Adobe Apollo mini Camp@Tokyo レポート
今月号の記事
2007年5月23日に日本で「Apollo mini camp」が開催されました。突然の開催だったことに加えて、まだパブリックアルファ版が登場したばかりの新しい環境にも関わらず、250名の募集枠がたった6時間で埋まってしまったことからも、日本における Apollo の注目度の高さが伺えます。そして実際に、2時間のセミナーは非常に内容の濃い、有益なものになりました。その模様を、参加された むらけん氏に寄稿していただきましたので、じっくりとお楽しみください。
なお、Apollo はその産声を上げる直前ということで、非常に活発な動きを見せています。6月11日には正式名称が「Adobe Integrated Runtime(AIR)」となることが発表*1。Flex 3 beta 版、Dreamweaver Extention、Flash Player 9 のベータ版が次々と Adobe Labs にアップされています。そして、待望の AIR パブリックベータ版のリリースも始まりました。
*1 「Apollo mini camp」では Apollo と呼ばれていましたが、正式名称の発表を受け、以下のレポートでは「AIR」と記述しています。
Web アプリケーションをデスクトップに展開する実行環境
米 AdobeSystems より、AIR 開発チームのシニアプロダクトマネージャーである Mike Chambers 氏、プラットフォームエバンジェリストの Dany Dure 氏が来日し、AIR のコンセプトをはじめ、機能概要、事例、今後の展望、流れなどが語られました。
まずは MikeChambers 氏が登壇し、「AIR が WPF(Windows Presentation Foundation)などと比較されるのは理解できるが、AIR は“Web アプリケーションをデスクトップに展開する”ことがコンセプトであり、開発スキルから考えて競合するものではない」と語りました。また、Web 開発のスキルさえあれば、特にそれ以外の新たな技術を覚えることなく開発が可能なことや、開発の方法を大きく分けると、HTML や JavaScript をベースに作成する方法と、ActionScript 3.0(Flash CS3、Flex 2)をベースとして開発する方法があるが、それぞれの技術が Web 以上にAIR上で親密に連携ができるこ とを強調しました。
では、早速 AIR の世界を覗いていきましょう。まず最初の事例として「finetune」( 音楽プレイリストの共有サイト)で配布されている AIR アプリケーションが紹介されました。
このアプリケーションを通じて、「ローカルの iTunes データにアクセスできること」「プレイヤーを Web ブラウザから切り離すことにより、ブラウザの状態に関係なく音楽が聴けること」「AIR は Web サイト用に開発したコードなどをある程度そのまま利用できるので、開発の工数削減も可能」「Web とデスクトップとの連動が可能」など AIR のメリットを語りました。
その後、色々な Tips も披露されました。AIR 内で Web サイトにアクセスしてページを表示するサンプルを紹介され、Adobe.com のトップページにアルファチャンネルや回転、ブラーをかける様が、Web ブラウザの GUI を好き勝手にいじっているようで斬新です。
同様の感じで、洗濯機のグラフィックの中に Google が表示されたものも紹介。洗濯機の中でグルグルと Google が回っていたのが、グルグルと Google をかけた Mike 氏のギャグだったのかどうかは定かではありませんが、会場からは笑いがこぼれるほど印象的なデモでした。他にも、Flash を一切使わずに Yahoo の Ajax ライブラリを使用したアプリケーションや、Google Maps と Flash を組み合わせた Web 上では実現出来ないアプリケーションなどが紹介されました。
AIR の開発スケジュールとして、2007年の秋〜冬にかけてバージョン1.0、Flex 3(Moxie)、アドビによる動画再生プレーヤーである Adobe Media Player (Philo) が続々と発表予定。ただしランタイムのインストーラなどは英語版の予定で、その辺りが日本語対応になるのは AIR 1.x となり、これは2008年早々くらいだろうとのことでした。
AIR パブリックベータにおける機能強化
