自社の発展に「線」で携わるインハウスデザイナーの仕事となり方、そのキャリアは?

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デザイナーを目指す人やデザイン業務に携わる人であれば、「インハウスデザイナー」という言葉を一度は耳にしたことがあるかと思います。

 

デザイン会社やフリーランスではなく、一般的な事業会社に勤めながら、社内でデザイン業務を行う担当者である「インハウスデザイナー」。その働き方や担当する仕事は、専門職のデザイナーとは違っている点がたくさんあります。その具体的な仕事内容やキャリアなどは、どのようなものなのでしょうか。

 

 

1. インハウスデザイナーとは?

2. 制作に「点」ではなく「線」で関わる事業会社のデザイナー

3. インハウスデザイナーになる道は?

4. インハウスデザイナーとして働くことのメリット・デメリット

5. インハウスデザイナーの「先」にあるキャリアは?

6. 会社のデザイン内製化は、Illustratorの導入から

 

1. インハウスデザイナーとは?

 

インハウスデザイナーとは、制作会社やデザイン事務所ではなく、制作を手がけることは少ない事業会社内でデザインを担当する人のことです。

 

制作会社(受託会社)のデザイナーは、主に「外部の企業から依頼された制作物」を担当する一方、インハウスデザイナーは「自社ブランドの制作物」を担当します。だからこそ、ある業務を外部企業にアウトソースせず、自社内で行なうことを意味する「インハウス(in-house)」の言葉を用いた「インハウスデザイナー」と呼ばれているのです。そのほか、「社内デザイナー」や「企業内デザイナー」と呼ばれることもあります。

 

1. 課題の提起

 

事業会社がインハウスデザイナーを採用する理由のひとつは、デザインの外注先に迷うことがなくなり、外注するよりも制作がスムーズに行えるからです。

 

会社としてデザインに注力したくても、外注すれば依頼先とのコミュニケーションや、細かいイメージのすり合わせにコストがかかってしまいます。また、「制作上のルール」などを理解してもらう時間がかかるでしょう。

 

たとえば、Webサイトや広告レイアウトなどのイメージに一貫性を持たせるため、デザインのトーン&マナー(トンマナ)を厳密に定めている会社があります。新しいデザインを作成するたびに別のデザイナーに依頼していたのでは、その都度、デザインのトンマナを担当者に説明しなければいけません。これでは、スピード感を持った制作が難しくなります。

 

一方、自社の社員であるインハウスデザイナーに依頼すれば、コミュニケーションもスムーズに行えます。制作上のルールなどもあらかじめ知っているので、理解してもらう時間も不要。その結果、自社のデザインルールを守りつつ、スピード感をもって制作を進めることができます。

 

ちなみに、インハウスデザイナーを採用したいと考える会社の多くは、デザインに対して理解のある、リテラシーが高い傾向があります。質の高いデザインを制作するには、デザイナーが時間をかけながら、会社の「理念」や「伝えたい想い」を汲み取らなければいけません。その重要性を理解しているからこそ、汲み取るための時間をかけやすいインハウスデザイナーの採用が必要になるのです。

 

 

2. 制作に「点」ではなく「線」で関わる事業会社のデザイナー

 

 

 

インハウスデザイナーになると、自社ブランドのデザイン全般を担当することになります。

 

たとえば、商品デザインだけではなく、自社で運営しているサイトの Webデザイン、ポスターやチラシなどのグラフィックデザイン、名刺や会社案内などのコーポレートアイテムのデザイン、ロゴ・マークのデザイン、自社商品のパッケージデザインなど、自社の業務領域が広ければ広いほど、担当するデザインも多岐にわたります。

 

このような仕事を担うインハウスデザイナーには、何年間もかけて1つの制作物に「線」で携われる、という特徴があります。

 

制作会社やフリーランスのデザイナーの場合、特定の企業の制作物に携われるのは、依頼を受けている一定期間のみ。いわば、それは制作物に「点」で携わる仕事です。一方、インハウスデザイナーの場合、「ブランドの立ち上げ」から「制作物の効果を確認する」、「見た人の反応を見て、デザインを修正する」、「リブランディングのデザインに携わる」まで、特定のプロジェクトに対して長期間に渡って関わることができるのは、インハウスデザイナーの魅力ともいえるでしょう。

 

そのなかで、自身もデザイナーとして成長していくことで、会社全体のデザインをレベルアップさせることも可能です。たとえば、最初は簡易なデザインだった自社サイトをよりクオリティの高いデザインに作り直していったり、デザインルールが定まっていないブランドイメージのトンマナを新しく定めていったりなど、インハウスデザイナーとしてデザインのスキルを高めていけば、そのスキルを活かして自社のイメージ変化に大きく貢献することができます。これは「デザインを育てていく」という感覚に近く、自社の評価を上げることにつながります。

 

4. 採用後のメリット

 

一方で、インハウスデザイナーは「事業会社の社員」として働くことになるので、デザイン以外の業務にも携わることもあります。

 

たとえば、社員数の少ない中小企業で働く場合、デザイン制作のためのスケジュール調整やカメラマンなど外注先とのやり取り、予算管理、マーケティングなどを任されることも。それだけではなく、電話応対やECサイトの広告運用、イベント運営など、制作以外の業務を担当する場合もあります。

 

制作会社と違ってデザイン以外の業務を担当することも多く、制作作業に集中できない場合がある一方、事業会社であるがゆえの、制作会社ではできない幅広い経験ができる場合もあります。

 

 

3. インハウスデザイナーになる道は?

