのはそのためです。
しかし、グレーの文字は紙面に印刷すると「色が薄くて読みにくい文字」になってしまいます。ですので、「絶対に印刷はしない、PC上でのみ確認する資料」に限定して使用するようにしましょう。
この「黒を濃いグレーにする」考え方は、資料内や図版の枠線など、文字ではない部分でも有効です。
彩度の高い色は避け、資料内で使う色は最大3色まで
デジタルは色の再現性が高いRGBを使用しているため、蛍光色なども選べます。しかし黒い文字と同様に、明るい色を使用しすぎると他の色とのコントラストが強くなり、目に負担がかかります。
可読性も落ちてしまうことになりかねないので、彩度が高い(明るく、鮮やかな)色を使うときは要注意です。色を使用する場合は彩度を落とし、落ち着いた配色でまとめると良いでしょう。
また、色を使いすぎるのも視認性や可読性を下げる原因になりますので、文字の色を含めて、1つの資料で使用する色は3色までに抑えるようにしましょう。
資料の枚数を意識せず、見やすさを優先する
覚えておきたいのが、印刷しない想定で制作するデジタル資料は、紙資料のように「限られたページ数のなかで資料を作る必要がない」ということです。
そのため、1ページのなかに無理やり情報を詰め込むことはせず、文字を大きくして一行の文字数を少なくしたり、余白を大きく取ったりといった、紙面とは別の方法から読みやすくする工夫をするようにしましょう。
たとえば紙の資料の場合、「紙面の文字量を増やしたいが、読みやすさも維持したい」というとき、紙面を左右に分け、文章を2段組で構成することがよくあります。
用紙1枚で資料をまとめたいときに用いられるデザインですが、これはデジタル資料には向いていないレイアウトなので要注意。資料の前半部に目を通したあと、続きを読むため下から上へとスクロールし、戻っていかないといけない構成がデジタル端末で確認するにあたって都合が悪いのです。
テキストは、階層とまとまり意識して組み立てる
多くの文書の中身をよく見てみると、第1の見出しが一番大きく、その中に第2の見出し、もっと小さな見出し……と、見出しによって本文内に「階層構造」が生まれているのがわかります。もちろん、見出しは階層が上に行けば行くほど文字が大きくなり、注釈などを除けば、一番小さな文字で書かれているのは本文です。
読み手に「このトピックに関する内容はここまでなんだな」、「この後はテーマが変わっているんだな」ということを無意識のうちに理解してもらうためには、この「階層」と「まとまり」を意識して、見出しを配置しなくてはいけません。
大項目の見出しは、ひと目見ただけでそうだとわかるように大きなフォントで、トピックが大きく変わるときは、項目と項目との間に大きなスペースを取る……といったまとまりを作る工夫が必要です。
また、本文中の重要な箇所を、テキストサイズを大きくしたり、太くしたりして目立たせようとすることがあります。しかし、強調したい箇所と見出しが同じ太さやサイズにしてしまうと、この階層構造が崩れてしまいます。読み手にとっては、どこが項目の始まりなのか、どこからどこまでが1つのまとまりなのかが直感的に分からなくなってしまうのです。
もし本文のテキストを強調したいときは、太字にしたり、色を変えたりといった、サイズを変える以外の方法を使用するようにしましょう。
ページ数が多いデジタル資料の任意の箇所をすぐ参照したい……という場合は、PDFデータ内に目次を設定しておくと便利です。
AdobeのInDesignであれば「目次作成機能」を利用できます。まずは「段落スタイル」から「大見出し(章立て)」に、作成中の資料の見出しに該当する部分を登録。そうすれば、あとは手順に従って操作し、最後に再び「大見出し(章立て)」を選択すれば、自動的に目次ができ上がります。
しかも目次に表示されている大見出しをクリックすると自動的にそのページにジャンブできます。デジタルならではの方法で、「網羅性」を高めることが可能です。
デザインは、見た目のかっこよさではなく、読み手に誤解を与えず、しっかりと内容(情報)を伝えるためにあります。つまりは、基本的なデザインルールを押さえたよい資料を作ることは、読み手に対する「思いやり」であり、「コミュニケーションマナー」です。
また、デザインルールは覚えてしまえば、試行錯誤する時間が節約でき、作業効率もぐっと高まります。企業ではデジタルやテクノロジーが欠かせないこの時代、身に付けておくと役に立つでしょう。
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取材協力:高橋佑磨さん(千葉大学大学院理学研究院)
研究活動および発表に必要なプレゼンテーションやプロジェクト申請などの資料作成に役立つデザイン情報を発信するWebサイト「伝わるデザイン」制作者。進化生態学の研究のかたわら、大学や企業などでデザインに関する講演を行う。著書に、『伝わるデザインの基本 よい資料を作るためのレイアウトのルール』(共著、技術評論社)。
(執筆:西谷忠和 編集:ノオト)
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