次にプラットフォームエバンジェリストの Dany 氏が登壇し、社外での公表は初めてとなる AIR Pubic Beta の機能概要についてのデモンストレーションとなりました。Public Betaにおける追加機能として、
- Drag and Drop / ClipboardPDF Support
- HTML Transparency
- Native File Dialogs
- Multi-window
- Online/Offline, Service API
- File Icons
- File Extension Registration
を挙げ、AIR アプリケーション内に置いた HTML 情報を持ったボタンをドラッグし、FireFox にドロップすると Web ページが表示されるという、アプリケーション間でのドラッグ& ドロップのサポートや、PDF 書類をわずか数行のコードで AIR アプリケーションの中に表示させるようなサンプルのデモンストレーションを行いました。
最後の質疑応答で Mike 氏が再び登壇。筆者も折角の機会なので、以下のような質問をしてみました。
「開発者的には非常に魅力的なツールであることはわかりましたが、ランタイムが Flash Player のように、エンドユーザーに行き渡らないと当然クライアントに勧めづらいことになってしまいます。その辺りで何か作戦はあるのでしょうか?」
対して Mike 氏は「まだ話せない部分も結構ありますが、例えばランタイムとアプリケーションをパッケージ化して配布するようなことは考えています。」 とのこと。
他にはセキュリティ対策、ランタイムの拡張、AIR はサーバになれるのか? などの質問が飛び交いました。
このように、あっという間の2時間でしたが、AIR がとにかく期待以上で、終始ワクワクさせらました。既存の Web スキルで、Web と連携したデスクトップアプリケーションが作れるようになるわけですから、制作の幅や可能性がグ〜っと広がります。
開発者達に聞く「AIR に対する期待」
「私の場合、1日中タブブラウザで開いたままにしているサイトがいくつかあります。そんな“ちょっと非効率だけど、まぁいいや”的な Web スタイルが、AIR をきっかけに変わるか。どれだけ効率良くなるのかが楽しみです。また、私の両親のような PC 初心者でも、導入しやすく、操作もしやすい Web 体験フローを作れる可能性があるので、UI 提案者の立場からも興味深い。Flash 制作の視点としては、Web サービスとのゲートウェイとしての AIR だけではなく、自分を含む、絵を動かすことから Flash を始めたクリエイターも楽しめるような提案が出てくるかどうかに興味があります」(trick7/tera)
「Flash、Flex、Dreamweaver などの、違う手段を使う制作者が同じ土俵で異種格闘技戦のようになるのが単純に楽しみです!」 (taka:nium)
「ウィジェット開発環境と誤解されがちだけど、今後、AIR を使ったアプリケーションがどんどん出てくる予感がする。Windows でも Mac でも動いて、開発も簡単。開発者にとってこんな魅力的な環境は他にはない!」(てっく煮/ にとよん)
「搭載されるドラッグ&ドロップ機能に期待しています。Web ブラウザを開いて更新することを一気にシンプルに。まるで郵便ポストに入れるだけで配達されるかのように。そんなツールを制作したいですね」(田中正吾)
ブラウザ上で活躍してきたクリエイターが、デスクトップアプリを作るのは難しいという先入観から解き放たれ、ローカルファイルアクセスをはじめとする新たな武器を手にした今、デスクトップにイノベーションが巻き起こると思います。(void element/munegon)
このように、皆さん非常に期待しているようです。筆者に関しては Flex Builder 2 は利用しないというスタイルでしたが、この「Apollo mini camp」の後に Flex Builder 2 を導入してしまったほどです。AIR が本格的に動き出す2008年には、新しい Web 体験が始まることは間違いないでしょう。
Flash Creator/Web Design&Program/Hair
Adobe Official Flash ユーザーグループ[F-site]運営スタッフ。
最近はPapervision3D、Gainer、AIR 辺りを研究し、毎晩渋谷ティップネスで、AIR のTシャツを着てウェイトトレーニング中。