 

 

インハウスデザイナーになるための方法は、主に2つあります。

 

1つ目は、美術大学や専門学校、職業訓練校などでデザインを学び、身につけたスキルを伝えるポートフォリオを作成した上で、インハウスデザイナーを募集している事業会社に応募する方法。2つ目は、制作会社やフリーランスを経て、デザイナーとしての経験を積んだあと、事業会社に転職する方法です。

 

別ルートでの経験をもとにインハウスデザイナーを目指すデザイナーの多くは、以下の理由からインハウスデザイナーへの転職を希望します。まずは、「制作物の効果を知りたい」という理由。先述したとおり、インハウスデザイナーとして働けば、1つの制作物に「線」で携わることができ、自分の制作したデザインの効果まで知ることができるのは、制作会社では得られない大きなメリットです。

 

そして、「無理のない働き方をしたい」という理由。働き方改革の影響で比較的改善されているとはいえ、複数の案件を担当し、たくさんのタスクをかかえる制作会社の仕事は依然として大変なもの。一方のインハウスデザイナーは事業会社のルールのもとで働くため、企業によって差はあるものの、制作会社とは違った環境下でデザインに取り組むことになります。

 

 

4. インハウスデザイナーとして働くことのメリット・デメリット

 

 

では、インハウスデザイナーとして働くことには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

 

メリット1:デザインを育てられる

 

継続して同じ企業のデザインに携わることで、制作したデザインの反応まで確認でき、「デザインを育てる」という概念が身につくことです。

 

たとえば、スマートフォンが登場したことで、パソコンだけではなくスマートフォンにも対応させたWebデザインが生まれました。また、プレゼン資料をデザインするにしても、プレゼンのときに見やすいトンマナに合わせていくことで評価されます。メディアやトレンドの変化のなかで特定の企業に携わり続けることで、デザインを育てていくことができます。

 

そのためにも制作物の反応を確認して、修正を繰り返す必要があります。制作物に「線」で関わるインハウスデザイナーであれば、それを実現しやすいのです。

 

メリット2:制作の幅が広がる

 

デザイナーの制作ジャンルを「Web系」と「グラフィック系」に分けて、さらに業務内容についても「デザインのみ」と「コーディングのみ」に分業化する制作会社があります。分業体制のなかで働いた結果、身につくスキルに偏りがでてしまう場合があります。

 

一方、分業化できるほどデザイナーがいない事業会社では、1人のデザイナーがすべての制作を担うことは珍しくありません。そのような環境で長年働くことによって、ジャンルに関わらず、あらゆるスキルを身につけることができ、制作の幅が広がるのです。

 

写真はまず見た目が勝負

 

メリット3:デザイナー以外の職種の考え方を知ることができる

 

事業会社にはデザイナーだけではなく、マーケターやカスタマーサポートなど、あらゆる職種の人が働いています。その人たちの「デザインに対する考え方」を自分のなかに取り込み、デザインに落とし込んでいくことも。

 

たとえば、取り扱う商材次第で訪問者が変わるECサイトには、訪問者に合わせたデザインが求められます。そのとき、訪問者の誘導に詳しいマーケターから「デザインに対するアドバイス」があれば、それを取り込みます。そのアドバイスとデザイナーとしての知識をもって制作を進めることで、より効果的なデザインになるでしょう。

 

メリット4:頼ってくれる「他業種の人脈」が生まれる

 

事業会社でデザイナー以外の人とつながることができれば、フリーランスになったときなど、つながりのできた他業種の人脈から仕事が生まれることがあります。

 

デザイナーに依頼することが滅多にない職種の人は、誰にデザインを依頼していいのかわからず、「デザインのテイストをよく知っている元インハウスデザイナーに依頼しよう」という流れになりやすいからです。

 

つづいて、デメリットは次のとおりです。

 

デメリット1:制作するデザインのテイストが固定されてしまいがち

 

制作会社で働くデザイナーは、あらゆる企業や事業のデザインに携われます。一方、インハウスデザイナーは自社ブランドの制作物だけを担当することになり、幅広いテイストのデザインを制作する機会はどうしても少なくなってしまいます。

 

デメリット2:デザイナー同士の横のつながりを作りにくい

 

デザイナー同士のつながりを持っていないと、デザインの流行や最新スキル、業務効率化の方法など、デザイナーとして知っておきたい情報をキャッチしづらくなります。また、制作で行き詰まったときやデザインをより良くしたいとき、身近に頼れる人がいない状況に陥りがちです。

 

つながりを自然に持つことは難しいので、デザイナーが集まる交流会やセミナーなどに積極的に参加するなど、自主的に横のつながりをつくることが求められます。また、課題にぶつかっても解決できるように、本などで勉強したり休日にも手を動かしたりするなどして、自主的に「デザインを学ぶ姿勢」が必要不可欠です。

 

デメリット3:社内スタッフのデザイン観に影響を受けてしまいがち

 

インハウスデザイナーのいる事業会社には、「デザインに対して身近に感じているスタッフ」が大勢いる印象があります。そういった人々の多様な意見を聞くことができる一方で、デザインに関わる多くの人の言葉に耳を傾けなければならず、思うような制作が行えないこともあります。

 

デメリット4:制作に集中しづらい

 

事業会社にはデザイン室がないため、インハウスデザイナーは他業務をしている人たちと同じオフィス内で制作することになります。「電話の呼び出し音」や「電話応対の声」などが聞こえてきて、それに慣れるまで制作に集中することは難しいでしょう。

 

また、使用するパソコンのスペックが不足していたり、デザインに使用したい有料フォントを使えなかったりすることがあります。そのとき、デザインをあまりよく知らない人を説得して、作業環境を整えることは大変になるはずです。

 

 

5. インハウスデザイナーの「先」にあるキャリアは?

 

 

インハウスデザイナーとして成長し続けた先には、あらゆるキャリアアップの道が開かれています。

 

その1つが、デザイナーとしてスタッフをマネジメントする立場になることです。デザインを重要視している会社は、デザイナーも大事にしています。そのため、ある程度のキャリアを積んだデザイナーはディレクターなどに昇格し、デザイン専門の部署のマネージャーとして、インハウスデザイナーが育つ環境づくりに注力するようになることもあります。

 

その写真で何を伝えたいか

 

または、「元デザイナー」として、自社の経営に携わる可能性もあります。「デザイン思考(デザインに必要な思考方法と手法を使って、ビジネス上の問題を解決するための考え方)」など、デザイナーとして身につけた視点には、経営に役立てられるものも。デザイナーとしてレベルアップできれば、企業イメージに影響するデザインの重要性が社内でより理解されるようになるでしょう。

 

さらに、インハウスデザイナーとしてデザインの基礎的なスキルを身につけたあと、フリーランスとして独立したり、制作会社に転職したりする道もあります。もちろん会社次第ではありますが、事業会社よりも制作会社などで働いたほうが、高いレベルのスキルが身につくこともあります。そのため、さらなるスキルアップのために、インハウスデザイナーから転職する人がいます。

 

また、インハウスデザイナーとして働くにあたって、いろいろな領域の制作に挑戦し、たくさんのチャレンジの場を求めるのであれば、さまざまな事業発展の可能性があるベンチャー企業に勤めるのも手です。

 

新しいサービスが次々と立ち上がるなかで、デザイナーにも、その都度新しい領域へのチャレンジが求められるのです。そこに携わることができれば、同じ期間でも別の環境より濃い経験をすることができるはずです。

 

 

6. 会社のデザイン内製化は、Creative Cloudの導入か

 

 

 

インハウスデザイナーは、制作会社などで働くデザイナーとは働き方や携われるテイストの幅が大きく異なります。インハウスデザイナーとして働くことの何よりの魅力は、1つの制作物にじっくりと携わることができ、デザインを育てていけることです。

 

「Adobe Creative Cloud」は、アドビのクリエイティブアプリをすべて利用できるクラウドサービスです。導入によって、ロゴや広告イメージなど幅広いグラフィックデザインに活用できる「Illustrator」や、印刷物やページ物に便利な「InDesign」、画像編集の初心者から上級者までが使用する「Photoshop」などがまとめて使用可能に。

 

Webサイトのデザインやプロトタイピングが行える「Adobe XD」も使用可能ですので、デザイナーとしての第一歩を踏み出そうと考えている方やデザインの内製を考える企業は導入を検討してみてはいかがでしょうか?

 

 

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取材協力:黒木大輔さん(BUROKI design)

フリーランスデザイナー。Webデザインからグラフィックデザインまで、幅広く手掛ける。2008年よりECサイトを運営するベンチャー企業にてインハウスデザイナーとして勤務、2012年より副業でデザイナーとしての個人活動をスタート。2019年からフリーランスデザイナーとして本格的に活動開始。

 

(執筆:流石香織 編集:ノオト)

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